第13話入学式と決闘と③

「頭がおかしいんじゃねのか?」

アランは言った。

「え、ひどい」


1.決闘場・闘技場内

ダグラス・ハミルトンの服の中には嫌な汗が流れていた。

「(何だ、こいつアランの体から溢れている魔力の量は。・・・しまった格上用の装備は持ってきてないぞ)」

ハミルトンは目の前のアランに勝つためにもう一度自分の使える手を考え始めた。

「(『石火矢』『散弾』あとは『魔力防壁』、か。装置の大きさの都合上仕方のないこととはいえ、あまりにも手札が少なすぎる。いや、これも言い訳だ。慢心、していたのだろう。今まで勝ち続けていたからなぁ。そのツケが回ってきた、と考えるべきか。おそらく正攻法で戦っても勝ち目は薄いだろう。そして搦め手からめてを打てるような手札も経験も今の私にはない。ならばどうするか。・・・決まっている。名門ハミルトン家の魔術師として全身全霊を持って、万に一つの勝機を掴みに行くのみ)」

そして刹那の時の思考が終わるとハミルトンは杖を構え直し、あることを始めた。


は四界の赤 鳴り響くは合戦の聲 打ち鳴らし 唯爆ただはぜる』

詠唱・魔術の回路を作り出す手段やりかたの一つである。

ハミルトンは一言紡ぐたびに体内からだに魔力の流れができるのを感じた。

『慟哭 激昂 それが産むは数多の嘆き』


しかしそれを許すアランではなかった。

『なればこそ畏怖し なればこそ敬服せヨッフ!

次の瞬間ダグラス・ハミルトンの左の頬にアランの拳がめり込んだ。


1.5 決闘場・闘技場内(アラン視点)

