第19話

 冒険者ギルドを出て、リリィと共にゴブリン討伐のために森へ向かって歩き始めた。道すがら、俺はリリィに戦闘能力について尋ねることにした。


「リリィは戦えるのか?」

「え? 戦えるかですか? 何を言っているんですか、ドワーフに戦えない者はいませんよ!」

「前に魔物に襲われていたときに助けたけど、普段はどうしているんだ?」

「うっ! あれはちょっと強い魔物が現れて、相性が悪かったと言いますか」


 リリィは少し考え込んだ後、笑顔で答えた。


「ですが、ゴブリン程度ならハンマーで倒します! でも、それ以上の魔物が相手だと厳しいですね」

「なるほど、それなら今日は協力してゴブリンを倒そう」

「はい! ユウさんがいるから心強いです」


 森に入ると、辺りは静寂に包まれていた。


 木々の間から差し込む陽光が、葉の影を作り出している。

 足元には小さな動物の足跡や、魔物の痕跡が見える。


「このあたりにゴブリンが出るって言ってたよね?」

「はい、ゴブリンは集団で行動することが多いので、気をつけてくださいね」


 俺たちは慎重に森を進みながら、周囲の気配を探っていた。

 突然、茂みの中からガサガサという音が聞こえた。


「ユウさん、あれ!」


 リリィが指差した先には、数匹のゴブリンが集まっていた。緑色の肌をした小さな魔物たちが、獲物を狙ってうごめいている。


「いくぞ!」


 俺はリリィと共にゴブリンたちに向かって駆け出した。ヒバチが火の矢を放ち、俺は鉈を振りかざしてゴブリンに一撃を加えた。リリィもハンマーを振り下ろし、ゴブリンたちを次々に倒していく。


 数匹のゴブリンはあっさりと倒すことができた。


 ダンジョンに現れる魔物よりも弱い?


