第53話知らぬが凶

三人がそこへ行くと足に怪我をしているマルアハさんと少し離れた位置に三人の女子がいた。


2.4,ミネギシ魔導学校地下迷宮・事件(?)現場

そこには(アラン達の見える範囲では)足に怪我をし、尻もちをついているマルアハさんと、彼女を睨みつけている三人ほどの女子生徒がいた。

「どうするっすかアラン」

咄嗟に隠れた三人のうちの一人であるモルダ君は、同じく隠れたアランにそう聞いた。

「どうするって、そりゃあ助けるよ」

そう言ってアラン達は四人の女子の所へ向かった。


「何があったの?!」

そう言って近づいてきたアラン達を女子達は一瞬睨みつけると、すぐに怯えたような表情に変わった。


「あ!あんた達には関係ないでしょ!!」

何かに怯えているのかこちらに抗する女子の声は裏返っていた。


「迷宮で怪我人を見つけて『関係ない』はありえないっすよねぇ?」

そう言ってモルダ君は三人の女子からマルアハさんを遮るような位置に立った。

「アラン。止血帯を巻いておいて、その間に我々で話を聞いてくる」

ダグラス君はそう言ってモルダ君と二人で女子達の元へ向かった。


アランはその間にマルアハさんへの応急処置をすることにした。


2.5,学内地下迷宮・マルアハさんのいた場所

「消毒しますね」

アランはマルアハさんの足のきずを見て、まずそれが必要だと判断した。


「いっ!・・・別に良いのに」

「ダメですよ。こういう傷って、放っておくと大変なことになるんですから」


アランは消毒液を十分にかけた後、包帯を巻き始めた。


「ちょっと、待ってもらえるかしら」「どうしました」

自分マルアハの制止後も包帯を巻き続けるアランにマルアハは多少の焦りと怒りを含んだ声で続けた。

「それ!魔術包帯よね?!そんな高価なの使うほどの傷じゃないよね?」

包帯を巻き終わったアランは「でも、これしか持ってなかったので。そんなに気にすることもないと思いますよ」と言った。

「そう、なの?ありが、とう。包帯巻くの上手いのね」

「ありがとうございます。ルドルム教授に鍛えられましたので!」


「アラン。こっちはあらかた終わったっすよ。そっちは大丈夫っすか」

アランが胸を張っているとモルダ君達も戻って来た。

「こっちも大丈夫だよ?」

アランが心配そうに言うと、マルアハさんも頷いた。

それで安心したアランは「そっちはどうだった?」と聞いた。


「いまいち要領を得なかったっす」

モルダ君がそう言うと二人はアランにかなり近づいた。

「本人には言いづらいっすけど、多分ドゥさんはあの班とは別々で行動した方が良いと思うっす」

モルダ君の結論にダグラス君も頷いて同意を示した。

「でもどうするの?班の中で別行動はダメって先生言ってたよ」


「そこでなんだが、アラン。あの班と我々で一緒に行動するのはどうだ?」

アランの疑問にはダグラス君が答えた。

「学校内の揉め事ならともかく、ここは迷宮の中だ。正直今の状態じゃ命に係わる」

「良いの?」

アランの疑問に二人は苦い顔をしながら頷いた。

「そこで、だ。あちらの三人からは既に了承を得ているからドゥさんへの了承はアランが得てくれ」

かつて決闘でマルアハさんと因縁のあるダグラス君達はそう言ってアランに託した。


2.6,再び・アランとマルアハ

「内緒話は終わったのかしら?」

戻って来たアランにマルアハさんはいたずらっ子のような表情を浮かべながらそう聞いた。

「えぇ。はい。それで、一つ相談なんですけど良いですか?」

アランはマルアハさんが立ち上がるのを助けながら聞いた。

「包帯の代金なら必ず返すから待っててもらえるかしら」


「だからそんなものいらないですって。そうじゃなくて、このままじゃ皆危ないから一緒に迷宮探索をしませんか?」

アランのその問いにマルアハさんの表情が消えた。

「いえ。大丈夫よ。私、一人でも歩けるもの」

マルアハさんはそう言うとアランから借りていた肩から手を離し、一人で歩き始めた。

「いや、でも!」

「大丈夫。大丈夫だから」

マルアハさんはそう言って駆け足で自分の班へ戻って行った。


「あぁ~。アラン。交渉失敗っすか?」

苦笑いを浮かべながら聞いてきたモルダ君にアランは申し訳なさそうな、悲しそうな顔で頷いた。

「しょうがない。こればっかりは、な。後は向こうが何とかするしかないだろう」

