石けん泥棒

 俺は高校で保健委員をしている。保健委員の仕事の一つに、手洗い場の石けんの補充がある。蛇口の下にネットでかけてあるアレだ。石けんが切れたのを見かけたら、代わりのを設置するのが俺の役目ってわけだ。


 ある月曜の朝、登校した俺はトイレに行った。用を足したあとに手洗い場に向かうと、左隅の蛇口の石けんが切れていた。やれやれ、補充しないとな。俺は手を洗ったあと、保健室に向かった。


 保健室で石けんを受け取って補充記録に記入しようとしたとき、異変に気づいた。あれ? ここの蛇口、この間の金曜も補充してるじゃないか。この短期間でどうして無くなってるんだろう。俺は訝しみつつ、保健室を後にした。


 さらに次の日の朝。手洗い場に向かうと、やはり石けんが切れていた。またか、困ったなあ。俺は昨日と同じように保健室に向かった。石けんを受け取り、補充記録に記入する。手洗い場に戻って、左隅の蛇口に石けんを補充した。


 教室に戻った俺は、悩んでいた。うーん、どうしたものか。一日で石けんを使い切るなんてあり得るだろうか。そんなに熱心に手を洗う奴がいるとも考えにくいし。まさか、盗んでいるのだろうか? いやいや、薬局に行けば数百円で買えるような石けんだ。わざわざ盗んでどうすると言うんだろう。でも、盗んでいるとしか考えられないし……。


 考えても仕方ないので、俺は飲み物を買いに行くことにした。鞄から財布を取り出し、自販機へ向かった。財布を開き、小銭を取り出す。そういや、最近金の減りが早いな。小遣いの中でやり繰りしてるから、使いすぎには気をつけないとな……。そんなことを考えつつ、お茶のボタンを押した。


 その翌日の朝。手洗い場に行くと、やっぱり左隅の蛇口の石けんがなくなっていた。が、今日は秘策を用意していた。俺は保健室に行かず、教室に戻った。そして鞄の中からハンドソープのボトルを取り出し、手洗い場に向かった。


 昨日の帰り道、コンビニでコイツを購入した。石けんがなくなるなら、思い切って別のものを補充してみればいい。こうしたらどうなるか実験してみよう。ハンドソープが無くなるのか、それとも何も起こらないのか。ふっふっふ、楽しみだ。


 そして迎えた翌朝。なんと、左から二番目の石けんがなくなっていた。ハンドソープはそのままだった。石けんがとにかく欲しいということだろうが、分からん。犯人は何がしたいんだ。石けんなんか盗んでどうするんだよ、マジで。俺は混乱しながら保健室へと向かった。


 毎度のごとく補充を終えた俺は教室に戻った。いくら石けんだからって、盗んだら泥棒だしな。俺は鞄から一枚の紙を取り出した。そして油性ペンで「石けんを持ち帰るのはやめましょう 保健委員」と書き、両面テープを貼った。そして手洗い場に持って行き、近くの壁にそれを貼った。


 いまさらこんなポスターでどうにかなるとは思えん。が、「お前の犯行はバレているぞ」という意思表示にはなるしな。少しは状況が改善することを祈ろう。


 次の日の朝。誰よりも早く登校した俺は、一目散に手洗い場に向かった。すると、そこには驚くべき光景があった。なんと、大量の石けんが積まれていたのだ。


 これ、もしかして今まで盗まれていた石けんじゃないか?そう思いながら石けんの山を崩していくと、一枚の紙切れが埋まっていた。そこには「今まで盗んだ石けんをお返しします。申し訳ありませんでした」と書かれていた。


 なんだ、返してくれたのか。散々盗んでおいて、こんなにあっさり返してくるとはな。コイツ、何がしたかったんだろうな……。ん?この紙切れ、裏にも何か書いてあるな。裏返してみると、油性ペンで一言書いてあった。



「教室を離れるときは貴重品を持って行きましょう 石けん泥棒」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る