第32話 大聖堂

今日はグリーン治療院はお休みの日。朝、アリスから声を掛けられた。


「一緒に行って欲しいところがあるんだけど」


珍しくアリスからお願いをされる。アリスはぼくに遠慮をしているのかあまりお願いをしてこない。でも今日は何かあるみたいで。


「個人的な用があるの。大聖堂に一緒に行ってほしいんだけど・・嫌だよね?」


「え?大聖堂ってあの?」


「それと、グリーンは大聖堂にはでいいのよね?もし行く気があるのなら話が変わって来ちゃうから・・」


「ああ、うん。断ろうと思っていたよ」


「良かった。ちゃんと話が出来そうだわ」


大聖堂は意外と近くにあった。てっきり首都レーベンにあると思っていたけど。馬車で半日で到着した。ぼくは信心深くないから全く知らなかったのだ。


「昔から神殿があるからこの場所らしいわ。不便だから、レーベン王は場所を移したがっているけど・・神官が反対しているんですって」


自然はあるが何もない場所。生活するのは大変そうだ。以前はここが栄えていたのだろうか。その建物は神殿の隣に作られていた。


「さすが、でかいな」


教会と比べ物にならないくらい大きい。それでいてへんぴな場所なのに人が大勢いる。信者さんだろうか。馬車も定期的に走っているみたいで、交通の便は悪くなさそうだ。


「裏口から入るわよ」


「もう関係者じゃないんだろ?いいのか?」


「何言ってるの、誘われたでしょ。関係あるじゃない」


アリスは広い建物をぐるりと回り、裏のドアをノックする。


「すみません。アリスです」


「あ、はいお待ちください」


中からカギが開けられて、ドアが開かれた。


「あれ?最近辞められたと聞きましたけど」


「今日は大神官さまに、そこのグリーンが用があるとお伝え願えますか」


「では、中に入ってお待ちください」


ぼくとアリスは大聖堂の中に通される。来客用の部屋の一室に。中は教会と思えないほど、豪華な椅子や調度品が飾られていた。流石に王城には劣るけどそれでもかなり豪華だった。


「うわぁ、ここ凄いな・・」


教会ってお金が無いイメージだったけど、ここは違うのかな?ぼくらは豪華な長椅子に腰掛けて待っていた。


「お待たせいたしました」


思っていたよりも早く大神官が姿を見せた。


「さて、今日はどんなご用事で?前回の事は検討して頂けましたか?」


にこやかに話す大神官。ちらちらとアリスを見ている。


「誘われて有り難いのですが、ぼくには身に余るお話で、お断りしようと思いまして・・申し訳ないのですが」


ぼくは努めて冷静に言葉に出した。こいつやっぱりアリスの事・・。


「それとは別に、私からも一言良いですか」


アリスが切り出した。


「アース様、もう付きまとうのは止めて頂けませんか?私はグリーンが好きなので貴方の思いを受け入れることは出来ません」


そう言うと、アリスは隣に座っているぼくの腕を掴んだ。


「そうですか・・残念ですね。わたしと一緒になればお金に困る事は無いと思うのですが。将来安泰ですよ?・・それと付きまとっていないでしょ?今は」


「誰だか知らないけど、見張りつけてますよね?迷惑です」


ええ?いつの間にそんな事されていたの??


「ああ、心配でしたからね。貴方が。悪い男に騙されないか、心配で心配で」


なんとなく、大神官の性格が分かってきた気がする。


「なのでアース様、金輪際こんりんざい来ないで頂けますか。では、失礼します」


アリスはそう言うと、スッと立ち上がりスタスタと出口に向かって行ってしまった。ぼくは慌てて追いかける。


大神官が去り際、ぼくを見て笑った気がしたのだが気のせいだろうか。

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