第5話
ネットで調べた情報によれば、ダンジョンの中で話していた世界の理さんと、ダンジョン以外でもアクセスは可能だった。
「世界の理さん、ステータスを見せてくれ」
『ステータスオープン』
無機質な声が響き、ダンジョンの中で見た表示が現れる。
・ステータス
名前:
年齢: 30歳
覚醒者:・
称号: ・漂流者 ・人外に愛されし者
体力: 肉体の持久力と回復力。
魔力: 体内にある魔法エネルギー量、様々な魔法を使う際に消費する。
精神力: ストレスや恐怖などに対して耐性と集中力を持ち、困難な状況でも冷静に対処できる。
攻撃力: 魔法や武器を使った他者に与えるダメージの威力を上げられる。
防御力: 肉体の耐久性、外部から受ける攻撃に対して受けたダメージの威力を減らせる。
敏捷性: 動きが素早く、反射や反応速度を上げる。
知 力: 記憶力がよくなり、戦略を練る際の脳の処理速度を上げる。問題解析能力を上げることができる。
幸 運: 運が良く、予期しない幸運に恵まれる。
幽精霊師としての能力
・人成らざる者との交信: 人成らざる非物質存在と交信し、情報を得ることができる。
・人成らざる者の視覚: 普通の人には見えない存在を視認できる。これにより、隠された情報や存在を見つけることができる。
使役した人外の能力:【鬼火蝙蝠ヒバチ】
・火の魔法: 火を操ることができる。火のバリアや火球の発射などが可能。
・幻覚生成: 幻覚を作り出し、敵を惑わせる。
表記されたステータスを一つ一つ確認して、俺は本当に覚醒者になったことが理解できた。
「キュピ!」
「ヒバチ、覚醒者って凄いんだな」
「キュピ!」
俺は色々と調べ物をしている内に夜は明けていた。
♢
覚醒者になった後も、仕事を辞めるための準備は進めていた。
ゲートに巻き込まれたことで滞っていた仕事の処理に追われ、自分が抱えていた案件を全て終わらせるために一ヶ月かけた。
新しい仕事を取る事はなく会社を辞める準備ができるのに、それだけの時間がかかってしまった。
責任がある仕事だけは引き継ぎを行ったのは、きっちりと終わらせたいと思うのは俺のエゴだ。
「おい、幽霊野郎!! お前はどんな仕事をしてやがる!!!」
怒声と共にオフィスに入ってきた上司は、俺の服を掴んだ。
「っ!」
事件に巻き込まれてからは、会社内での風当たりはますます強くなっていた。
代表的な相手として、課長の久保田だ。
三年ほど前から、直属の上司になって無理難題を押し付けてくる最低な奴だ。
数日前に、三件のブッキング案件をこちらに回してきた。
自分がいい顔をして取引先から取ってきたくせに、責任をこちらに押し付けてきたのだ。
「できる仕事をしただけです! 課長」
「はっ?! お前の仕事なんて所詮は最低限ってやつだろ! 最近は新しいクライアントが取れていないじゃないか! こんなものは仕事とは言えねぇんだよ! 取引先様が待ってんだろうが! 仕入れ先を急かしてでも、持って来いって言ってんだよ」
無理難題だ。
個人ハンターは決まった数をちゃんと仕入れてくれている。
それ以上を求めて、自分の成績を上げようとしているだけのくせに、命令ばかりして自分はまともな仕事をしない。
「そんなことをしていれば、いずれ信用を失いますよ! 取引をしているハンターさんに仕入れを中止されたらどうするんですか?!」
「ウルセェよ! 俺たちはゲートから取れる鉱物を取り扱ってんだぞ! 今はダンジョンバブルなんだそ! 取引中止なんて有り得るかよ。ハンターなんて使い潰しなんだ、代わりはいくらでもいるんだよ!」
掴まれていた服を離され、壁に腰を強く打ち付ける。
モラハラ、パワハラは当たり前、サービス残業なども毎日。訴えようとすれば、会社内で協力して隠蔽をする最低な環境だ。
それでも一応は義理を通す。
「今月いっぱいで辞めさせてもらいます」
「ハァ?! そんなことが出来ると思っているのか! 雇用契約書にサインしてんだから無理に決まってんだろ!? 二週間前に辞められると思うな! 最低でも三ヶ月だ」
「課長、法律を知らないんですか? 二週間前でも辞表は通ります。もしも、ここで私を辞めさせてくれないなら、弁護士に依頼します」
