閑話

第39話 【閑話】“燃える魂”の臨時メンバー 前編


 おかげさまで、この物語が書籍化することになりました。2024年8月23日、MFブックスより同じタイトルで発売します。よろしくお願いいたします!


***


※今回はヘルート加入直前のお話です。



 ルーマンの街は、権威ある冒険者向け月刊誌『ザ・アドベンチャータイム』誌上において、七年連続で「始まりの街五選」に選出されている、駆け出し冒険者にはうってつけの街だ。


 街の近くには五つのダンジョンがあるが、どれも等級は一つ星か二つ星。初心者でも挑みやすいダンジョンばかりだった。

 そのため、この街を拠点にする冒険者パーティは数多い。


 その中では中堅どころに位置する冒険者パーティ“燃える魂”は、今、ある苦境に陥っていた。


 彼らは、リーダーの戦士アトスを中心に、神官のイエマ、盗賊のウグレ、戦士エッジ、魔法使いオリビアという五人編成の男女パーティだったが、冒険の危険は若者たちに吊り橋効果どころではないドキドキをもたらすものだ。そんなわけで、いつの間にかエッジとオリビアがくっ付いていた。


 お前らいつの間に、とパーティの仲間が呆れる暇もなくオリビアの妊娠が判明し、パーティ唯一の魔法使いが産休に入ることになった。


 オリビアは、前回の冒険のときにすでに、ローブの上からでも一目で分かるくらいにお腹が膨らんでいたのだが、幸い潜入したダンジョンが地下一層だけの、アップダウンのない妊婦に優しい構造をしていたのでどうにかなった。


 オリビアは貴重な戦力だが、さすがにもう大事を取って休んでもらおうと、リーダーである騎士上がりの戦士アトスは決意した。


 他のパーティメンバーの三人も、もちろん異存はなかった。


 お腹の子供に何かあったら大変だし、パーティの収入的にも毎回近場のバリアフリーのダンジョンを選んでばかりはいられない。


「――さて」


 いつもの酒場でお祝いを兼ねた昼食会を終え、宿に帰るオリビアにエッジがかいがいしく付き添っていった後、アトスは席に残るイエマとウグレに顔を向けた。


「オリビアのことはこれでいいとして、パーティとしてはオリビアの抜けた穴を埋めなくてはならないな」


「新しく魔法使いを雇えばいいんだろ」


 いつでも指の爪を気にしている盗賊のウグレが、さっそく爪にやすりを掛け始めながら言う。


「この街の冒険者ギルドはでかいんだから、暇してるやつはいるだろ」


「だけどオリビアは子供を産んだらまた帰ってくるんだから、雇うのは臨時のメンバーじゃないとね」

 とイエマ。


「私が女一人になっちゃったから、臨時メンバーは女性がいいな」


「そうだな、それがよさそうだ」


 アトスは頷く。

 だが、心配もあった。

 二歳違いのオリビアとイエマは、姉妹のように仲が良かった。

 女性メンバーの不和で崩壊するパーティも少なくない中で、それはリーダーとして非常にありがたいことだった。


「実力も大事だが、それよりもイエマと仲良くできる人間だといいな」


 少し甘えん坊なところのあるイエマには、姉御肌のオリビアの性格がよく合っていた。


「私は誰とでも仲良くできるよ」


 イエマは不満そうに頬を膨らませる。


「新しい女性メンバーが入ると色めきたつのっていつも男の方じゃん」


 痛いところを突かれたアトスは、うぐ、と変な声を漏らす。

 以前、イエマが負傷してパーティから一時離脱した時に、臨時加入した女性神官に一目ぼれして告白し、思いきり振られたのは、アトスの苦い思い出だった。


「その話はやめろ、俺の傷はまだ癒えてないんだ」


 それを聞いて、きひひ、とウグレが下品な笑い声を上げる。


「あの女神官、パーティクラッシャーとして有名だったらしいな。本人に悪気はないのに、どこのパーティに入っても男に惚れられちまって内紛が起きるんだってよ」


「確かにきれいな人だったもんねえ」


 テーブルに頬杖をついたイエマがため息交じりの吐息を漏らす。


「ボディタッチが多いなっていうのは、私も思ってた」


「本人にとっちゃ自然なんだろうけどな。俺と違ってそういうのにころっとやられるウブな戦士もいるわけさ」


 熟女好きのおかげでその女性神官に全く興味を示さなかったウグレが、なぜか勝ち誇ったようにそう言ってアトスを横目で見た。


「まあ俺好みの女になるには、あと二十年はかかるけどな」


「ウグレの好みはどうでもいいよ。そういえばアトスだけじゃなくてエッジも冒険中、その女の人の方ばっかり見てたんでしょ? 帰ってきてからオリビアが怒ってたよ」


「そうそう。だからダンジョンでもずっとオリビアの機嫌が悪くて悪くて。魔法の精度は低くなるわ、魔力の消費は激しくなるわ」


「やめろ、あの時の話はもういい」


 アトスが二人の話を遮った。


「苦い失恋だったが、俺はきれいな思い出として記憶に残しておきたいんだ。分かるだろう」


「分かんねえよ」


「とにかく、そういう失敗を経ているからこそ、もう同じ失敗は繰り返さない。そうだろう」


「そうだといいね」


 イエマが頷いてくれたので、アトスはリーダーとして結論を出した。


「じゃあエッジが帰ってきたら、冒険者ギルドに行って女性魔法使いの臨時メンバーを紹介してもらおう。それでいいな?」


「はーい」


「できれば熟女希望」


「却下だ」


 アトスはウグレの言葉を冷たく遮った。


「アトス、また振られてもいいけどいちいち落ち込まないでよ。仕事に差し障るから」


 イエマの言葉を、アトスは聞こえないふりをした。


 パーティとしての方針が決まったので、リーダーとしての一仕事を終えたアトスが無料のお茶を飲んでいると、オリビアを宿に送り届けたエッジが戻ってきた。


「よし、エッジ。これから冒険者ギルドに臨時メンバーを探しに行くぞ」


 アトスが立ち上がろうとすると、エッジは、

「ああ、そのことなんだけどよ」

 と真剣な顔で言った。


「臨時メンバーは、絶対に男な」


「は?」



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