第15話
片付けをして、ダンジョンから得たドロップ品や魔石を手作業で整理していく。
これらのアイテムは、商売を始めるための重要な商品になる。
村役場に持っていけば換金してくれるが、俺は自分の会社を作る計画のため、しばらくは在庫として保存することにした。
「よし、これでしばらくは在庫に困らないな」
在庫を倉庫に保管し終えた後、次の冒険の準備を整える。
俺はハンターギルドに行った際に、必要な道具や装備を購入した。
その日の午後、俺は再び山へ向かっていた。
だが、大きな山に向かう途中にある小さな山の方を歩いていると、ふと目の前に光るものが見えた。
近づいてみると、それは新たなゲートだった。
「またゲートが出現したのか…?」
ゲートにはそれぞれランクがあり、色によって分類される。
ホワイトは最低ランクのゲートだ。大きな山にはブルーゲートがあるので、それよりも規模が小さくて出てくる魔物も弱いはずだ。
「よし、入って確かめてみよう」
ゲートがある場所は敷地内で、俺が新たなダンジョンに入ったことは、ハナさんが確認してくれているはずだ。
何かあれば、ハナさんがマツさんに知らせてくれる。
意を決してゲートに足を踏み入れた。
ホワイトゲートならば、それほど広がっていないはずだ。それに今の俺とヒバチなら十分に対処できる。
『ダンジョン突破者を感知しました』
「はっ? ダンジョン突破者? どういうこと?」
『これよりダンジョンを突破した者の特権を表示します』
ダンジョンを突破した者へ与えられる特典が目の前に浮かび上がる。
・異世界への扉が開きました。漂流者として登録ができます。
・異世界言語翻訳スキルを習得しました。
・火と土の精霊ドワーフの世界と繋がりました。
・漂流者のスキルが強化されました。異世界に渡る冒険者の称号を得ました。
『特典が解放されました。ドワーフの世界に送らせていただきます』
「ちょっと待ってくれ! 全然状況がわからないから説明を頼む!」
俺の声も虚しく、景色が変わって、そこは森だった。
「えっ?」
『ドワーフの世界にある。シルヴァリアの森に転送を完了しました。ドワーフの世界は魔素が濃く存在するため、今後は常時サポートをさせていただきます』
気づけばそこは森だった。
『近くの国名が判明しました。エルンスト王国に属している森へ転送されたようです』
頬を抓ってみるが痛い。
「俺、異世界に来たの?」
『はい。あなたはドワーフのダンジョンを突破しました。ゲートは異世界と繋がる異空間です。ドワーフがゲートを封じる前にダンジョンから魔素が排除したため、異世界と繋がるゲートが開きました』
つまりは……どういうことだ? えっと、ダンジョンを突破して魔素を排除したから、異世界に行ける道が繋がった? 全然理解できない。
現代では、ドワーフも魔物の一種として登録されている。ネットで検索をすれば、魔物の姿をしたドワーフが表示される。
小柄な体に男女の個体がいて、男は全身が毛むくじゃらで、女性も大きくても150センチほどの低い身長で大きなハンマーを振り回して襲ってくる。
力自慢の人型をした危険な魔物だ。
そのドワーフが住んでいる異世界に来た?
「帰れるの?」
転送されたのはいいけど、帰れないってなったら笑えないぞ。
『もちろんです。あなたの後ろにゲートがあります』
言われて、後ろを振り返れば、確かに扉のような物が見える。
その扉の中に入って覗き込めば、元の世界に戻れた。
「あっ、本当だ」
『漂流者とは、異世界へ渡る権利を取得した者のことを言います。また、異世界に渡る権利を獲得したことで、異世界言語の一つ、ドワーフ語を習得しました。これより、このゲートは堂本幽と契約者のみが出入り可能です。以上が説明になりますが、不明な点はありますか?』
世界の理さんは相変わらず丁寧で助かる。
「いつもありがとうございます。えっと、俺は元々漂流者の称号を持っていて、突破者になったから異世界に行けるようになったと?」
『その通りです』
「そして、ここがドワーフの異世でいつでも帰ることができる?」
『その通りです』
ゲートに巻き込まれてから、ありえないことばかり起きるから、驚きはそれほど大きくはないが、ゲートを覗いただけで突破者になるとは思いもしなかった。
これで戻れないとか言われたら笑えなかったが、元の世界に戻ることもできるなら、ちょっとワクワクしてきたぞ。
『あくまでゲートが繋がり、道ができたと考えていただければ問題ありません』
「なるほど、世界の理さん。俺はこの世界の常識がわからない。法律もだ。いきなりドワーフの街に行って、ドワーフを驚かせないだろうか?」
『異世界では漂流者は珍しいですが受け入れられた存在です。ですが、お土産など異世界の品物を持ち込むと喜ばれます』
