次の日曜に会いましょう【ホラー短編集】

古野ジョン

次の日曜に会いましょう

 社会人になってから数年が経ち、仕事にも慣れてきた。となると、私生活の方を充実させたくなってくる。同級生の結婚式に呼ばれることも多くなったし、そろそろ彼女でも欲しいところだな。


 そう思った俺は、マッチングアプリを始めてみることにした。とりあえずネットでいろいろと調べてみたのだが、多種多様でよく分からない。料金が高いとか、利用者にサクラがいるとか、そんな情報ばかりで頭が痛くなってくる。


 こういうの、昔はなんて言ったかな。そうだ、出会い系だ。当時は出会い系サイトといったら怪しいサイトばかりだったのになあ。こんなにマッチングアプリが流行るなんて、思いもしなかった。


 ふと、思い出した。そういえば、中学生の頃にふざけて出会い系サイトに登録したことがあった気がする。単に興味本位で覗いていただけだったから、特に何かしたわけでもないけど。あのサイト、まだあるんだろうか。


 俺はかつての記憶を辿ってなんとかサイト名を思い出し、ネットで検索した。すると、検索結果のトップにそのサイトが出てきた。クリックしてみると、出会いを求める人々のプロフィールが表示された。ページのデザインは当時と全く変わっておらず、不気味さすら感じる。


 そうだ、試しにこのサイトで出会いを探してみるか。最近流行りのアプリなんかよりも、十年以上続いているこっちのサイトの方が信用出来るかもしれん。駄目だったらやめればいいさ。


 俺はそのサイトで、条件に合う女性を探し始めた。すると、会社の近所に住んでいるらしい女性が見つかった。丁度いいな。俺はサイト内のメッセージ機能でその女性にコンタクトして、次の日曜に会うことにした。


 そして待ち合わせ当日。駅前で待ち合わせることにしたのだが、いつまで経ってもその女性は現れなかった。教えてもらった電話番号にかけても出なかったので、サイトのメッセージ欄も確認してみた。すると、女性から「あの、駅前ですよね?ずっと待ってるんですけど」というメッセージが届いていた。


 散々探し回ったがその女性は見つからず、結局諦めて帰宅した。うーん、やっぱり古い出会い系サイトじゃ駄目かあ。美人局じゃなかっただけ、まあ良しとするか。やっぱネットに頼らず自分で相手を探せってことなのかなあ……。そんなことを考えながら、俺は眠りについた。


 次の日。職場に出勤した俺は、いつものように仕事を始める。えーと、今日は課長に報告することがあるんだったな。俺は書類を持って、課長のところへと向かった。


 課長にいろいろと報告していると、あることに気がついた。いつもはめていたはずの課長の指輪が無い。たしか結婚して十年弱だったと思うが、何かあったのだろうか。でも、本人には聞けないしなあ。


 報告が終わり、俺は自分のデスクへと戻った。そうだ、誰か指輪の件について知らないかな。そう思い、隣の席の同僚に尋ねた。

「なあ、課長って何で指輪してないんだ?」

すると、意外な答えが返ってきた。

「え?課長って独身でしょ?」

え?結婚していたはずだが。課長から毎年送られてくる年賀状には、奥さんの写真も載っていたような……。


 その日帰宅した俺は、年賀状の束を漁った。課長からの年賀状を見てみると、奥さんの写真は一つも載っていなかった。あれえ??記憶違いかな。他の上司と勘違いしているのかな……。何だか、狐につままれたような気分だ。


 結局その件は分からず仕舞いだった。ある日、俺は懲りずに例のサイトで良い条件の女性がいないか探していた。そういや、この前の女性はどうなったかな。俺は女性のプロフィール欄にもう一度アクセスしてみることにした。


 その女性は、俺とメッセージをやり取りしたのを最後にサイトにアクセスしていないようだった。この人、サクラだったのかなあ。それか、この間の件で出会い系使うのやめちゃったのかな。そう考えながら女性のプロフィール欄を眺めていると、何となく既視感を覚えた。


 このプロフィール、課長の奥さんとそっくりじゃないか?年齢は違うようだが、学歴や趣味が一致している。もしかして課長、離婚したのか?それで奥さんがネットで出会いを求めている、なんてな。年齢が違うのは、サバ読んでるってことかな。あぶねえ、俺も引っ掛かるところだったぜ。そもそも、上司と離婚したばかりの女を彼女にするなんて恐ろしいにもほどがある。


 あれ?それだと年賀状の件の説明がつかないな。まあ、俺が勘違いしてただけかな。きっと部長あたりと間違えたんだろう。上司からの年賀状なんて、全部同じに見えるからな。


 その後、俺は何人かの女性とコンタクトしてみたのだが、誰も待ち合わせ場所に現れなかった。それだけならまだいい。奇妙なことに、待ち合わせのあと必ず女性からこんなメッセージが届くのだ。

「私ずっと駅前で待ってましたよ」

「あれ?駅前で合ってますよね?」

「そっちから誘ってきたのに何でいないんですか!!」


 これはどうしたことだろう。「次の日曜に○○駅前で会いましょう」と連絡しているはずなのに、全員と会えないなんてことがあるのだろうか。まさか全員サクラだったのだろうか?あり得なくはないが、考えにくいな。


 その後もしばらく同じことが続いた。流石にどうしようもなくなったので、俺はその出会い系サイトを使うのをやめた。その後マッチングアプリを使ってみたのだが、あれよあれよという間に彼女が出来た。やっぱり、流行には理由があるんだなあ。出会い系サイトなんか、使うもんじゃないな。


 ある日、彼女と出かけていると、○○駅の近くを通りかかった。ああ、毎回懲りずに待ち合わせに来ていたのが懐かしいな……と思っていると、彼女が話しかけてきた。

「わたし、中学生の頃この辺に住んでたんだ!」

「へえ、そうなんだ」

「それでね、不思議なことがあったの」

「どういうこと?」

「私が毎週日曜にここを通るとね、必ず女の人が待ち合わせしてたの」

「そりゃ、待ち合わせくらいよくあることだろ」

「でもね、何だか皆きょろきょろしてたの!そこらへんを歩き回ってね、誰かを探すみたいに」

「え?」

「毎週必ずだよ?それっておかしくない?」

「……まあ、そういうこともあるんじゃないか?」

俺は適当に彼女に返事した。


 まさかな、いやいや。その日帰宅した俺は、久しぶりに例のサイトを開いた。適当に女性を探し、コンタクトする。もちろん、待ち合わせのためなんかじゃない。俺はある文言を打ち込み、エンターキーを押した。


「すいません、今って二〇二三年ですよね?」


「いえ、二〇一三年です」


出会い系サイトなんか、使うもんじゃないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る