第18話

 リリィの工房で彼女の打った武器の素晴らしさを知った俺は、次の課題に直面していた。異世界での通貨を持っていないということだ。


「リリィ、君の作った武器は本当に凄いな!」

「でへへ! そっ、そんなに褒めていただいても! もう、一晩中武器について語るしかできませんよ!? 夕食、食べて行きますか??」


 チョロいな! リリィは警戒心が無さすぎるな。


「うーん、それはまた今度で、この武器を購入したんだけど、俺はこの世界の通貨を持っていないんだ。どうやって手に入れればいい?」

「ふぇ? 買ってくれるんですか?!」

「売り物なんだよな?」

「それはそうですけど……正直に言います。私は鍛治師としては、匠師しょうしでしかありません」

「匠師?」

「そうでしたね。漂流者さんでした。我々、鍛治師にはクラスが存在しているんです」


神匠しんしょう:最高位。伝説的な技術を持ち、神々や王族に献上する武具を作るとされる。神話に登場するような武具を打つことができる。


古匠こしょう:神匠に次ぐ位。非常に高い技術を持ち、その作品は世界中の貴族や王族が求める。卓越した美しさと機能性を兼ね備えた武具を作る。


錬匠れんしょう:熟練した鍛治師であり、多くの弟子を持つことができる。貴族や高位冒険者の依頼を受けることが多い。錬金術的な技術も駆使して特別な武具を作ることができる。


匠師しょうし:鍛治師としての技術が完成されていると認められた位。通常、ギルドの中核として活動し、多くの依頼をこなす。特殊な素材や魔法効果を付与する技術にも精通している。


上鍛じょうたん:技術が非常に高く、特殊な依頼にも応じることができる。特定の分野で専門的な技術を持ち、その分野では他に並ぶ者がいないとされる。


鍛匠たんしょう:一人前の鍛治師として認められる位。通常の武具だけでなく、カスタム品や特殊な依頼にも対応できる。独自のスタイルを持ち、一定の顧客を抱えている。


熟鍛じゅくたん:中堅の鍛治師。基本的な武具や防具の製作に精通しており、品質も高い。安定した技術力を持ち、依頼主の要望に的確に応えることができる。


鍛工たんこう:鍛治師としての基本技術を習得しており、日常的な武具の製作を行う。経験を積むために多くの実践をこなす時期。


鍛習たんしゅう:修行中の鍛治師。基本的な技術を習得し始めており、指導者の下で様々な武具を作ることで技術を磨く段階。


見習い《みならい》:鍛治師の道を志す初心者。道具の使い方や基礎技術を学び、見習いとして指導者の下で基礎を固める。


「つまり、リリィはまだ修行中の身ってことか?」

「そうです! ですから、私が作る物は完璧ではありません。それでも500万ギルはします。良いのですか?


 うっ!? やっぱり五億の価値がある商品だからな。

 業物というぐらいだから高いんだろうな。


「ギル?」


 俺はお金の価値が理解できなくて、首を傾げてしまう。


『通貨の価値は同じで考えて問題ありません。だいたい500万で買えるそうです』


 えっ? 全然高くないだろ。


『この世界で500万は10年は働かなくても暮らせる価値があります』


 なるほど! 物価の違いというやつか……。


「この街では通貨として『ギル』が使われています」

「ギルが通貨単位ってことだな」

「はい。ユウさんがギルを手に入れるためには、冒険者ギルドに登録して依頼を受けるのが一番手っ取り早い方法です。漂流者の方は、この世界では身分証がないので、まずは登録が必要です。また、森で私を助けてくれたように、魔物を倒して、その素材を売ることでギルを手に入れられます」


