第11話 それぞれの思惑

ここはミルドス町の治療院。

わしは院長のリグルスだ。希少な回復魔法を使える。

最近、隣町ガラの教会で安く治療しているという噂を聞いた。まさかそんなことあるはずが無いと最初は放っておいたのだが、気のせいか暇になってきた気がする。


回復魔法の使い手は、大聖堂か王城にしかいないはずだ。まれに冒険者などにいるようだが。部下に調べさせたところ、ヒールだが傷が残らないくらいにキレイに治るという。同じヒールでも使い手によって傷の治り方が変わるのだ。


聞くところによると、まだ若い少年がやっているらしい。なので、有名になる前に潰しておいた方が良いと思った。放っておいたら、わしの店が儲からなくなってしまうどころか客をごっそり取られかねない。


最初は噂を流してみた。しばらくすれば潰れると思ったが、意外にしぶとかった。次に部下に不審に思われないように殺すよう命令した。


「なに?まだ生きていると?」


雇っている冒険者に、上手く始末しろと言ったはずだが。失敗したらしい。


「どう致しますか」

「・・・・。」


また直ぐに動けば不審に思われる。今は動かないほうが良いだろう。悪事がバレたらこの店もお終いだからな。



*****



「レーベン王城の使い?」


休養中に、手紙を持った使いの人が教会に現れた。

手紙を受け取り、蝋封ろうふうを開けてみるとなんとレーベン王城からの招待状だった。


「それで何だったの?」


「王女様から・・お城に来てくださいって書いてある」


「はぁ~またグリーンばっかりね。まあいいけど」


「でも着ていく服が無いよ」


「あ~確かにね。ねえ!私も行っても良い?」


「え・・どうだろう。招待されてるのぼくだけだし」


「でも私がいなかったら、今のグリーンはいないよね?」


まあ、確かに。そうかもしれない。


「じゃあ、聞いてみるよ。返事の手紙を書けばいいのかな?」



****



レーベン王城にて――。

わたくしはふかふかの椅子でくつろいでいた。


「興味深いわね。招待されたら喜んで直ぐに来ると思っていたけれど・・。彼女?も一緒に行って良いかと書いてくるなんて・・よほど、自信があるのかしら、それともバカなんじゃないかしら」


わたくしは、手紙をつまんでぶらぶらさせていた。


「姫様。そのような下品な言葉を使っていけませんよ。もうすぐ15歳になられるのですから・・」


「もう、分かりましたわ。気を付けます」


わたくしはレーベン国の王女、パトリシア・フォン・レーベンハイツ。銀色の髪に縦ロールの髪がくるくる巻いていて、瞳は澄んだ空の色をしている。


最近町で珍しい少年がいると聞いて、興味を持った。貴重な回復魔法を使えるらしい。是非あって話を聞いてみたい!先ほど、専属護衛のロイドに苦言を言われてしまったけど他の人の前ではこんな言葉遣いしないのだから、少しくらい良いと思う。


「相変わらず、厳しいわね。ロイドは」


歳が若い割に固いのよね。もっと柔らかくなっても良いと思うのだけど。



*****



ぼくとアリスは、ガラ町に二人で買い物に来ていた。王城に行くのに着ていく服を買うためだ。アリスはぼくの隣を歩いていて、いつもより少し距離が近いような気がする。


アリスは見慣れた修道服ではなく、水色のワンピースを着ていた。スカートの裾が風で揺れて、フリルが見え隠れしている。金色の髪は布で後ろに結われていた。ダークグリーンの瞳はぼくをじっと見つめている。


普段と違うアリスの姿に、ぼくはドキドキしていた。思わず目を逸らしてしまう。


「どうしたの?服装おかしいかな」


「いや…」


ぼくは頭をいた。

今日のアリスはめちゃくちゃ可愛い。


「似合ってるよ…か、可愛いと思う…」


「そ、そっか。ならいいけど…」


顔が熱くなるのを感じた。いつもは修道服を着て出かけるのに、今日はどうしたんだろう。ぼくはアリスを意識してしまっているようだった。

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