第17話
俺は早速新しいゲートのことや、ドワーフの森で出会った少女の話をハナさんに伝えながら、夕食をいただいた。
「ユウさんは、凄い体験をしているんですね」
「はは、覚醒者になったことや、ハナさんに出会っただけでも凄い体験なんですが、まさか異世界へ行けるようになるなんて思いもしませんでした」
元々、ゲートは異世界と繋がる異空間だとヨリさんが説明してくれていたのを思い出したのも、異世界に渡った後だった。
「ユウさんなら大丈夫だと思いますが、そのリリィさんをしっかりと助けてあげてくださいね」
「はい!」
ヒバチが嬉しそうに鳴き、俺の肩に乗る。俺はゲートの方向に歩き始め、シルヴァリアの森での収穫を胸に秘めながら、再び元の世界に戻る決意を固めた。
「これからも、この異世界との繋がりを活かして、ビジネスを成功させようと思っています」
「精力的で、夢のある男性は素敵だと思います」
ハナさんに煽られてその気になってしまう辺り、自分でも単純だと思えてしまう。
♢
俺は自信を胸にゲートを通って、ヨリさんの案内でドワーフの世界へやってきた。
石造りの建物で作られた町並みと、レンガを敷き詰められて舗装された通り、そこを歩く人々は、小柄で屈強な髭面男たち、幼く小柄な女性たちばかりだった。
街といっても、門番は俺が漂流者だと説明をすると、冒険者ギルドで身分証の登録をしてくれと言われて、仮の身分証を提示してくれた。
「ヨリさん。ここがドワーフの世界?」
『はい。ドワーフが主流で、鉱山や魔物が出現するドワーフのポミュラーな街並みです』
「なるほど」
『エルンスト王国の国境近くにあるスミスたちが住まう街と呼ばれる場所です』
「スミス?」
『鍛冶師のことです』
「えっ? リリィ以外にも鍛冶がいるの?!」
覚醒者の中でも、鍛冶師たちはかなり貴重な存在だ。
数名の鍛治系スキルは発見されているが、まだまだ数が少ないので、加工するためには莫大な費用がかかってくる。
もしも、ドワーフの鍛冶師と仕事の契約が結べれば、魔石や鉱石を売るだけじゃなく、加工された武器の取り扱いもできるかもしれない。
何かあった時のことを思って冒険者用の服装できたが、もっとスーツとかで来ればよかったか? これは商談できる鍛冶師を探す必要があるかもしれないぞ。
「ヨリさん、俺はこの世界の言葉を理解できるのかな?」
『問題ありません。漂流者になった際に、スキルとして習得しています』
「なるほど、あとは見た目だけど、ドワーフさんたちに比べて大きいけど大丈夫?」
『ドワーフたちは漂流者の存在を認識しています。漂流者だと名乗れば問題ありません』
ヨリさんがいるから色々と疑問に答えてくれてありがたい。
「さて、こちらの世界と向こうの世界を行き来することができるんだよな。ならやっぱりこちらの世界で加工した武具を、あちらの世界で売り捌きたい。そのためににもこちらの世界で必要になる物を調査する必要があるな」
『ドワーフは気難しい種族です。友好関係を結ぶことができれば義に厚く、素晴らしい友人関係が結べるでしょう』
「なるほど、まずは友好関係を結ぶところから始めるわけだね」
友好関係を結ぶためには、十分な時間を掛けて、シッカリとこの世界のことを理解しなくちゃいけないな。
現代でいうセドリと呼ばれるような手法で大儲けができそうだな。
ダンジョン以外から仕入れ先を持てるのはかなり心強いな。
こちらが欲しい物を手に入れるために、相手が欲しい物を用意して、より高値で買い取ってもらおう。
これまでの仕事ではやってこなかったが、卸売業として、武器の取り扱いをしてこなかったわけじゃない。
やってやれないことはないだろう。
「幸い、元の世界にはゲートが出現して、武器の需要は高まっている。ドワーフがどんな武器を作れるのかによるけど、これは良い商売ができそうだね」
「キュピ!」
『頑張ってください』
ヒバチとヨリさんに応援されると悪い気はしないな。
ここは卸売業で培った営業トークを披露するところだが、営業で大切なことは相手の人柄を理解して、好物を知ることから始める必要がある。
そして、いきなり俺がショップに入って怪しまれないかという不安がある。
それに俺がどこから鍛冶師たちが作った武器などを手に入れて売り捌いたのか、照明が必要になるかもしれない。
