ラスボスからはじまる最強伝説
巨豆腐心
第1話 転移者の悲哀
転移者の悲哀
ガンッ! バキッ‼ グチャッ‼
蹴り上げられ、右の大腿骨からつま先の指まで、すべての骨が砕け、内臓も衝撃によっていくつかつぶされた……。
落雷にでも打たれたような激痛が脳内を直撃する。目がかすみ、意識が飛びそうになった……。
でも、気絶することすら赦されない。すぐに手首をつかまれ、振りまわされた挙句に大きく投げ飛ばされた。
岩でごつごつした壁に背中から激突し、折れた肋骨が薄っぺらい胸板を突き破って飛びだしてしまう。
出血も止まらず、口からも血を吐いた。
死ぬ……。
薄れ行く意識の中で、そう感じた。
もう何度目だろう……? それすら憶えていないけれど、勝てるはずがない相手と戦い……戦いにすらなっておらず、その度にボロボロにされる。
目の前にいるのは、頭から何本も角を生やした、筋肉質で大柄な魔人――。
否、…………魔王か?
膂力に秀で、魔力量はカウントすらない無限、魔法もいくつ使えるのか? 数えるのも億劫なほど……。
そんな強力な魔王が魔法も、力すらもたない、ただの一般人であるボクを嬲り殺すのだ。
それは塵埃を払うより簡単で、コバエを叩きつぶすほどの価値もないことだった。
異世界に転移する――。
誰もが憧れ、一度は夢見るシチュエーションだろう。
でも、転移者が誰しも〝はじめての村〟に到着し、チュートリアルをうけ、弱いモンスターと戦うところから冒険をはじめられる……わけではない。
召喚されたのなら、魔法陣の中……という安全地帯からスタートすることができるかもしれない。
でも、無分別な転移の場合、いきなり燃え盛る火で焼かれたり、水に溺れたりする者だっているだろう。
偶々、ボクの転移した先が、魔王の目の前だっただけのこと……。
ここは洞窟を掘り抜いたような場所である。壁に備えられた魔法石のようなもので照らされ、昼間のように明るいけれど、風がほとんどないために冷涼な空気が滞留しており、身を凍えさせる。
もう服なんてボロボロで、端切れが身体にまとわりつくのみ。
でも、今ボクが感じている寒さは、きっと血液が足りなくなってきたことで感じるものだ。
虫の息――。
もう死へのカウントダウンがはじまっており、愈々〝永遠の安らぎ〟のときが訪れる……はずだった。
「エクストラヒール」
魔王がそう唱えると、ボクは復活した。
体力ばかりか、負った怪我も全恢復させるほどの、強力な回復魔法――。
死んだ者すら蘇らせる、究極の魔法だ。
でも、魔王が慈悲や憐れみで、ボクを復活させたのではない。
死んでも、死んでも、死んでも……何度も蘇らせ、何度も痛めつけるという拷問のため、だ。
まさに、地獄の責め苦――。
「いつまで……つづける気だ?」
瀕死の状態で喘ぎながら、ボクは魔王にそう訊ねた。
立ち上がることすらできず、横たわったまま見上げるボクの顔を踏みつけながら、魔王は語った。
「転移者は弑殺す。だが、すぐには殺さん。生きることすら厭うほどの激烈な苦痛を与え、魂ごと滅する……」
どうやら、相当の恨みがあることが感じられた。
でも、すべての転移者が魔王に敵うほどの能力、特別なスキルや魔法などを与えられ、転移しているのだろうか? ではナゼ……ボクにはそれがないんだ?
本当に何もない、ただの一般人――。
そんなボクを、魔王は甚振りつづける。抵抗することすら不可能な、最弱の相手であるのに……。
これは、そんな無間地獄から異世界生活をスタートさせた、ボクの物語だ。
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