「くくく、お前みたいなバカがいるから言わせてもらうがな。こっちの顧問弁護士の方が強いんだよ。どれだけそういう案件を取り扱ってきていると思ってんだ」
課長の言うことは間違っていない。
だが、訴えられるのを突っぱねるのが得意な弁護士であって、正式な辞表を法的な処置で提出することに対して対処できる弁護士ではない。
「それでは」
「おい! 仕事を放り出すつもりか?!」
「請け負っていた仕事は全て終わりました。残っているのはあなたが取引先から勝手に取ってきたノルマ外の仕事です。押し付けられたあなたの仕事ですよ。ご自分でどうぞ」
「なっ!」
最後ぐらいは言い返してやりたくて、全て残してやった。
先ほど服を掴まれた事だって、証拠を残すためにわざと掴ませた。
覚醒者になったことで、身体能力が高くなり、課長程度の攻撃は避けることもできた。だが、全ての罵声をスマホで録音して、置いてあるカメラで証拠を押さえている。
「幽霊野郎!! 覚えていろよ!」
「もう、あなたとは関係ありませんよ」
久保田課長に対して、言い返すことができた。
♢
会社の揉め事を解決してもらうために、俺は会社をやめる準備の一環として、ハンターギルドに登録を行った。
覚醒者として、国が運営するハンターギルドへ登録する義務があるからだ。
簡単な書類審査と、能力によって自分が出来ることを記載するだけで良かった。
ただ、特殊クラスである幽精霊師が、どのようなクラスなのかわからなかったので、ヒバチの能力である火の魔法が使えると記載した。
魔法系の覚醒者として登録をされて、さらに実践で炎を出すところを見せた。
「素晴らしいですね。D級魔導士として登録させていただきます」
登録担当者に能力を見せて、ライセンスを取得した。
ライセンスをもらえたことで、ハンターギルドから弁護士を紹介してもらった。
超ハンターの名刺を見せて、ここなら紹介してくれると教えてもらったと伝え、職員さんは丁寧に対応してくれて、弁護士探しを早めてくれると約束してくれた。
弁護士さんが決まり証拠集めの期間で、仕事を終わらせたと言うわけだ。
ただ、幽精霊師になって、不可解な出来事が増えた。
これまで見えなかった者たちが見えるようになったことだ。
都会の喧騒の中に埋もれる悪意は、不快な光景に思える。
「幽霊とか悪霊ってやつなのかな……?」
彼らは俺に対して悪さをしてくることはない。
こちらを見ていることもあるが、鬼火蝙蝠のヒバチが俺のことを守ってくれているからだ。
ゲートの中ではないので、体の中で眠るヒバチを頻繁に外へ出してやることはできないが、家の中で話しかけることがある。
そして、世界の理さんは、ダンジョン外では会話はできなかった。
ステータスなどは表記してくれるが、こちらと会話をするような感じではなく、完全に定期文といった感じだった。
「ヒバチ、お肉だよ」
「キュピ!」
ヒバチは妖精だけど、普通に食事を取れるので、食事の際には一緒に食べている。
なんだか、ヒバチがご飯を食べる光景に癒される自分がいるので、日課になつた。
「ヒバチ、もうすぐだ。もうすぐで会社を辞められるぞ」
「キュピ! キュピ!」
頑張れというように、応援してくれるヒバチを撫でながら、俺は会社を辞めた後のことを考えていた。
覚醒者として、ハンターになるつもりでいるが、本当にそれだけで良いのだろうか? 素人の自分がハンターとして成功できるのか不安がある。
もしも他にも方法があれば……。
そんな気持ちで、覚醒者の働き方を調べるサイトを見ていると、不意に目に留まった広告があった
「我が街、境界村に移住しませんか?」
覚醒者を求める広告に田舎への移住の広告だった。
募集要項を見る。
「過疎化した土地はあなたの移住を待っている! 移住を考えてくれる人には、家、土地、庭、畑、ダンジョンをお付けします(ただし条件あり)」
読み上げた内容に、自分で驚いてしまう。
「ダンジョン付き?!」
驚きの内容に二度見した。
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