第五十四話:第一部完の一休み

 ご都合主義上等なパワーアップで邪神討伐に成功した俺達。


 一旦、ネッケツゴッドレンセイオーを月へと着地させる。


 月面に降り立つと同時にロボは分離した。


 「ふう、ついにこの厄介な使命を終えたなあ♪」

 

 ロボの中から青き星、チェリッシュランドを見つめる。


 「そうね、次のゴールドバーグ王国の国王に相応しい偉業よ♪」

 「いや、国の責任は背負いたくねえよ!」

 「勇者は王女と結ばれ王となり、末永く幸せに暮らしましたとさ♪」


 乙女モードのレグルスが俺に抱き着き妄想を語る、面倒事は嫌だ。


 「いいえ、侯爵家に婿入りですわ♪」


 ポラリスが割り込む。


 「異議あり、ミズホで親藩の大名として家を興しましょう♪」


 アルタイスも割り込む。


 「さらに異議ありです、神となられた以上は教皇を目指しましょう♪」


 タウラスが新たな提案をして来た。


 「待つのじゃ、帝国の騎士であり名誉男爵として地位がすでにあるのじゃ♪」


 ヘリオスもまた、意見を出して来た。


 「ああ、やっぱりレッドを巡って争いになるか」


 エラポス、止めてくれよ。


 「邪神討伐の次は正妻大戦ですね、ポテチでも食べて見物したいです」


 アリエスは外道な事言い出したよ、このピンク。


 「いや、魔法学園での学生生活に戻りたいよ!」


 俺は正直に気持ちを叫んだ。


 乙女ゲームな世界でのんびり学園生活を過ごしたい。


 そんな俺の叫びは、どこにも届かなかった。


 ロボを分離してムーントータスに皆で乗り込み、ひとまず帰還する。


 教皇国の大聖堂の上空にまで降りて貰ったら、ロボに乗り込み射出される。


 皆のロボが空中で手を繋ぎ輪となり回りながらゆっくりと降下して行く。


 「おお、勇者様達が帰って来たぞ~~♪」

 「魔王も邪神も討伐されたんだ~~♪」

 「万歳、万歳~っ!」


 空を見上げる人々の歓声に出迎えられた俺達。


 ロボで街を壊さないように大聖堂前に全機着陸。


 ロボから降りて変身を解いて、人々に手を振る。


 万雷の拍手が巻き起こった。


 「よくぞ帰還した勇者達よ、偉業とも呼べる此度の働きは見事であった♪」


 大聖堂から出て来た教皇猊下に出迎えらえたので、跪いて向き合う。


 「女神からの託宣によりすべての事情は知っておる、よくやってくれた♪」


 お褒めの言葉を戴く、皆に促されて俺が返事をする。


 「ありがとうございます、全ては女神様と皆の協力の賜物です♪」


 湧き上がる拍手、この世界に生きる人類皆で掴んだ勝利だ。


 戦後の後始末が無茶苦茶大変だけど、そこも乗り切りたい。


 できるなら、バックレて学生生活に戻りたい。


 もう五年位有休を使って休みたいよマジで、有給とかねえけど。


 「世界を救い神に至った熱き勇者達、勇者部隊ネッケツジャーに祝福を!」


 教皇猊下がノリノリで叫ぶ、この人に長官が憑依してねえか?


 なし崩し的に勇者団も生徒会もネッケツジャーとして公式に纏められた。


 これまでお金とか掛けた分、世界の為に働けと言外に言われてるな。


 「自慢の息子だったレオンが、完全に娘にっ!」

 「陛下、お気を確かに!」


 ゴールドバーグ国王が気を失い、それを支えるのが我が父辺境伯。


 「王国の未来はこの子に託しましょう、あなた」


 王妃様は今や第一王子に繰り上げになった赤子を抱いて冷静な目だ。


 俺、王国や地元に生きて戻れるのか?


 アイゼン帝国の皇帝陛下はニッコニコ、こっち見ないで下さい。


 ブロンズ王国の女王陛下は、笑顔だけど何を考えてる?


