第3話
「ちょっと待ってくれよ! 俺は戦ったことなんてないんだ。しかもあんなにも大きな恐竜みたいな魔物とどうやって戦えって言うんだよ?」
『堂本幽、あなたは覚醒者として目覚めました。幽精霊師の力を使えば、魔物とも戦うことが可能です』
理屈はわかるが、気持ちが追いつかない。
「でも、俺にはその自信がないんだ。そもそも、俺一人でどうやって戦えばいいんだよ!」
『あなたは一人ではありません。あなたは鬼火蝙蝠のヒバチを使役しました。ヒバチの能力があなたに宿っております。それを上手く使えば、勝つことができるでしょう』
その時、ヒバチが俺の手の中で小さく輝き、優しく頬に頭を擦り寄せてきた。
温もりが、心に少しだけ勇気を与えてくれる。
「キュピ!」
ヒバチの励ましの声に、俺は少しだけ落ち着きを取り戻した。
このままここにいても救助が来る保証はない。
最悪何日も助けてもらえないかもしれない。
食料もないまま餓死で死んでしまう恐れもある。
なら、動ける今のウチに戦った方がいいのか?
ヒバチはやる気を示すように、「ふんふん」と鼻息を荒くしている。
俺の仲間であり、共に戦う存在は頼もしいな。
二人で力を合わせれば、恐竜型の魔物とも戦えるかもしれない。
『恐れる必要はありません。ヒバチはあなたを守り、共に戦う意志を持っています。まずはヒバチの能力を活用し、次にどう動くかを計画しましょう』
導こうとしてくれている世界の理さんに背中を押されて決心する。
「……分かった。俺も覚悟を決めるよ。ヒバチ、一緒に戦ってくれるか?」
「キュピ!」
ヒバチが元気よく頷き、再び輝きを増す。
真っ赤なコウモリは、全身を火の玉にして燃え始める。
「強そうじゃないか。よし、行こう。まずは相手が入ってこれないこの場所から、相手の顔面に火の玉をお見舞いしてくれ!」
俺の命令にヒバチが頷き、火の玉を生み出して、こちらを覗き込む恐竜の顔面に攻撃を仕掛けた。
「えっ!?」
その火の玉はぶつかる瞬間に大きくなり、恐竜にぶつかって爆発した。
「凄い! ヒバチ凄いよ!」
「キュピ!」
『使役された魔物は、術者の補助を受けて、本来の力以上の能力を発揮します』
「それを早く言ってくれよ!」
恐竜が怒りに震えて、咆哮を上げながら壁に激突してくる。
「クソッ! 向こうもヤケになってやがる。ヒバチ、連発で放てるか?」
「キュピ!」
『あなたも使うことを推奨します』
「えっ? 俺も?」
世界の理さんに言われて、ヒバチがしているように、火の玉を作る出すように念じる。
「出てこい、火の玉!」
ソフトボールぐらいの火の玉ができた。
「出来た!」
俺は、それを魔物に投げつける。
『GYAAAAAAAA』
「効いているんじゃないか?!」
俺は投げやすいように石を拾って、それに火の玉を纏わせる。
それをどんどん恐竜の顔に投げつけた。
安全な場所にいるからこそ、行える手法だ。
効果は絶大だったようだ。
俺の一投が、恐竜の鼻の穴に入り、頭の中で火の玉が炸裂した。
その瞬間、恐竜が白目を剥いて倒れた。
「えっ?!」
「キュピ!」
『ブルーゲートのボスを討伐しました。覚醒後、最初のダンジョンで単独攻略を成し遂げた特典として、【漂流者】の資格を習得しました』
【漂流者】? 覚醒者とは違う言葉だ。
また新しい何かを得たのか? だけど、そんなことよりも今は初めて魔物を討伐できた。
世界の理さんが恐竜の魔物が討伐されたとアナウンスしてくれたから倒せたんだ!!!
「やった……のか?」
「キュピ〜」
ヒバチが纏っている炎を消して、俺の顔に頬を擦り寄ってくる。
熱いぐらいの体だが、フワフワで柔らかくて可愛い。
「ありがとう、ヒバチ。君のおかげで倒せたよ」
「キュピ!」
ヒバチに何度もお礼を言って、戦いの余韻に浸って座り込む。
『ダンジョンのボスが倒されました。ダンジョンからボスが消滅します。安全に出口に向かえるようになりました』
なんだかんだ言っても、ここまで俺を導いてくれたのは、この無機質な声だった。
「世界の理さんも、ありがとう。あなたが背中を押ししてくれたから、戦うことができた!」
俺がお礼を伝えると世界の理さんの声が一瞬止まる。
『……どういたしまして』
もしかして照れているのかな? 世界の理さんにも感情ってあるのか?
「これでボスはいないんだよな?」
『はい! あなたは攻略者になりました。ボスは出現しません』
「よし、なら出口を探そう。俺も覚醒者として力を得られた。ヒバチ、協力してくれてありがとう」
「キュピ!」
『経験値、スキルポイントをゲットしました』
表記が現れて、世界の理さんの声がする。
だが、それは定期文だったようで、すぐに消えた。
「えっと、今のはなんだい?」
世界の理さんに問いかけてみるが、反応がない。
う〜ん、自分で考えろってことかな? 俺は出口を探して、ダンジョンの中を歩き回ることにした。
「お〜い、誰かいますか?」
「あっ!? すみません。ここです!」
ダンジョンから脱出しようとして歩いていると、人と出会った。
「やっぱり救護者がいたんですね。えっと、覚醒者の方ですか? 所属は?」
「所属はありません。ゲート発生に巻き込まれて、覚醒者になったんです」
「なるほど! その力で生き延びたってわけですね。ゲート発生から二十四時間も経っているから、よくがんばりましたね!」
「えっ!? 二十四時間?」
いつの間にそんなに時間が経っていたんだ? 全然気づかなかった。
日々の疲れのせいで、意識を失っている間に十時間も寝ていたと言われていたな。
その後は、世界の理さんと話したり、ダンジョンボスに追いかけられて、ヒバチと契約して、戦っている間に、そんなにも時間が過ぎていたんだ。
「ああ、もう救護者はいないかと思っていたので良かったです」
「手数をおかけしました」
「はは、つかぬことをお伺いしますが、ボスを倒したのはあなたですか?」
「えっ?」
「先ほど、ダンジョンボスが撃破されたと脳内アナウンスがなったんです」
世界の理さんは、覚醒者なら全員についているのかな?
「えっと、はい。そうです」
「ほぅ〜、それは期待の新人ですね。私は、
「ありがとうございます。俺は堂本幽って言います。助かりました」
「それでは出口に向かいましょう」
歩き出そうとしたチョウ・ミサトハンターに俺は深々と頭を下げた。
「あの、超ハンター」
「うん?」
「助けていただきありがとうございました!」
「ふふ、こちらこそお礼を言っていただきありがとうございます」
出現したゲートの遭難者として、覚醒者である超ハンターに救護してもらって、俺はダンジョンを生き延びた。
ゲートから出られて考えたことは……。
「仕事やめよう」
ずっと悩んでいた悩みが、覚醒者になったことで解消した。
会社という組織から離れる決意ができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます