第16話
倒したシャドウビーストの姿が消滅していく。
「えっ?! 魔物が消えた!」
『この世界では、魔物は倒されると消滅してドロップ品に変わります』
うわ〜そういうところも異世界っぽいぞ。
驚いている間に、魔石とドロップ品が現れる。
「これは……何だ?」
『シャドウビーストはランクBの魔物で、魔石(ランクB)をドロップします。また、シャドウビーストの甲殻(ランクB)ですね』
「Bランクの魔石の相場っていくらだろう?」
普段、ランクDの魔石しかブルーゲートでは取れない。
イレギュラーボスが発生すれば、Bランクは取れるかもしれないが、今回の魔石はそれぐらいの価値がある。
「それにシャドウビースの甲殻?……これは使えるのか?」
魔物のドロップ品は、鍛治師によって加工されて武器や防具を造ってもらえる。
非常に高価なものに違いない。
俺はそれらをバッグにしまい、さらに探索を続けることにした。
「この森にはまだまだ宝が眠っていそうだな」
俺は慎重に森の中を歩きながら、次々と魔力を含んだ鉱石や魔物の痕跡を見つけていった。ヒバチの助けもあり、順調に探索を進めることができた。
「これだけ集めれば十分だろう」
「キュピ!」
ヒバチが嬉しそうに鳴き、俺の肩に乗る。
ドワーフにあったら食事を提供してもいいと思って持ってきたけど、森が続くばかりだ。
「今日はこの辺にしておこうか?」
「キュピ!」
『お疲れ様でした』
俺はゲートの方向に歩き始め、シルヴァリアの森での収穫に今後が楽しみになってくる。仕入れ先としては最高な場所を手に入れたかもしれない。
「キャーーー!!!」
ゲートに辿り着いた際に、いきなり女性の悲鳴が聞こえてきた。
俺はすぐさま声の方向に向かって駆け出した。森の中を進むと、開けた場所に出た。そこには小柄な女性が魔物に襲われている光景が広がっていた。
魔物は巨大な狼のような姿をしており、鋭い牙を剥き出しにして女性に襲いかかろうとしている。
「ヒバチ、援護してくれ!」
「キュピ!」
ヒバチが俺の肩から飛び立ち、火の矢を魔物に向けて放つ。
火の矢が命中し、魔物は驚いて後退した。
その隙に俺は女性の元に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「ええ? ええええええ!!!」
「うん?」
「物凄いイケメン!?」
女性が俺を指差してイケメンと叫んだ。
ちょっと意味がわからない。
「あわわわわっわわっわっわわあっわっわわっわわわわわわ!!!!」
ええ! いきなり慌て出した少女に俺はどんな反応を取ればいいんだ?
「イケメンがウチのこと見とる! メッチャイケメン過ぎてどうしていいかわからへん!」
心の声がダダ漏れになり過ぎて助かるが、どうやら俺のことをイケメンだと思ってくれているようだ。
これも幽精霊師の効果なのか?
『はい! ドワーフは半分は人として、もう半分は土と火の精霊の性質をもっています。そのためマスターの幽精霊師の効果対象に入ります』
ドワーフに好かれやすい能力なのは嬉しいが、この反応はどうしたらいいんだ?
