第12話

 境界村での生活にも少しずつ慣れてきたある日、ハナさんとマツさんから畑の管理の仕方を教わることになった。


 今日は、とうもろこしを植えるための準備をする。


「ユウ君、今日は畑の管理について教えるわね。まずは、この畑を見てみましょう」


 マツさんが指さす先には、広大な畑が広がっていた。

 ハナさんが管理してくれている畑で、農作業用の服を着たマツさんも手伝いに来てくれていた。


「ハナさん、マツさん、本日は農業初心者の俺に指導を、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく頼むね。まずは土を耕すところから始めようかね」


 マツさんが手に持ったクワを使って、土を耕し始める。

 俺も同じように鍬を手に取り、マツさんの動きを真似してみる。

 しかし、1000坪もの畑を手作業で全て耕すのは大変だ。


「ユウさん、見ていてくださいね」

「ハナさんが凄いところを見せてくれますよ」


 ハナさんが微笑みながら手をかざすと、畑全体に風が巻き起こり、土がふわりと浮き上がった。彼女の念動力で土が一気に耕されていくのが見て取れる。


 普段、こうやってハナさんは畑の管理をしてくれているんだな。


「すごい…ハナさんの能力、本当に凄いですね」

「ありがとうございます。ただ、敷地内でしかできないので、少しでも、範囲外になると力は使えません」

「そうなんですね。だけど、土がふかふかになりました」

「はい! 次は肥料をまく番です」


 マツさんが持ってきた肥料を、均等にまき始める。

 俺も同じように肥料を手に取り、畑全体にまいていく。


「ユウ君、肥料は均等にまくのがポイントだよ。そうすると、どのとうもろこしも同じように栄養を吸収できるからね」


 マツさんのアドバイスを受けながら、慎重に肥料をまいていく。

 畑全体に肥料が行き渡ると、次のステップに進む。


「次は、とうもろこしの種を植えるよ。一つの穴に二、三粒ずつ入れて、軽く土をかけてね」


 マツさんが手本を見せてくれる。俺も同じように穴を掘り、種を植えていく。


 手の中に収まる小さな種が、これから大きなとうもろこしになるかと思うと、なんだか感慨深い。


「ユウさん、種を植えた後は、水をしっかりとあげましょう。これでとうもろこしが元気に芽を出す準備が整います」


 ハナさんが大量の水を宙に浮かせて、雨のようにまいてくれた。

 俺も自分でまいた部分にホースを使って水をあげる。

 水が土に染み込み、しっかりと根を張るための準備が整った。


「ちなみにね、とうもろこしは、他の植物と一緒に植えると良い効果があるんだよ。例えば、インゲン豆と一緒に植えると、インゲン豆が土壌に窒素を供給してくれるから、とうもろこしの成長を助けてくれるんだ」

「へえ、そんな方法があるんですね。勉強になります」

「他にも、とうもろこしは風媒花だから、風で受粉するの。でも、受粉が不十分だと実がスカスカになっちゃうから、しっかりと風通しの良い場所に植えることが大事なんだよ」

「わかりました。風通しの良い場所に注意します」

「よし、これで一通りの作業は終わりだね。あとは毎日水をあげて、雑草を取り除いて、しっかりと見守ってあげるんだ」


 マツさんが優しく微笑みながら言う。

 その笑顔に、俺も自然と笑顔がこぼれる。


「ありがとうございます。マツさん、ハナさん。これからしっかりと畑の管理を頑張ります」

「一緒に頑張りましょう、ユウさん」

「そうだね。これからが本番だよ、ユウ君」


 二人の励ましに感謝しながら、俺は新たな一歩を踏み出した。

 畑の管理という新しい挑戦に、これからも全力で取り組んでいこうと心に誓った。


 ♢


 畑をやり出して気付いたことだが、生き物を育てるのは難しい。

 天候の変化や、毎日の手入れ、全てが大切なことで、1日も休むことができない。


 気付けば、一人ワーカーホリックになっている。


「自分でも、どっかで休憩しないとな」


 境界村での生活にも少しずつ慣れてきたが、日々の仕事に追われていることに変わりはない。ある日の夕方、畑の管理を終えて帰宅すると、ハナさんが待っていた。


「ユウさん、ちょっとお話があります」


 ハナさんの真剣な表情に、少し緊張しながら話を聞くことにした。


「最近、ユウさんは働き詰めで少しお疲れのようです。今日はしっかりと休んでいただきたいと思います」

「でも、まだやることがたくさんあって…」

「ダメです。今日は特別なリラクゼーションマッサージを用意しましたから、少しでもリラックスしてください」

「マッサージ…?」


 その言葉に、思わず脳裏にエッチな想像が浮かんでしまった。


 ハナさんの優しい手が自分の身体に触れてくる光景が頭の中に広がる。

 いやいや、そんなことを考えるべきじゃない。

 守護霊であるハナさんは、俺に触れることはできないんだ。


「ユウさん、大丈夫ですか?」


 ハナさんの問いかけに、慌てて我に返る。

 顔が少し赤くなっているのを感じながら、冷静を装う。


「はっ、はい! 大丈夫です。ただちょっと驚いただけで…」


 そう言われて、ハナさんに促されるままリビングに入ると、そこにはふかふかのマッサージベッドが用意されていた。


「念動力リラクゼーションマッサージを試してみてください。私が特別に施術しますから、心配いりませんよ」


 ハナさんの優しい声に従い、マッサージベッドに横たわる。

 ハナさんが手をかざすと、ふわりと温かなエネルギーが身体全体に広がっていくのが感じられた。


「まずは、肩からリラックスさせていきますね」


 ハナさんの念動力が、まるで見えない手のように肩を優しくほぐしていく。

 筋肉の緊張がゆっくりと解けていき、思わずため息が漏れる。


「これは本当に気持ちいいですね…」

「よかったです。ユウさんの疲れが少しでも取れたら嬉しいです! ユウさんは生きているので、たまには休まないとダメですよ!」


 ハナさんの念動力によるマッサージは、肩から背中、そして足先にまで及び、全身がリラックスしていくのがわかる。


 特に腰や背中の凝りがほぐれていくと、心身ともに軽くなるような感覚が広がった。


「ユウさん、今日は何も考えずにリラックスしてくださいね」

「ありがとうございます、ハナさん。本当に感謝しています」


 目を閉じると、ハナさんの念動力が身体を優しく包み込み、深いリラックスに誘ってくれる。普段の忙しさを忘れて、心地よい眠りに落ちていった。


 目が覚めると、身体が驚くほど軽くなっていることに気づいた。

 ハナさんのマッサージのおかげで、心身ともにリフレッシュできたようだ。


「おはようございます、ユウさん。よく眠れましたか?」


 キッチンから笑顔で声をかけてくるハナさんに、俺も微笑み返す。


「はい、おかげさまで。こんなにスッキリしたのは久しぶりです」

「それは良かったです。今日はお休みの日にしましょう! ゆっくり過ごしてくださいね」

「ありがとうございます、ハナさん。今日は本当に感謝しています。俺も自分で調整はしないといけないと思っていたところだったので」


 ハナさんのおかげでリラックスできて、休むことができた。

 また明日から頑張る力が湧いてきた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る