第11話 収束

 学校のアイドル楠葉くすば江莉香えりかの正体は星剣エクスカリバーであった。

 その事実にまだ頭が追いつかない。


『ごめん、雨宮くん。まだビックリしてるよね』


「うん、夢なんじゃないかって思ってる」


『詳しいことは後で話すよ。だから今は私を使ってアイツらを倒して!』


「……わかった!」


 まだ困惑しているけれど、今はやるべきことがある。

 それにこんな俺にもいつも優しく接してくれた楠葉さんの、エクスカリバーの言うことならば信じられる。


「それじゃあ力を貸してくれ、エクスカリバー!」


『うん!』


 星剣は手にしたものに人智を超える力を与える、それはティルヴィングもエクスカリバーと同じ。

 今の俺はあらゆる能力が強化されている、Sランクモンスター程度なら相手ではない。


『大丈夫。あれはガーゴイル、Bランクのモンスターだよ』


「なら問題ないな!」


 先陣を切って襲いかかってきた個体を一振りで両断する。

 使い勝手はティルヴィングと何も変わらない、少しこちらの方が軽くて振りやすい気もする。


『さすが、使い方に慣れてるね』


「ははっ、最初は苦労したけどね」


 今の脚力なら向こうが空を飛んでいようと関係ない。

 こちらから距離を詰めて一撃で仕留める、と同時にその身体を足場にして次の個体を討つ。

 空を飛んでいるから一方的に攻撃できると思っていたのなら大間違いだ。


「ギァァァッ!」


「ギュォォッッ!」


 一度に10体くらいは倒しただろうか。

 この調子ならすぐに終わると思っていたのだが、突然一匹のガーゴイルが叫び声を上げた。

 するとそれに呼応するように周りも声を上げ、空中で隊列を組む。


「かなり賢いな、何かしてくる気だな」


『雨宮くんは魔法は使える?』


「得意ではないけど、まあ最低限なら」


『だったら私に魔力を集中させてみて』


 エクスカリバーに言われるまま、そこに魔力を集める。

 すると刀身全体が光に包まれ、間合いが大きく伸びた。


 これなら地に足をつけていても攻撃が届く。

 それどころか隊列を組んで固まったガーゴイルなど格好の餌食だ。


「コイツを喰らえ!」


 閃光の刃は虹のアーチを描き、空にいたガーゴイルを殲滅してしまった。


「すごい……」


「た、助かったの?」


「さすが雨宮!信じてたぞ!」


 モンスターがいなくなったとわかった途端、校舎のほうから歓声が聞こえる。

 だが俺の意識は別のところにあった。


「頼む、もう少し力を貸してくれ」


『わかってる、妹さんが心配なんだよね?』


 あのモンスターがどこから現れたのかはわからない、その特定や原因の対処は専門の冒険者に任せればいい。

 最大の問題は空を飛ぶモンスターが現れたということ。

 被害はここだけでなく広範囲に及ぶ可能性が高く、もしかしたら美沙も今窮地に陥ってるかもしれない。


 学校の場所はわかっている。

 俺は星剣によって得られた力を最大限に発揮し、美沙の通う中学校へと向かった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 やはりというべきか、モンスターの被害は周辺一帯に広がっていた。

 そこかしこで派遣された冒険者とモンスターが戦っていたり、激しい戦いが繰り広げられたであろう破壊の跡が残っていたりしている。


 移動しながら横目に見ているだけだが、事態を沈静化させるにはまだかかりそうだ。


「頼む、無事でいてくれ」


『大丈夫、きっと無事だよ』


「ありがとう。あと少しで着くはずだ」


『……気をつけて、少し様子が変だよ』


 エクスカリバーの言う通りであった。

 先ほどまでは戦いが起きたと一目でわかるような光景が続いていたのだが、中学校に近づくにつれていつも通りの光景に戻っていく。


 それは本来良いことのはずなのだが、今においてはやけに不気味に思えた。


『そこ!モンスターの気配!』


「見つけた!」


 通学路を進むのはAランクモンスターのミノタウロス。

 こんなのを美沙の元に行かせるわけにはいかない、俺はすぐさまエクスカリバーを振りかぶったのだが。


「あれ?」


 それを振り下ろすよりも先に、ミノタウロスの身体は霧になって消えてしまった。


「一体誰が?」


「お兄ちゃん!」


 霧を超えて胸に飛び込んできたのは美沙。


「美沙!無事だったのか!」


 美沙を思い切り抱きしめる。

 どこを見ても怪我はない、そこらじゅうにモンスターがいるような地獄だったがなんともないようだ。


「良かったね、雨宮くん」


「ああ。ありがとう、楠葉さんのおかげで美沙に会えた」


「いいよ、お礼なんて。私も妹さんが無事で本当に良かった」


「お兄ちゃん、お礼なら翼さんにも言わないと。私が無事なのは翼さんのおかげなんだから」


「えっ、翼が?」


「まさか我に気づいていなかったのか?」


 顔を上げるとその奥には翼が立っていた、どうやら美沙に夢中のあまり気づけていなかったらしい。


「げ、貴女は……」


「なっ、なぜ貴様がここにいる」


 そして互いに顔を合わせた途端、翼と楠葉さんは明らかに嫌そうな顔をした。


「知り合いなのか?って、星剣同士だから当たり前か」


「別に全ての星剣が互いを知ってるわけじゃないよ」


「コイツとは面識がある、というだけだ。不本意なことにな。それよりもなぜ貴様が凰真といるのだ」


「なぜって、私が凰真くんのものになったからだよ!」


 そう言いながら楠葉さんは俺と腕を組んできた。

 あれ、こんなキャラだったっけ?なんか変わってない?

 しかもそれを見た翼は明らかに不機嫌になっている。


「どういうことだ、凰真……納得のいく説明をしてもらおうか」


「いや、本当にたまたまというか……元々クラスメイトだったけど星剣だってことは知らなくて」


「今までは隠してたからね。でも少なくとも翼より付き合いは長いよ?」


「なるほど、我に喧嘩を売っているわけだ」


「お、おい!ちょっと待てって!」


 一触即発のピリピリとした空気が流れる、二人は色々と因縁のある関係らしい。


「そもそも前から貴様のことは気に食わなかったのだ」


「それはお互い様、それより凰真くんに近づいて、何が良くないことでも考えてるんじゃないよね」


「お兄ちゃん!」


 二人をどうしたら良いのかとしどろもどろになっていると、美沙が俺を呼ぶ。


「助けに来てくれてありがとね!」


 それから満面の笑みを浮かべてそう言ったのだ。

 それだけで全てが報われたような気がした。


「ははっ、どういたしまして。改めて翼も楠葉さんも、本当にありがとう」


「礼など要らぬ、美沙に死なれたら困るのでな、当然のことをしたまでだ」


「そうそう、それよりこれからよろしくね!」


 後から聞いた話だけれど、今回のモンスターによる侵攻は広範囲に及びつつも、多くの冒険者の活躍によって被害は最小限に抑えられたらしい。


 そしてこの一件によって二人目の星剣、エクスカリバーこと学校のアイドル楠葉江莉香と契約を交わしたのであった。

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