 上様は微笑むのであった、嫌な予感しかしねえ。


 周囲に飛んでる鳩の目から来賓の顔を拝んでみたが、不安だ。


 俺はやり遂げたのではなくて、やらかしたの間違いではなかろうか?


 いや、やらかしはしているんだが悪いのは敵の所為だ。


 何と言うか、お腹痛い。


 敵と戦っている方が気楽だよ。


 神になったとか言っても、こういう状況を打開する力はない。


 その場で列聖の儀と言われて、教皇猊下から王笏で肩を叩かれて聖人認定された。


 聖マッカとか呼ばれる奴だよ、生きづらい称号貰っちまったな。


 仲間達も微妙な顔してる、これから各国で式典が続くんだ。


 王国に帰れば、こちらでも式典。


 全員が騎士の称号を貰った、農林大臣が牙を剥いてニコニコだった。


 王宮の廊下で、父上と再会した。


 「マッカよ、貴様は私の事を憎んでいるのか?」

 「いえ、俺も胸と胃を痛めております」

 「王家とシトリン侯爵家からの圧がかけられてるんだが?」

 「それはこっちも同じです!」


 そんなコントを父親とくり広げたりしたよ。


 男に戻れなくなったレオンは、王子から第一王女になった。


 王宮の秘密の地下室で話合いになる。


 何と言うか裁判所みたいな会議場だった。


 「私を女にした責任、取り続けてもらうからね♪」

 「私も責任を取り続けていただきます♪」

 「レオン様、フローラ嬢、陛下達の御前ですから?」

 「拙者も取り続けていただくでござる♪」

 「私も、神に誓って取っていただきます♪」

 「妾もじゃぞ♪ 幼馴染は負けヒロインではないのじゃ♪」

 「マッカ、皆で大聖堂で式を挙げましょう♪」


 アップルまで出てきた。


 「おい、貴様はアップル神にまで手を出したのか!」

 「サンハートよ、そなたの息子は女神まで垂らし込んだのか?」

 「婿殿、やりおるのう♪」


 国王陛下に父上に大臣が騒ぎ出す。


 式典の後で他に観衆がいない、王城の地下室での集いで良かった。


 案の定、大騒ぎになったがレオン達との結婚が報酬と言う流れで無理やり収めた。


 世界を救った功績と俺のやらかしでは、功績の方が上だった。


 次の挨拶回りでアイゼン帝国に行けば、魔力花火が上がり大通りに整列したマジックメイル部隊に見守られる中ド派手に出迎えられたよ。


 城の前では皇帝陛下やらお偉いさんがお出迎え。


 来賓で上様や女王陛下にうちの国王陛下達、教皇猊下と揃い踏み。


 偉い人達も外交の仕事で挨拶回りで遠征なのだから、文句ばかりも言えない。


 仲間達にはお決まりの騎士称号の授与。


 俺には辺境伯の地位と帝国内で温泉を探して見つけたらその地を所領にする権利。


 暇が出来たら調査と開拓に行こう、何時になるのかわからないが。


 祝賀会は立食パーティー。

 

 心を無にしていたので何を食べたか記憶がない。


 夏休みの時期だと言うのに休めない。


 ブロンズ王国を訪れたら、ダークエルフの居住区はなくなっていた。


 エルフとダークエルフが共に並んで俺達を歓迎してくれたのは涙が出た。


 「……ああ、やっと何かできたんだって実感が持てた」


 魔王軍との戦いで一番ボロボロになったブロンズ王国が、一番心が安らげた。


 青空の下、ささやかな式典の後での観光。


 俺達が月に行っている間、やはり各地に巨大魔獣が送り込まれたらしい。


 マジックメイル部隊を残して行ったのは正解だったか。


 戦火の跡が残る通りを歩く俺達。


 「見てマッカ♪ 広場に私達の銅像が出来てる♪」


 レオンがはしゃぐ、マジで?


