第11話 

《side 難波一宗》


 神々が住まう境界村、そこに新たな住民がやってきた。


 堂本幽という覚醒者や。


 ゲートの管理人として、魔物を狩る役割を担っているらしい。

 能力については不明、妖怪を使役する力か? 覚醒して三ヶ月で年齢はワイの一個下やった。


 ワイは大型クラン【イン】のメンバーとして登録されとる。


 本来のワイの仕事は、巨大な力を持つ守護霊ハナを監視することや。

 監視をするために、この境界村にやってきて住職として暮らしとる。


 他にも大勢の妖怪や神など、人成らざる者が現れる場所として、この村は《境界》だと言われとる。


 そんな場所を、大型クラン【隠】は、長年見守ってきた。


 元々古くから存在していた組織として、京都に総本山を持ち、陰陽術や呪術を使って、妖怪や魔物と戦う影の集団やった。


 ゲートの出現でしてからは、覚醒者としてより強力な力を手に入れた者たちが現れ、ゲートの影響で敵も強い存在が増えるようになった。


 ワイたちの戦いをさらに厳しいものなったんや。


 大切な人も、大勢失った。


「さて、報告せなあかんな」


 ワイは神社の奥にある一室に入り、巨大なモニターでクラン本部への通信を開始する。


 スクリーンに上司の影山千景カゲヤマチカゲが映し出される。


「イッソウ、何か報告があるん?」

「はい、新たな住民が境界村に引っ越してきました。堂本幽という名前で、覚醒者です。彼はゲートの管理人として、魔物を狩る役割を担ってます。それにあの守護霊を宿した屋敷に住んどります」

「……それで? 彼は何か問題を起こしそうなん?」

「今のところ特に問題はあらへん。彼は真面目な性格のようです。ヒバチという使い魔と共にダンジョンでの活動を始めてます。引き続き彼の動向を監視し、特に守護霊ハナとの接触に注意を払うつもりです」


 あまりにも巨大な力は危険や、日本の各地に潜む妖怪たち、それらがゲートの影響で力を得て問題を起こさないように監視をするんもワイらの仕事や。


「わかった。守護霊ハナの監視は我々にとって重要や。何か異変があればすぐに報告してや」

「わかりました。引き続き監視を続けます」


 通信を終えると、ワイは再び深いため息をついた。

 役割は重大やけど、それが村の安全とクランの目的と繋がると信じとる。


 ワイは村の中心部に戻り、日常の業務を続けた。


 新たな住民であるユウとは友好的な関係を結ぶことにした。


 ワイにとっても人の良さそうな顔を見せるユウに態々敵対する意味がないからなぁ〜。仕事やから心の中では、監視の意識を忘れることはないけどな。


 ♢


《side 堂本幽》


 境界村に移住して二ヶ月が経った。

 

 ゲートで間引きをしながら、ノブヒデさんの修行を受ける日々にもやっと慣れてきた。


 村の人々とも親しくなりつつある。


 ある日のこと、俺は村の周辺を散策することにした。


 美しい自然の中で風景を楽しみながら、村の神社へと足を運んだ。

 そういえば、境界村に来てから、四季折々の様々な景色を目にしている。


 遠くの山には雪が積もり、春や夏に咲く花を見て、山が紅葉に染まるのも見た。


 とても不思議なことだ。

 どうして今まで、そんなことに気づかなかったんだろう? 不意に、境界村の中央に位置する神社に辿り着いていた。


 境界村の象徴とも言える場所で、神社の鳥居をくぐると、ひんやりとした空気が肌に触れる。石段を登り、本殿に近づくと、突然、背筋にぞくりとした感覚が走った。


「なんだ今の?」


 都会の喧騒を離れてから、黒い霧のようなモヤを見なくなっていた。

 だけど、黒いモヤを見る際に感じるのよりも強い気配を感じた。


 目の前に広がる本殿は、古びた木造の建物でありながら、その佇まいは威厳に満ちていた。周囲には大きな木々が立ち並び、まるでこの場所全体が生きているかのような錯覚を覚える。


「ユウ、よう来たな」


 声をかけられるまで気付くことができなかった。


「イッソウさん」

「うん? どうしたんや、鳩が豆鉄砲を喰らったみたない顔して」

「あ〜、この神社って不思議な気配がしませんか?」

「おお、なんや、やっぱり覚醒者やな。ここは境界村の神社、神々が住まう場所やねん。この村を守るために、多くの神々や妖怪たちが神社に集まっとる」

「妖怪や神々?」

「そや」


 姿は見えていないが、気配を感じる。


 イッソウさんの言葉に、俺は再び周囲を見回した。すると、木々の間から、まるで幻影のように淡い光が見え隠れするのがわかった。


「ユウは、神々の存在を感じ取る力があるんやな。この村では、その力が必要とされることが多いんやで」


 イッソウさんの言葉に頷きながら、俺は本殿に向かって手を合わせた。まるで、俺の願いに応えるかのように、心の中に暖かい感覚が広がった。


「神々が、歓迎してくれているようやな」

「わかるんですか?」

「これでも神社の責任者やからな。それに覚醒者として、そっち系が専門や」


 イッソウさんは、神社の中心にある御神木に手を当てて微笑んだ。

 俺も御神木に手を当てると、全身に力が漲るような感覚を覚える。


「ほう、御神木もお前さんを歓迎しているな。なんや神に好かれるコツなんかあるんか?」


 俺は幽精霊師として、人成らざる者に好かれると言われていた。


 その中には神様も入っていたはずだ。


「自分ではわからないです」

「そらそうやな。神様に好かれる方法があれば、誰もが知りたいわ。ワイも幸福の神さんに好かれて、嫁さんが欲しいで」

「はは、確かにそれは欲しいですね」

「そやろ?」


 イッソウさんにお茶をご馳走してもらって、神社の空気に包まれる。

 最初は不思議な感覚に思えたが、御神体に触れてからは、心地良い空気に変わったように感じる。


「ユウ、これからもこの村を一緒に守っていこな」

「はい、イッソウさん。これからもよろしくお願いします」


 俺はイッソウさんと共に神社で過ごすのんびりとした空気が好きだと思えた。


 境界村は、至る所に不思議な感覚を覚える場所があって、俺にとってはとても心地良い環境に思えた。


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