だから、最初はダンジョンからドロップしたとして、大量に売り捌くのではなく、不揃いの商品を少しずつ売っていく必要があるな。
ゲートやダンジョンができたことで、ある程度は融通を聞いてくれると思うが、調査をされると面倒だ。
会社として、成立した上で商品として販売するまでに鍛治師をしてくれる仲間を同時に見つけられたらいいんだけどな。
それにドワーフの世界から金銀財宝を持って帰ったとして、それを今の日本で売却するのは少し面倒そうだ。
流通させる商品は千里さんがやってきた後で、もう少し厳選する必要があるだろうな。
「まずは、リリィの店に行ってみよう」
『承知しました」
解説と説明をしてくれるヨリさん、護衛のヒバチがいるから気持ちは軽い。
俺が通りを歩いているだけで、ドワーフ達の視線を集めてしまう。
確かに身長が俺だけ飛び抜けて高い大男に見える。
俺の身長は174センチほどだが、ドワーフの平均が150前後なので、目立つ。
「確か看板にリリィの教えてもらったマークがあるはずだな」
俺はリリィが描いてくれたマークを探して、それが描かれた看板を見つけた。
目が合ったので声をかけようとしたところで、リリィの顔が真っ赤になっていく。
「あわわわわわわっわ!!! イケメンが店にやってきた?!」
いや、そのやりとり前にやったよ。
「リリィ、大丈夫か?」
「あ、ああ、大丈夫です! ユウさんでしたか!」
いや、俺を見るたびに驚くのか? リリィは慌てて言いながら、顔の赤みを少し引かせて立ち上がった。
「それで、今日は何の用事ですか?」
「今日は、君に頼みがあって来たんだ」
「頼みですか? もちろんです。ユウさんにはお世話に命を助けられて、鉱物も譲っていただいたので、なんでも言ってください!」
リリィとの友好度がかなり高い。
ドワーフは義理堅いということだから、命を救ったのはいい出会いだったようだな。
リリィも鍛治師だと言っていたけど、店に入っても武器らしき物はなかった。
「ここは店なんだよな?」
「はい! リリィの工房です! 主に武器の修理などを請け負っていますよ」
「なるほど!」
修理を専門にやっているから、商品を置いていないのか。
「武器やアクセサリーなんかを作ったりはしないのか?」
「もちろん作ってはいますが。まだまだ自分が納得できる物ができないので、販売はしていないんです」
「そうなの? すまないが、リリィの打った武器を見せてもらうことはできるだろうか?」
「えええ!!! 恥ずかしいです!」
何故か顔を赤くしてモジモジとしている。
下着を見せてくれと言ったわけじゃないのに、物凄く恥ずかしいお願いをしたような気がする。
『ドワーフは自分の作品に誇りを持っています。そのため作品を見せて欲しいということは、あなたの誇りを見せてみろということになります。それはあなたのイチモツを見せろと言っているのに近いです』
なっ!? マジか! だけど、リリィは自信がなさそうな顔を見せる。
「リリィ、自分の作品に自信を持っていいんだよ。君が作ったものには、君の魂が込められている。その情熱と努力は、他の誰にも真似できない特別なものだ。だから、自信を持って見せてくれ」
リリィの顔が少し和らぎ、目に光が戻った。
「ユウさん…ありがとうございます。そう言ってもらえると、自信が湧いてきました。命の恩人のユウさんだから特別ですよ!」
そう言ってズラリと武器が並べられる。
素人の俺には、どれくらい良い物なのかわからない。
ヨリさん、武器の良さとかってわかる?
『もちろんです。銅の剣、品質:良、魔力充実。現実世界で販売すれば、500万円の価値があります』
「ええええええええ!!!」
「ウェ!!! どうしました?」
「あっ、いや、すまん。リリィの腕が良過ぎて驚いた! 銅の剣の品質が良いな。魔力も充実している」
「わかるんですか!?」
俺がヨリさんが言ったことをそのまま伝えると、リリィの目が更に輝いた。
「ではこれは?!」
そう言って自信作らしき斧を持ってきた。
『竜剣の斧、品質:業物、魔力豊富。現実世界で販売すれば、5億円の価値があります』
はっ?
「業物?!」
「うわ〜やっぱりわかるんですね! 私の打った武器の中で一番の業物です! 目利きができるなんて凄いですね!」
リリィに感心されるが、全部ヨリさんのおかげです。
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