第29話 三人の勧誘
カランカラン・・。
ドアが開いた。丁度お客様が途切れて、お昼休みをしようかと言っていた頃。
「ここにグリーンくんはいるかね?」
初老の男性。茶色の髪に白髪が目立つ。何処かで見たことのある人、誰だっけ?
「ぼくですけど・・?」
「今更で申し訳ないのだが、グラス村に戻ってもらえないだろうか?」
杖をついた初老の男性が、急に両手を合わせてきた。え?村?もしかして。この人は村の人なのか?生まれ育った、グラス村。最近は忙しくてすっかり忘れていたけど。
「わしは、村の代表としてここに来た。君のお父様は立派な方じゃった」
思い出した。父が生前生きていた頃よく家に来ていた人だ。確かネイビスと言っていたっけ。ぼくは直接話をしたことはなかったけど。
「虫のいい話だと言うのはわかっておる。追い出されたとき気づいてやれなくてすまんかった。どうか村を助けると思って・・」
村を助ける?何かあったのだろうか。
「どうしたのですか?ぼくがいなくても、村は十分やっていけるでしょう?ぼくはまだ15歳で、まだまだ子供ですよ」
村は昔から果実で生計を立てている村で、特に貧しくは無かったはずだ。ネイビスはぼくに頭を下げた。
「最近は若者離れが酷くてのう・・村おこしの為に、この店を移転してくれないか」
この町でぼくの店は有名になっていた。噂はグラス村でも広がっていたらしい。そっか、何か裏があるとは思っていたけれど。
「「ちょっと待った!」」
外から声が聞こえてきた。ドアを開けて入ってきたのはガタイの良い男性。
「グリーンはこの町の英雄だ。町から出すわけにはいかない。ぜひ冒険者ギルドに来てもらいたい!」
30代くらいに見える男性は、
「俺はラオ、冒険者ギルド長をしている。今まで冒険者たちがグリーンの回復魔法に世話になってきたからな。ギルドでは高額の報酬を約束しよう」
ラオは腰に手を当てて、ぼくににやりと笑いかける。
「ちょっとお待ちください」
またしても声がかかる。外にはいつの間にか馬車が停まっていて、華奢な男性が降りてきた。
「「大神官様!」」
大神官と呼ばれた
「おや、アリスさんじゃありませんか。教会を辞めたと思ったらこちらにいたのですね。また後でお話ししましょう。さてグリーン様は、是非我が大聖堂にいらっしゃるのが一番かと思われます。魔法での大活躍もお聞きしておりますよ。いかがですか?」
大神官はアリスを見て微笑んでいる。
以前、教会でエリアヒールを使ったことが伝わっていたのだろうか。シルビアに聞いたところ、あれは国宝級の魔法で現在使える人はいないらしいのだ。うかつに使う魔法じゃなかった。
「何なんだ・・一体・・今日は・・」
一人を相手にするのも大変そうなのに、同じ時間に三人も一気に押し寄せてくるなんて。
「なんか頭痛くなってきた・・」
今日は一体何だろう。
「グリーンは体調が悪いようなのでお引き取り下さい」
アリスが営業スマイルで微笑んだ。
「え?ちょっとアリスさん・・まだお話が・・」
「年寄りを追い出すでないわ」
「この女意外と力が強いな?」
アリスが店から、三人を力ずくで押し出した。普段、畑仕事をやっているから華奢の見た目の割に腕力が結構あったりする。
シルビアが慌てて、ドアを閉める。ドアには休憩中の札をかけた。
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