「なるほど、色々と教えてくれてありがとう。一度準備をしてから、向かいたいと思うけど、ここにくれば《世界の理》さんとも話しができるの?」
『はい。異世界には魔素が濃く溢れているので、私がサポートさせていただきます』
「そっか、これからは長い付き合いになるね。なら、世界の理ってシステム的な呼び方じゃなくて、名前をつけてもいいかい?」
『名前ですか?』
「ああ、俺が管理するダンジョンを共に見守ってくれる『世界の理』さん。だから、
『ヨリ?』
「ああ、世界の理を短縮して、ヨリさん。ダメかな?」
『構いません。あなたは幽精霊士です。私もまた人成らざる者として、あなたを好ましく思っております。よろしくお願いします、マスター』
「こちらこそサポートよろしくね、ヨリさん」
俺は改めて準備をしてから、ドワーフが住んでいるという世界に渡る決心をした。
♢
会社を起こす準備は順調に事が進んでくれている。
ただ、仙堂さんがこっちに来るまでまだ、時間がかかることもあり、俺は保存が効く食べ物をリュックに詰め込んで、ドワーフの世界に挑戦してみることにした。
「それでは、いよいよ異世界に向かうか」
ゲートに足を踏み入れると、周囲の景色が再び変わった。目の前には広大な森が広がり、澄んだ空気が肌を包み込む。
「ヨリさん。よろしく」
『ようこそマスター、シルヴァリアの森へ。ここはエルンスト王国の国境近くに位置しています』
「シルヴァリアの森か……美しい場所だね」
森の中は静かで、鳥のさえずりや風の音が心地よい。
俺は少し歩いてみることにした。
『異世界は魔力が濃いので、魔物は普通にダンジョンに現れるよりも強いです。そして、自然に含まれている魔素量が多い鉱石を見つけられます』
「なるほど、つまりはここで強い魔物を倒してランクアップをして、ブルーゲートで取れないような鉱石が取れるってことだよね?」
『その通りです』
「ちょっと楽しみになってきたね、ヒバチ」
「キュピ」
森を進む際には、ヒバチが俺の前を飛びながら道を照らしてくれる。
落ちている石一つ一つが輝いていて、元の世界とは違う鉱石のように見える。
俺は慎重に森の中を歩きながら、次々と魔力を含んだ鉱石や魔物の痕跡を見つけていった。
ヒバチの助けもあり、順調に探索を進めることができた。
「ヒバチ、あれを見てみろ」
「キュピ!」
少し進むと、輝く石が地面から顔を出しているのを見つけた。石は青く光り、手に持つと微かに温かみを感じる。
「これは……もしかして貴重な物か?」
慎重に石を掘り出し、ヨリさんに尋ねた。
「ヨリさん、この石は何?」
『それはシルヴァライトです。この世界では非常に貴重な鉱石で、魔力を多く含んでいます。』
「シルヴァライトか……どんな特性があるんだ?」
『シルヴァライトは、魔力を効率的に貯蔵し、放出する特性があります。そのため、魔法の触媒や高性能な魔法アイテムの素材として重宝されます。また、シルヴァリアの森で採れるシルヴァライトは特に純度が高く、エルンスト王国でも最高品質の鉱石として知られています。この森が特別な理由は、高ランクの魔物や資源が豊富であるため、高ランクのダンジョンとして扱われています』
「なるほど、だからこんなに良いものが見つかるのか」
さらに奥に進むと、異様な気配が漂ってきた。
振り向くと、巨大な魔物が立ち塞がっていた。
体全体が黒い甲殻で覆われ、目は赤く輝いている。
その姿はまるで巨大なカブトムシのようで、強靭な外骨格と鋭い角を持っている。
「こいつは……」
『それはシャドウビーストです。ランクBの魔物で、非常に強力ですので注意が必要です。』
「勝てるのか? 俺とヒバチで……」
『現在のマスターとヒバチならば対応は可能です。ただし、シャドウビーストは強力な攻撃と防御を兼ね備えているため、慎重に戦う必要があります。特に腹部が弱点です。まず、ヒバチが火で敵をひっくり返し、その間にあなたがナタでとどめを刺すと効果的です』
「なるほど、ヒバチ、準備はいいか?」
「キュピ!」
ヒバチが前に飛び出し、魔物に向かって火の玉を放つ。シャドウビーストは気にした様子もなく、すぐに反撃してきた。
俺は素早く避け、反撃のチャンスを伺う。
「ヒバチ、ひっくり返してくれ!」
ヒバチはその小柄な体を利用して、シャドウビーストのお腹に潜り込んで巨大な火柱を噴き上げた。
シャドウビーストはバランスを崩し、その巨大な体がひっくり返った。
「今だ!」
俺はナタを取り出し、全力でシャドウビーストの腹部に突き刺した。
魔物は激しく咆哮し、痙攣するように体を震わせた後、静かに動かなくなった。
「やった!?」
ヨリさんのアドバイスで自分よりも高ランクの魔物を倒せた! ノブヒデさんの教えのおかげで俺は強くなっている。
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