 なるほどな、漂流者はチート能力で、強いということか。


「まずはギルを稼ぐために、冒険者ギルドに行ってみるか」

「何かと常識がわからないと思うので、私も一緒に行きますよ!」

「いいのか?」

「はい! ユウさんのお世話をしたいんです」

「ありがとう。助かるよ!」


 リリィは命の恩人ということで、何かと親切にしてくれる。


 冒険者ギルドへと向かい、歩きながらドワーフの常識を教えてもらう。


「ドワーフは、自分の仕事に誇りを持っており、生活も自分の作品を作ることに全てをかけているんですよ」

「なるほど、生まれながらの職人気質tいうことか?」

「そうです!」


 リリィは職人らしいシンプルな服装に三つ編みをしており、鍛冶師としての落ち着いた雰囲気を漂わせている。


 一方で、街を歩くドワーフたちもそれぞれ個性的な装いをしており、ドワーフの文化が色濃く反映されていることが感じられる。


 冒険者ギルドの建物は他の家よりも少し大きく、賑やかな雰囲気が漂っている。


 入り口には冒険者たちが出入りしており、受付には忙しそうなスタッフが対応していた。ギルドの外観は石造りで、頑丈さを感じさせる。


 入り口にはギルドのシンボルマークが掲げられており、一目で冒険者ギルドと分かるデザインになっていた。


「いらっしゃいませ。何かお手伝いしましょうか?」


 受付の女性が笑顔で迎えてくれる。

 その瞬間、リリィが驚いた声を上げた。


「エルナ?! なんでここに?」


 エルナと呼ばれた受付の女性はリリィを見ると、驚いた表情を浮かべた。


「リリィ?! 久しぶり! まさかこんなところで会うなんて」


 エルナはリリィと同じくドワーフだが、彼女は垢抜けた服装をしており、髪型もおしゃれだ。


 彼女は冒険者ギルドの受付になるために、都会的な行っていて街を離れていたそうだ。どこか都会的な雰囲気を持っている理由も納得できた。


 他のドワーフとの違いが一目でわかる。


 俺はリリィとエルナのやり取りを見守りながら、自己紹介をした。


「初めまして、ドウモト・ユウです。リリィの知り合いなんですが、こちらで冒険者ギルドに登録したいと思いまして」


 エルナは俺を見上げて、目を見開いた。


「すごい! リリィの知り合いでこんなにイケメンがいるなんて…!!」


 幽精霊師の能力が凄まじいな。

 元の世界ではイケメンなんて呼ばれたことないが、ドワーフの女性たちからは俺がイケメンに見えているらしい。


「ユウさん、よろしくお願いします。リリィの命の恩人なら私も全力でサポートします!」


 リリィは少し赤くなりながらも、嬉しそうにエルナに説明を始めた。


「ユウさんは異世界から来たんだよ。だから、こっちの世界のことをまだあまり知らないの」

「そうなんだね。異世界から来た人って珍しいわね。さあ、ユウさん、こちらの用紙に記入をお願いします」


 エルナは用紙を手渡し、必要事項を記入するように促した。

 用紙には名前や年齢、スキルなどを記入する欄があり、俺はそれに従って記入していく。


 日本語で書いたつもりだが、どうやら漂流者のおかげで文字も変換されているようだ。


「ありがとうございます。これで登録完了です。冒険者としての活動を始める前に、いくつかの依頼を受けてみませんか?」

「ぜひお願いします」


 エルナはクエストボードを指差しながら説明してくれる。


「こちらがクエストボードです。街道や森で出現する魔物の討伐や、素材の収集など、さまざまな依頼が掲示されています。報酬はギルで支払われますので、興味のあるクエストを選んでみてください」


 俺はクエストボードをじっくりと見渡した。


 クエストボードにはさまざまな依頼が貼り出されており、それぞれに報酬額や依頼内容が書かれている。

 簡単なものから難しいものまであり、初めての俺にはどれを選べばいいのか少し悩む。


「まずは簡単な依頼から始めてみるといいですよ。例えば、街道に出現するゴブリンの討伐なんかはどうかしら?」


 エルナが指差した依頼書を手に取る。


 依頼内容は「街道に出現するゴブリンの討伐。報酬1000ギル」と書かれていた。


「それにします」


 ゴブリンは、緑色の肌をした小鬼で、魔物の代名詞として、ゲートが出現した現代でもネットで出現しているので、強さはだいたい予想できる。


『ゴブリンの強さはDクラスです』


 ヨリさんのおかげで危険が少ないこともわかった。


「かしこまりました。この依頼は街道に出現するゴブリンの討伐です。報酬は1000ギルです。ドロップする魔石を五つお持ちいただければ依頼完了となります。お気を付けて行ってきてください」


 エルナは笑顔で応援してくれた。リリィも横で頷いている。


「ありがとう。リリィ、これでギルを手に入れて武器を買うための一歩を踏み出せるよ」


 リリィは嬉しそうに頷いた。


「ユウさんならきっと大丈夫です。頑張ってくださいね」

「そうだ、ユウさん。漂流者様でしたら、この世界の通貨についても説明しておきますね」

「頼む!」


 エルナが補足してくれる。


「この世界の通貨は『ギル』です。金、銀、銅の3種類のコインがあります。白金貨1枚は金貨100枚、金貨1枚は銀貨10枚、銀貨1枚は銅貨1000枚に相当します。一般的な生活費や日用品の購入には銅貨が使われることが多いです。冒険者の報酬は基本的に銀貨や金貨で支払われることが多いですね」

「なるほど、ありがとう。これで少しは理解できたよ」


 エルナの説明で価値はなんとなく、ギルについては理解できた。


「ユウさん、異世界からの漂流者が持ってくる物は珍品として高値で取引されることが多いんです。特に技術的な物や、見たことのないアイテムなどは非常に価値があります」


 エルナはリリィが知らない知識として、現代の物が販売できることも教えてくれた。現代の物が異世界で高値で取引されるということは、ビジネスのチャンスでもある。


「ありがとう、エルナ。リリィも色々教えてくれてありがとう」

「いえいえ、ユウさんが困っていることなら私たちも全力でサポートしますから」

「ユウさん、私の工房に戻って、これからの計画を練りましょうか」


 リリィの提案に、俺は頷いた。


「そうだな。まずはギルを稼ぐために、ゴブリン討伐の依頼をこなして、その後の計画を立てよう」

「はい! ユウさん、頑張ってください!」


 リリィとエルナに見送られながら、俺は新たな挑戦に向けて冒険者ギルドを後にした。


 異世界の冒険と、今後のビジネスチャンスに胸が躍るような気持ちだった。

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