同じく苦笑いをしたダグラス君がそう言うと、先ほどの女子生徒達がこちらにやってきた。

そこにはマルアハさんの姿もあった。


2.7,数分前・モルダとダグラス達

「で?何があった」

そう質問しているダグラスの声は、表情同様に冷え切っていた。

「あ、あんた達には関係ないでしょ!!!首を突っ込まないでよ!」

女子達はどこか怯えながらもそう言った。


「『関係がある』と言ったら?」

「へぇ?一体何よ?」

ダグラスの言葉に女子生徒はどこか挑発的に言った。


するとダグラスは懐から撮影機を取り出した。

「な、いつの間に」

「話してもらえないようならさっき取ったこれを教員に提出させてもらう。そうなればどうなるかはご想像の通りだ。どうする?」

混乱した女子生徒達は「わ、渡しなさい」と言ってダグラスにとびかかった。


「《麻痺ていしせよ》」


そんな女子生徒をいともたやすくダグラスは拘束した。

「生分解性の呪詛だ。教師にチクる頃には既に痕跡は欠片も残さずに消えているだろうよ。まぁ?こんな小細工に頼らずとも負けるつもりはないが」


観念した三人はそのまま話し始めた。


「なるほど。つまり先日の決闘で卑怯な手を使ったからいじめた、と。つまりそう言うわけだな」

ダグラスは三人から聞いた情報を簡潔にまとめた。


「そうよ!あんた達が負けたくないから汚い手を使って勝利したことは学園中の誰もが知ってるわ!」

一人がそう言うと、他の二人も頷いた。

心当たりのあったモルダが下を向くと「冗談を言うなよ。面白くもない」とダグラスが言った。

「ほ、本当よ」と女子生徒が言うとダグラスは「ならば確たる証拠はあるのか?」と言った。

「み、皆が言って「ではその皆とは?そいつらはどこからその情報を得た」

ダグラスの言葉に女子達は完全に黙った。


「だろうな。証拠なんてないんだろう?お前たちはただただ他者をサンドバッグにして攻撃したかっただけなんだ。そのちょうど良い理由が欲しかっただけなんだろう?ふざけるなよ?貴様らのやったことはあの決闘を戦い抜いたすべての人間への冒涜だ」


「そ、そんなこ「それ以上空気の浪費は止めたまえヒトモドキ。どんなに人の振りをしてもお前たちでは人間にはなれないんだからよ」

そういうダグラスはもう女子生徒達の姿を見ていなかった。

「ひとまずは彼女マルアハをこちらの見える範囲に置いておけ。それが写真を公表しないための最低条件だ。だが次に同じようなことが起きれば、私はお前たちを許さない。骨の髄に銘じて置け、それぐらいはできるだろう」

ダグラスはそこまで言うとアランの元へ戻って行った。


「よく写真を撮ってたっすね」

モルダがそう言うとダグラスは撮影機を渡してきた。

そこには「あれ?魔物写真ばっかり。マルアハさんの写真は?」

「ないよ。あの一瞬で撮れるわけないだろ?」

そう言ってダグラスは良い笑顔をした。

「つまり、あいつらを騙したわけっすか」

モルダは呆れたような顔をすると「いや?俺は一言たりとも『あいつらの悪事を撮影した』なんて言った覚えはないぜ。もっとシンプルに『さっき取ったこれ魔物の写真を教員に提出させてもらう。』って言っただけだ。そうすれば何かの課題の役に立つかと思ってな。あの学生たちは俺の話した世間話を勘違いしただけだろ?ま、そういう言い方をあえてしたわけだがね」

そう言ってダグラスは笑った。


その直後、ダグラスは表情を無くした。

「ところで、さっき言ってた噂って、例の戦力の増強のことか?」

その問いにモルダの胸に痛みが走った。

「どうしてそう思ったの?」

「カマかけただけなんだが、その表情を見るに当たりだったか。だとしてもあれを卑怯はありえねぇよなぁ」

ダグラスのその言葉にモルダは、驚きと焦りとでぐちゃぐちゃの心境になった。

「このことはアラン達には・・・言ってないみたいだな。安心しなよ、誰にも言わねえから。こういうのはタイミングがあるしな」


そう言って二人はアランの元へ戻って行った。




あとがき:皆さんこんばんは

目玉焼きです

今回は前回に引き続き人間関係回です!

色々な人物の考えや視点を描いてみましたがいかがだったでしょうか

ダグラス君がいると一歩引いた視点でアラン達を見れるのでいいですね


さて次回『再び』

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