「とにかく今は魔物だ。君は落ち着いてくれ」
「はい!」
どうやら俺の言葉に素直に従ってくれるようだ。
怒りに満ちた魔物が再びこちらに向かって突進してくる姿があった。
俺は鉈を握りしめ、構えた。
「ヒバチ、もう一度!」
「キュピ!」
ヒバチが再び火の矢を放ち、俺もそれに続いて突進する。
魔物の前脚を狙って一撃を加えると、魔物はバランスを崩して倒れ込んだ。
その瞬間、俺は魔物の首を狙って鉈を振り下ろした。
「ふんっ!」
一瞬の静寂の後、魔物は消滅し、ドロップ品が現れた。
どうやら魔石と、狼の牙が落ちたようだ。
「やった…」
俺は息を整えながら、女性に目を向けた。
「もう大丈夫です。あの魔物は倒しました」
「えっと、えっとドワーフじゃないですよね? あのあの本当にありがとうございます」
モジモジとした雰囲気で頭を下げたのは、小柄な美少女だった。
「ああ、漂流者なんだ」
「そうなんですね! 助かりました。私はリリィと言います」
「堂本幽です。リリィさん、大丈夫ですか?」
「はい! ユウさん、ユウさん」
うん。俺でもわかるぐらいに目がハートになっている。
有効的に思ってくれるのはありがたいが、話がしづらい。
「とりあえず落ち着いて」
俺はバッグから食糧を取り出し、リリィに差し出した。
「もしよかったら、一緒に食事でもしませんか? 今日はたくさん収穫もあったので」
「えっ!?」
「うん?」
リリィは俺のバッグにある物に視線を向ける。
「これって! シルヴァライトですよね?!」
「えっ? あっああ」
「私、これを探しにきたんです! どうか私にこれを譲ってくれませんか?」
「譲る?」
「はい! 鍛治を生業にしているんですが、どうしてもシルヴァライトが必要なんです!」
俺はどうしたものか考えているとヨリさんが語りかけてくれる。
『ドワーフと友好を結ぶチャンスがやってきました。彼女の悩みを解消することで、友好度を上げましょう』
つまり、上げてもいいってことかな?
『はい』
「わかったよ。どれだけいるんだ?」
「あるだけ全部ください!」
「えっ? まぁ、いいか」
どうせ、取った場所に行けば、また採取できるしな。
「ありがとうございます!!!」
リリィは涙を流しながら喜んでくれた。
俺たちは近くの安全な場所に移動して、持ってきた食糧を広げてお茶と食事を始めた。森の中での食事は、新鮮な空気と共にとても美味しく感じられる。
何よりもリリィが落ち着いてくれるまで、どうしたら良いのかわからなかったからだ。
「…美味しい! ユウさん、こんなに美味しいものを持ってきてくれてありがとう」
リリィは感激しながら食べ物を味わっている。
先ほどまで泣いていたとは思えないほど元気な態度に、俺も嬉しくなった。
「良かった。リリィさんの助けになれたなら、それで十分です」
「ユウさん、本当に感謝しています。あなたがいなければ、どうなっていたことか」
「気にしないでください。お互い助け合うのが大切ですから」
「本当に! でも、ユウさんは凄く強いんですね」
「えっ? 俺が強い?」
「はい! 先ほどのウルフファングも、私では噛み殺されていたと思います」
魔物として、現れているドワーフをパソコンの画像で見ただけだったが、今のリリィは穏やかでとても可愛らしい子だった。
それに魔物に負けてしまうほどに弱いのか?
俺たちは食事をしながら、リリィの話を聞いて、この世界のことを学び取ろうと思っていた。
「ユウさん、もし、漂流者さんなら、お願いがあります!」
「ああ、そうだ漂流者は珍しくないのか?」
「珍しくはありますが、いないわけではないです」
「そうなのか」
「はい! それに漂流者さんは、不思議な力を持っていて強い方がほとんどです!」
覚醒した力がチート能力のように思われているってことか?
「そこで、もしよければ素材集めを手伝ってはくれませんか?」
「素材集め?」
「はい! 私は鍛治師で、剣や防具を作っていますが、最近は素材が高騰していて集められないんです。自分で取りに来たのですが、先ほどの様子で」
リリィが落ち込んでしまうので、俺はそれを励ましたい。
それにヨリさんからのミッションも気になる。
「わかった。リリィの手助けをするよ」
「本当ですか?!」
「ああ、その代わり、俺に武器や防具を作ってくれないかな? 俺も覚醒者としては、初心者なんだ」
「そうなんですね!? それは任せてください」
俺たちは互いの利益のために契約を結ぶことにした。
リリィを森の外にある街の近くまで送って、俺たちは別れた。
次は、リリィの店にお邪魔する約束をしたので、次にドワーフの世界に来るときは、街に行ってみよう。
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