幻鳥
陸造
第1話
「僕は子供の頃からこの1枚の鳥の羽を大事に持っていてね」
「今日に至るまでずっと追いかけてきたんだが、もう諦めようと思う」
「なぜか?って、もう歳だからさ」
「やっぱり老いには勝てないよ。足腰が弱ってしまって...」
「この体で追いかけるのは無理だ」
「ここで諦めてしまって良いんですか?」
「本当に悔いはないんですか?人生の最後に後悔しないんですか?」
「僕は諦めてほしくありません。最後の最後まであなたには現役でいてほしい。そう思って来ました。」
「私はあなたの書いた冒険自伝を読んでずっと憧れていたんです」
「もう一度だけ、探しに行きませんか?あなたの追いかけた伝説の幻鳥を」
街の港。大きな船が何隻も並んでいる。1人の老冒険家と大陸で働きはじめたばかりの新人記者が中規模な船を見上げている。
「マルク、どうやってこの船を用意したんだい?」
「実は私の叔父が造船会社をやっていまして、船を貸して頂きました」
「そうか、叔父さんに礼を言っておいてくれ」
「しかし、船は借りられたのですが、船乗りがいません」
マルクはしょんぼりとした表情で言った。
「それならば、労働市場で人を雇おう」
「私が行ってきましょうか?」
「いいや、一緒に行こう。乗組員は自分自身の目で判断したい」
マルクと冒険家は労働市場に出向く。労働市場と言っても、単なるエリアの名称であり、主に酒場が多く集まっている場所である。
エリアの中央には噴水がある。また、地下には、奴隷市場が存在するがこの話には出てこない。
マルクと冒険家はエリアの適当な酒場に入った。中には暇を持て余した多くの男たちが昼から酒を飲んでいた。記者と冒険家は、テーブルで1人で飲んでいる男に話しかけることにした。
「なあ、あんたここら辺でいい船乗りを知らないか?」
「あんた、誰だ。まず名前を言えよ」
(かなり酔っているな。面倒だ。)
「ああ、すまない。私はレプトンというものだ。冒険家をしている」
「で、あんたは?」
「記者をやっています、マルクです」
「ああんっ、記者!?どこの新聞社だ?」
「商経新聞です」
「商経新聞だと!?俺はこの前の記事のせいで商売上がったりなんだ!」「どうしてくれるんだこの野郎!」
「そう言われましても...、事実に基づいて記事を作っていますので」
「なんだとこの野郎!」
「まあまあ、落ち着いてくれよ。こいつはまだ新人なんだ。あんたの言う記事だって多分こいつが書いたわけじゃないと思うんだ。なあ、そうだろう」
「ええ、私は中小企業担当の記者ではないので、違うと思います」
「一杯奢るからさ。良い船乗りがいないか教えてくれよ」
「...わかったよ」
酒場の客は気だるそうにしながら、ビールを頼んだ。すぐに店員がビールを持ってテーブルに運んで来た。
「こちら、当店自慢の生ビールでございます。ごゆっくりどうぞ」
「ああ、ちょっと待って、この人たちにも生ビールお願い!」
「え、僕たちはいらないですよ。第一僕はお酒が苦手なんです」
「俺だけ酔っていてもつまらねぇじゃねえか。いいから飲め!」
酒場の客に強引に丸め込まれたマルクは不満そうにため息をついた。
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