第14話 

《side堂本幽》


 俺が電話をかけたのは仙石千里さんだ。ゲートに巻き込まれた時にも心配して連絡をくれていた可愛い後輩で、会社で唯一信頼のおける人物だと思っている。


 休日を使って、テレビ電話をすることになった。


「久しぶりだね、千里さん」

「誰?!」

「えっ?」

「先輩が若返ってる! 幽霊みたいな見た目はどうしたんですか?」

「ああ、衣食住が安定して、健康的な食事と睡眠をとって運動しているからじゃないかな?」

「ハァー、つまり本来の先輩に戻ったと?」

「まぁそうなるね」


 千里さんには社畜の姿しか見せていなかったからな。いつもボロボロになっていて、若返っていると言われて嬉しくなる。


「そんなことよりも、前に電話で話した引き抜きの件はどうかな? 専属ドライバーとして働いて欲しいんだ。どうかな?」


 彼女は運送ドライバーとして、前の会社で働いていた。交渉は俺でもできるけど、ダンジョンで商品を取りながら、配送までは手が回らない。


「先輩専属って? もしかして口説いてます?」

「えっ!? いやいや、そんなつもりはないよ! 俺みたいなオジサンに口説かれても嫌だろ?」

「嫌じゃないですよ。先輩なら、ちょっとぐらい口説かれてあげてもいいと思ってます。ふふ、冗談です。わかりました。お話を聞かせてもらいます」


 千里さんに揶揄われてしまった。だけど、千里さんが手伝ってくれるのは、メチャクチャ嬉しい。とんでもない田舎に来てもらうつもりだけど、驚かれないかな?


 前の会社から引き抜くことを承諾してもらった。


 ただ、あの会社を辞めるためには何かと問題が多いので、前回と同じく佐々木弁護士に連絡を入れて仙石さんの退職を手伝ってもらうように手配をした。

 もちろん、費用は全てこちらで支払うことは両者に告げてある。


 その間に、やらなくちゃいけないことが山積みだ。


 ダンジョンから採れるアイテムや魔石を販売する会社を設立するために、俺は世界政府が運営するハンターギルドに向かう。


 ハンターギルドは、その県の県庁舎がある都市部にしかないため、境界村からは車で数時間の距離だ。


 軽トラックに荷物を積み込み、早朝から出発する。

  

 山々を越え、田舎道を抜け、ようやく都市部にたどり着いたのは正午過ぎだった。

 境界村に引っ越してからは、久しぶりに訪れる街の喧騒だった。

 

 それを、少しだけ懐かしく思う。


「よし、行くか」


 俺は深呼吸をしてから、ハンターギルドのビルに足を踏み入れた。

 ビルの入り口には、ガラス扉があり、金属製のハンターギルドのロゴが光っている。


 受付に向かうと、若い女性がカウンターを挟んでにこやかに迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。ハンターギルドへようこそ。何かご用でしょうか?」

「はい。会社設立の認可を取りに来ました。堂本幽と申します」

「会社設立ですね。少々お待ちください」


 ハンターギルドの登録証を見せると、彼女は手際よくパソコンを操作し、俺の情報を確認しているようだった。


 しばらくして、顔を上げた。


「堂本様、会社設立の手続きはこのカウンターで行えます。必要な書類と、手数料の準備はお済みでしょうか?」

「はい、ここにあります」


 事前にパソコンでダウンロードした書類を記入して、持参してきた。

 バッグから書類と手数料を取り出し、彼女に手渡す。


 デジタルの時代になっても、紙の提出を行うのは、契約書のデータが消えないためなのだろうか? 彼女は書類を一つ一つ確認しながら、丁寧に説明をしてくれる。


「まず、書類に不備がないか確認いたしますね。会社設立について少しご説明もさせていただきます」

「よろしくお願いします」


 書類を確認した彼女が顔を上げる。


「ダンジョンから採れるアイテムや魔石を取り扱うためには、適切なライセンスが必要です。それはハンターライセンスとは別に会社の責任者として、覚醒者の認めが必要になります。また、定期的な報告と監査を受ける義務があります」