《ゴブリンのランクはDランクです。ゴブリンは、集団で襲ってくる危険な魔物であり、また進化する個体であるため、進化すればするほど危険度が増していきます》


 なるほど、一匹や数匹ならそれほどの脅威ではないということか。


「ユウさん、すごいです!」

「リリィもやるじゃないか!」

「キュピ!」

「ヒバチもありがとう」


 戦いが終わり、俺たちは息を整えながら周囲を見渡した。

 ゴブリンが消えて、魔石と少量のドロップ品が残されていた。


「これで依頼は達成だな」

「はい、でも…」


 リリィが何かに気づいたかのように、周囲を警戒している。突然、森の奥から奇妙な音が聞こえた。


 空に鳴き声が聞こえて、巨大な翼を持つ、鷲の頭とライオンの体を持つ魔物が姿を現した。


『マスター、あれはグリフィンです。非常に強力なランクAの魔物で、鋭い爪と強力な飛行能力を持っています。現在のマスターでは倒すことが難しい存在です』


「なっ! 高ランク魔物のグリフィンです?!」

「気をつけろ、リリィ!」


 俺たちはグリフィンに気づかれないように身を屈める。


 俺たちが空を警戒していると、グリフィンは俺たちの上を通り越して、森を抜けていく。


 だが、森を抜けた先で、子供の悲鳴が響いた。


「キャーー!!! 助けて! 誰か!」


 俺はリリィと顔を見合わせて、声の方向に駆けた。


 そこにはグリフィンに襲われている馬車があり、その周りには倒れたドワーフの護衛たちが見えた。


 武装している護衛たちがグリフィンの攻撃を受けて重傷を負い、少女が逃げ惑っている。


「リリィ、ここにいてくれ」

「えっ!? ダメです! ユウさん! グリフィンは勇者でも倒せません!」

「倒せる倒せないじゃないんだよ。リリィ、ここで人を見捨てていきたくはないんだ。もしも、そこで死ぬなら俺に後悔はない! ヒバチ!」

「キュピ!」


 俺はヒバチに願って、火矢を連打してもらう。


 もう俺たちの中に指示はいらない。


 俺は思うままに動く。


 ヒバチは全てをフォローしてくれる。グリフィンに立ち向かう。


「グリフィン! お前にもご飯がいるんだろうが、その子は置いていってくれ!」

「ピーーーーーーーー!!!!」


 グリフィンの鳴き声で火矢がかき消される。風の魔法だ。


「ヒバチ、幻影を頼む」


 グリフィンは賢い魔物だ。

 凶暴で、強い。


 正面から立ち向かっても勝てない。


「キュピ!」


《グリフィンは、音が苦手です》


 ヨリさん、ありがとう。


「ヒバチ! 爆発させろ!」

「キュピ!」


 火は爆発する! ヒバチは矢から、音が強くなる爆撃に変えて、魔法を放った。


 グリフィンは、ヒバチの攻撃を風を使って破壊するが、それは悪手だ。


「ピーーーー!!!」


 連爆する爆撃にグリフィンの体が揺らぐ。


「ユウさん! 今です!」


 グリフィンのスキをリリィが狙っていた。

 ハンマーを振り下ろし、俺も鉈で一撃を加える。


 グリフィンの頭がリリィに吹き飛ばされ、俺の鉈が首を掻き切った。


 連携があったから、勝てた。


 獲物を捕らえ、グリフィンがスキを作ったからだ。


 全員がいたから勝てた。


 グリフィンが消滅して魔石と貴重なドロップ品が現れた。


「やった…」


 俺は息を整えながら、少女に目を向けた。

 ドワーフの子供は、リリィよりもさらに小さくて、守ってあげたくなるほど可愛い子だった。


「もう大丈夫だ。君は助かったんだ」

「はわわわわわわわ!!! 物凄くイケメンです!!!」


 うん。その反応はドワーフ共通なのか?


「リリィ、ありがとう…助かったよ」


 リリィに礼を言うと、涙を流しながら俺を抱きしめた。


「危ないです! ユウさんが強いことはわかりました。ですが、自分を犠牲にするような戦い方をしないでください。まるで命を削って戦っているようでした。もっと自分を大切にしてください」

「はは、精神を削って仕事をする毎日だったから、どこかで歯止めが壊れているのかもな。ありがとう、リリィ」


 リリィの頭を撫でながら、もう一度礼を言う。


「君、大丈夫かい?」

「はい! あっ、ありがとう…私はエルンスト王国、バスティア伯爵家、ミモザです」


 リリィが驚いた顔をする。


「バスティア伯爵家のご令嬢様?!」


 どうやらお偉い貴族様だったようだ。

 貴族様については知らないが、階級についても勉強しないとな。


「はい。今日は森に視察に来たんですが、グリフィンに襲われてしまって」


 ミモザの背後から、倒れていた護衛のドワーフたちが起き上がる。

 どうやら死んでいる者はいないようだ。

 頑丈な体をしているんだな。


「ミモザ様、ご無事で何よりです」


 護衛たちは俺たちに感謝の意を示しながら、彼女の安全を確認している。


『グリフィンはランクAの魔物で、その素材は非常に高価です。特に羽根や爪は貴重で、武器や防具の素材としても高い価値があります』


「リリィ、このグリフィンの素材、買い取ってもらえるか?」

「もちろんです! グリフィンの素材はとても貴重ですから、きっと高値で取引されますよ」


 ミモザも興味津々でグリフィンの素材を見つめている。


「えっと、あなた様は?」

「ああ、俺は漂流者のユウ・ドウモトだ」

「漂流者様でしたか!? 本当にありがとうございます。あなた様のおかげで助かりました!」

「気にしないでくれ、困っている人を助けるのは当然だから」


 俺たちはグリフィンの素材を回収しながら、ミモザや護衛たちと話を続けた。


「すまない。この世界に来たばかりで、バスティア伯爵家について知らないんだ」

「バスティア伯爵家は、エルンスト王国の中でも高い地位を持つ貴族の家系です。王国の中でも重要な役割を果たしています。特にこの地域の治安や行政を担当しているんです」


 リリィの説明により、この世界の貴族制度を知ることになる。


「なるほど、貴族制度がしっかりしているんだな」

「はい、伯爵家の他にも、侯爵家や公爵家などの階級が存在し、それぞれが役割を持っています。私の父はバスティア伯爵として、この地域を統治しています」

「ミモザ、色々と教えてくれてありがとう」


 俺たちは森を抜け、一緒に街へと戻った。


「ユウさん、リリィさん、此度は命を救っていただきありがとうございます! 貴族として必ずお礼をさせてください。ただ、今日は父に出来事を報告しなくてはいけません。後日、リリィさんの工房へご連絡を差し上げます!」

「ああ、無事に帰れてよかった。怖かっただろう。無理はするなよ」

「はい!」


 ミモザと別れて、俺たちは冒険者ギルドへ仕事の報告に向かった。


 ゴブリンの討伐よりも、グリフィンの素材をリリィだけでなく、冒険者ギルドでも買い取りたいと申し出を受けることになった。

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