「頭がおかしいんじゃねのか?」

「え、ひどい」

アランが突然の誹謗に傷ついていると唐突に対戦相手ハミルトンが杖の先端を自らの額に向ける形で構え直した。

は四界の赤 鳴り響くは合戦の聲 打ち鳴らし 唯爆ただはぜる』

「え、急に何?」

『慟哭 激昂 それが産むは数多の嘆き』

「あ、聞こえてない感じ?」

魔術に詳しくないアランでも、その行動に何かしらの意味があることはわかった。

そして、それをしている最中は無防備であることもわかった。


アランはニ、三回ほど規則的な呼吸をするとアランの魔力の流れが変化した。

アランは自分の魔力の流れが変わったことを自覚すると軽く跳ねて着地してを二回行った。

三回目の着地の瞬間ドゴッという音と共に床の石がめくれ、アランの体が弾かれた。

『踏み込み』かつてアランが師匠から教わった魔力操作でできる技の一つ。

足、特に膝から下の筋肉に力を込め、自分の肉体を射出する技である。

その速度は(師匠曰く)並みの魔術を凌駕する。

その速度で放たれたアランはその速度のまま拳を放ちハミルトンの左の頬を打った。

幼児のための玩具のようにハミルトンは吹き飛んだ。


2.決闘場・闘技場内

ズザザっと着地に失敗したアランの体は転がった。

その数瞬後に、ハミルトンの体が水っぽい音を立てて落下した。


「え?死んだ?」

観戦席の誰かが言った。


「う、」その後にハミルトンのうめき声がしたことでその誤解は解けた。

観様によっては誤解でなかった方が良かったかもしれない。

「っぁぁァァァァ!あっぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

先ほども言った通り詠唱とは魔力の流れを人工的に操ることで魔術の回路を生み出す魔力操作の技法の一つである。


すなわち痛みペナルティの発生を意味する。


ハミルトンの腕の血管は悲鳴を上げた。

それに身をよじると続けて脊髄を金づちで殴ったような痛みが走った。

全身の骨が音を出すほどに全身をよじりそのたびに全身の部位が痛みを生んだ。

もはやハミルトンは自分が悲鳴を上げてことも今は喉から血が出ていることも気が付いていなかった。


ハミルトンの全身の痛みの種類が魔力操作の失敗からによって転げまわったことによるものに変わるころ。

「いかがいたしますか?ダグラス様。降参しますか?」

立会人はダグラス・ハミルトンにそう聞いた。

「(つ、続ける)」

しかしハミルトンの喉は潰れ、声が出なかった。

「降参、のサインがなかったのでこの決闘は継続といたします」


「ぎ、ギブアップで」

その瞬間アランはそう言った。

ボロボロのハミルトンを見ていられなかった。

もうこんなことをしたくなかった。

つらかった。にげたかった。もう布団にでもくるまってしまいたかった。拳が痛かった。はやく忘れたかった。目を背けたかった。視線が痛かった。これ以上ここにいたくなかった。これ以上を考えたくなかった。自分が壊れてしまいそうだった。

泣きそうだった。


「では、この決闘ダグラス様の勝利でございます!」


それを喜んだ者は誰一人としていなかった。

次の瞬間アラン達周囲を強く、しかし目に入っても痛くない程度の光に包まれた。


3.ミネギシ魔導学校・本館

光が弱くなるとダグラス・ハミルトンはアランの胸ぐらに掴みかかってきた。

「なんだあれは!!!降参だと?!圧倒的に勝っていた貴様が!?ふざけるな!・・・まさかとは思うが私を哀れんだのか?!と言われていただろうが!!!」

アランは驚いた顔をした後にハミルトンから目を逸らした。

「だって、あんな事をするために魔術師になりたいわけじゃない」

アランはか細い声でそう言った。

ダグラス・ハミルトンが何かを言う前に「何をしている?」という声がした。


その男は腰までの丈の白い詰襟にくるぶしまで伸びた白のズボンを身に着けていた長身でこちらを見ていた。

その男はこちらに近づいてきた。

「ハミルトン。決闘であれだけの醜態を晒しておいて、まだ我が寮を辱めるつもりか?」

「いえ、そのようなことは」

ハミルトンは見るからに相手に対して委縮した。

「ならば直ちにこの場から立ち去れ。この半端者が」

ハミルトンは去り際に何かを渡すと「これは貴様が持っておけ。いつか必ず取り返す」と言って去っていった。


「何だこれ?」

それは銀に輝く硬貨だった。

「それは校貨コインだな」

詰襟の男はそう言った。

「コイン?」

男は頷いた「そうだ。この学校では成績優秀な者に学校側がというものを授与する制度がある。校貨の格は三段階ありそれは二番目のだな。余談ではあるが校貨は複数枚集めるとより上位の校貨や学内でのを購入することもできるぞ」

アランは繰り返した。

「そうだ。例えばそれ一枚なら特定の授業の課題を一学期分免除する権利とかだな」

「そ、そんなに?!」

男の言葉にアランは驚いた。

「それだけの成績を残さなければ本来得られないのだよというものはね。では私はこれで。長々と失礼した。」

そう言って男は去ろうとした。

「あ、あのありがとうございます!何から何まで!私はアラン・アイザックって言います!」

「そうか。ヴァン・カルドだ。先程の決闘は見事であった」


幕間.小話

戦後処理:

ヴァンが少し歩いていると彼の左手が軽く震えた。

『我は声を聴く者』

ヴァン・カルドがそう唱えると次の瞬間、彼の左の手のひらに魔法陣が出現した。

それを耳元に当てると彼の友人の声が聞こえてきた。

「カルド先輩!どこ行ったんですか?!フラム様がおかしくなっちゃってもうこっちは大変なことになってますよ」

ヴァンは目に見えて動揺した「何?主が?ケールは何て言ってる?」

「いつもの発作だと」

「はぁ?よくわからん!今からそっちへ行く」

ヴァンは校則に違反しない速度で駆け出した。

「あぁ。ところでさっきの決闘のことですけど」

「二人にはさっき会った。ハミルトンには釘を刺しておいた」

「さすが。仕事が早い」

「それで?主の様子は?」

「あ、ケールさんが気絶させました」

「な、はぁ?」

カルドはただ困惑した。


あとがき:

どうもこんにちは、目玉焼きです。

新キャラ出まくりの決闘編はこれにて終了です。

次回からはようやく学園らしいことができる、はずです!

できるかなぁ。できるといいな。

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