「はい、その点は理解しています」


 監査と言っても保管場所や、管理しているゲートの有無などの細かなところをハンターギルドが見に来るだけだ。


「それと、貴社の資本金と主な取引先と今後のビジネスプランについても詳細に記載していただく必要があります。具体的な取引先やマーケットについて、もう少し詳しく教えていただけますか?」


 相手が不正しないために、取引を行う相手はしっかりと記載が必要になる。


「もちろんです。私の会社は、主にダンジョンから採れる魔石や貴重な素材を取り扱います。これらを利用して、高品質なアイテムを製造し、国内外の需要に応えていきたいと考えています。取引先としては、既にいくつかの会社やクランとの交渉を進めています」


 仙石さんとの電話が終わった後に、覚醒者として自分がアイテムを納品することは可能なのか、いくつかの会社に連絡を入れてOKをもらっている。


 ダメ元で、超ハンターに連絡を取って、大型クラン【桜】にも販売可能なのか問い合わせた。結果は、引き取ってくれると言質をとった。


「なるほど、それは素晴らしい計画ですね。会社設立のためには、ハンターギルドの審査を受ける必要があります。この審査には通常、数日から数週間かかりますので、その間はお待ちいただくことになります」

「わかりました。それと、もし可能であれば、今後の取引についても相談させていただければと思います」


 取引相手は、多い方が何かと問題が起きた時に助かる。ハンターギルドも取引相手になってくれるはずだ。


「もちろんです。私は、金城萌音キンジョウモネと申します。今後も何かありましたら、ぜひご相談ください」

「ありがとうございます、金城さん」


 彼女の名刺を受け取って、今後の取引をする際に窓口になってくれるだろう。


 彼女の笑顔は親しみやすく、安心感を与えてくれる。

 俺は手続きを終え、ハンターギルドのビルを後にした。


 ♢


 数日間は、審査の結果を待つことになる。その間に、ゲートに入り駆除を行いながら、仙石さんが引っ越してきた際に住む家の片付けやリフォームの手伝いをしていた。


 数日後、ハンターギルドから連絡が入り、審査が無事に通ったことを知らせてくれた。再び都市部に向かい、正式な認可を受け取るためにハンターギルドを訪れた。


「堂本様、お待たせしました。審査が無事に通り、会社設立の認可が下りました」


 金城さんが笑顔で迎えてくれた。彼女から認可書を受け取り、俺は感謝の気持ちでいっぱいだった。


「ありがとうございます、金城さん。これでようやく一歩前進です」

「こちらこそ、堂本様のビジネスプランに期待しております。それでは、今後の取引について少しお話ししましょう」


 金城さんに案内されて応接室に入り、会社設立の詳しい話をしてくれた。


 今後の取引についても、詳しく説明してくれて、スムーズに話が進む。


「堂本様、まずは初回の取引として、どのようなアイテムを提供される予定ですか?」

「まずは、ダンジョンから採れる高品質な魔石と、希少な鉱物を中心に提供したいと考えています。また、これらを利用したアクセサリーや装備品も販売予定です」

「それは素晴らしいですね。初回の取引については、ハンターギルドの規定に従い、詳細な取引条件と品質の保証が必要です。取引先には厳格な基準がありますので、それをクリアするための手続きもサポートいたします」


 金城さんのサポートを受けながら、俺は取引条件や品質保証について詳細に詰めていった。初回は良品を持ってきた方が、今後の契約の足掛かりになりそうだ。


「ありがとうございます、金城さん。これで初回の取引も安心して進めることができます」

「堂本様、こちらこそありがとうございます。今後も何かありましたら、遠慮なくご相談ください」

「もちろんです。これからもよろしくお願いします」


 認可を受け取った後、俺は境界村に戻り、早速ビジネスを始める準備を進めていく。

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