 「ギャ~ッハッハ♪ 傑作ですよマッカさん♪」


 女子になったバッシュが、残念な笑い声をあげる。


 「これが銅像になったのか?」


 クレインが感慨深そうに銅像を見つめる。


 「うげ、これかよ!」


 広場の銅像、それは変身した俺が仲間達に担がれている姿だった。


 「フェニックスシュートの構えですわね?」


 フローラ嬢が苦笑い。


 「あ、子供達が両腕を広げて遊んでますよ♪」


 アオイ嬢が指し示す方角では、エルフとダークエルフの子供達が遊んでいた。


 「勇者の焼き鳥なんて出店もありますよ、マッカさん♪」


 クラウが出店を見ろと俺の袖を引く。


 手羽先を焼いて売ってた。


 「妾達が勝ち取った平和じゃ、胸を張れ♪」


 アデーレ様が俺の背中を叩いた。


 最後に訪れたのはミズホ国。


 中の都の宮城に招かれて上様と公王様、公武双方からお褒めの言葉を戴く。


 基地のある土地の領主に俺が任じられ、大名に加えらえた。


 式典を終え、勇者団改めネッケツジャーの基地へと戻ってこれた。


 「終わった、疲れた、もうしばらく式典とか出たくない」


 体は問題ないが精神が疲れた。


 ようやくできた一人の時間。


 俺は基地の自室でベッドの上に寝ころんでいた。


 「魔王も邪神も倒した、このまま天衣に連れて行かれても良いかな?」


 使命は果たしたし、女神様に頼んで地球に再度転生させてもらうのもありかな?


 仲間達の事もあるが、あいつらなら俺がまた転生しても追いかけて来そう。


 レオン、フローラ嬢、アオイ嬢、クラウ、アデーレ様、アップル。


 今しばらくは寝かせてくれ。


 段々と眠気を催して来た俺は、眠りについた。


 「ちょ! 何だよこれは?」


 気が付くと俺は白のタキシード姿で大聖堂の中にいた。


 首には六本の鎖が付いた首輪を嵌められ、六人の花嫁に包囲されている。


 「おはよう、マッカ♪」


 鎖の一本を持つ花嫁はレオン。


 「さあ、年貢の納め時ですわ旦那様♪」


 フローラ嬢も綺麗だけど、怖い。


 パイプオルガンの音色が恐怖感を増す。


 「さあ、お覚悟をなさいませ♪」


 アオイ嬢は白無垢だった。


 「今まで散々待たされてきましたからね、もう逃がしません♪」


 クラウもドレス姿が似合ていた。


 「マッカよ、腹をくくって夫となれ♪」


 アデーレ様、鎖を握る腕力が強いです。


 「懐かしいわ、あの時もこうして鎖で捕まえたわね♪」


 アップル、お前が発起人か!


 「マッカさん、おめでとうございます♪」

 「おめでとう、幸せにな♪」


 参列者はバッシュとクレインだけか?


 「さて、余が直々に式を挙げてつかわそう♪」


 きょ、教皇猊下が愉悦に満ちた笑顔をしてらっしゃる!


 「妻達よ、汝らはマッカ・サンハートを夫として永遠に愛し抜く事を誓うか?」

 「「誓います♪」」


 レオン達嫁レンジャーが宣誓する。


 「マッカ・サンハートよ、汝はこの者らを妻とし永遠に愛し抜く事を誓うか?」

 「誓います!」


 俺も誓う、自分が蒔いた種だ責任は取らないとな。


 何か罪人みたいな扱いだけれど、やらかして来たから受け入れよう。


 全員と誓いの口づけを交わすと、首輪と鎖が消え金の結婚指輪へと変化した。


 「これにて誓約は結ばれた、新たな門出に旅立つが良い勇者達よ♪」


 教皇猊下が叫べば大聖堂の扉が開き、参列者達の万雷の拍手が鳴り響いた。


 苦々しい顔の国王陛下と俺の父上。


 大喜びしているのは、農林大臣に上様に皇帝陛下。


 花鬼生徒会の皆も大喜びしてくれている。


 夏の晴れ渡る空の下、俺は仲間達と新たな門出を迎えたのだった。

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