名案王子

@kudamonokozou

第1話

ある国に、名案王子と言う名前の、名案を思い付くのが大好きな王子がいました。


誰が名案王子という名前をつけたかと言うと、それは名案王子本人です。


その名前を思いついた時、「これは名案だ!」と言って、名案王子は小躍りしました。


本当の名前は「ケインズ」ですが、それはどうでもいいことです。


名案王子はいつもお城の塔の一番上に登って、何か名案がないか双眼鏡で探していました。


すると町の庭園に、隣の国の馬車がやってきました。

馬車から降りてきたのは、それはそれはきれいなお姫様でした。

お姫様は、名案王子の国の庭園に遊びに来たのでした。


お姫様を見て名案王子は「とてもきれいな人だなあ。」と、うっとりしてしまいました。

そして、

「よし、名案が浮かんだ。わしはあのお姫様と結婚して、この国を豊かにしよう。」

と、急いで塔から降りてきて、お姫様のところに向かいました。


ですが、

『さて、いきなり結婚を申し込むと言うのは、ちと変だなあ。』

と、名案王子は、まずお友達になることを考えました。


「これはこれは、私はこの国の名案王子と申します。この国の何がお気にいりましたかな。」

と、名案王子があいさつをしますと、お姫様は

「私はキャサリン姫です。私はこの国に、たくさんのきれいな蝶々がいることを知って、蝶々と遊びに来たのです。」

と、答えました。


そして、キャサリン姫はしばらくの間、蝶々とたわむれてから帰って行きました。


そこで名案王子は、キャサリン姫のために、「蝶々の館」を作ることを思いつきました。

これはなかなかの名案だと思って、名案王子は有名な昆虫学者に蝶々の館の作り方を聞きました。


「そうですな、蝶々は成虫の期間は短いものです。ですから幼虫のうちに集めて、それからさなぎになって羽化する直前に、姫様をお呼びになるのが良いでしょう。」

と、昆虫学者は答えました。


それで名案王子は、大きなガラス張りの蝶々の館を作って、そこに植え込みごと運んで行って、蝶々の幼虫をたくさん集めました。

そしてキャサリン姫に手紙を書きました。


『拝啓、美しいキャサリン姫へ。あなたのために蝶々の館を作りました。あと三週間くらいしたら、どうぞおいでください。』


でも、キャサリン姫はすぐに蝶々を見たくてたまりませんでしたので、早速名案王子のところにやってきました。


『おやおや、せっかちな姫だなあ。』

と、名案王子は思いましたが、ていねいにキャサリン姫を出迎えました。

「私の蝶はどこなの。」

と、キャサリン姫は上ばかり見ています。


「いや、まだ幼虫ですが、かわいいですよ。ほら、姫の横の葉っぱに乗っていますよ。」

と、名案王子が指さしますと、キャサリン姫はすぐ横にいる幼虫と目が合い、

「キャー!」

と悲鳴を上げて、持っていた扇子でバシバシと幼虫を何度も叩きました。


「よくも私をひどい目に遭わせてくれましたね。なんて人なの!」

とキャサリン姫は、怒ってさっさと帰ってしまいました。

キャサリン姫はお姫様だったので、幼虫が蝶々になるということさえ知らなかったのです。


一人残った名案王子は、死んでしまった幼虫のそばで、がっくりと膝まづきました。

「ああ、私が馬鹿だった。なんてかわいそうなことをしてしまったんだ。」


名案王子は、悲しんで、悔やんで泣きました。

名案王子は、蝶々の館を子供たちに開放しました。


ある日、王様とお妃さまが、名案王子に言いました。

「王子よ、この国のためにもお嫁さんをもらいなさい。」

すると名案王子は、

「分かりました。それでは探してまいります。」

と言って、出かけて行ってしまいました。


それから二年経って、名案王子は一人の娘を連れて、帰ってきました。


「私は、この娘をお嫁さんにしたいと思います。」

と言って、名案王子が紹介したのは、農民の娘でした。

「この娘が国中で、一番心がきれいで、働き者で、頭が良くて、私のことを思ってくれる娘です。これは大した名案です。」

と、名案王子は誇らしげに娘を紹介しました。


王様とお妃さまはあきれてしまいました。どこかのお姫様を見つけてきたのかと思ったら、農民の娘を連れてきたのですから。


王様とお妃さまは、名案王子を説得しようとしましたが、名案王子は

「それなら私は城を出て、この娘と一緒に畑仕事をして暮らします。」

と言うものですから、王様とお妃さまは仕方なく、二人の結婚を認めました。


召使たちがこの娘をお風呂に入れ、髪を整え衣装を変えてやりますと、この娘は大そう美人になりました。

「髪も肌もとてもきれいで、思いやりのある方ですよ。」

と、召使たちは新しく王女になる娘をを褒めました。


やがて結婚式となり、国民の前で名案王子と娘はお披露目されました。

王女は容姿がとても美しく、まるで輝いて見えました。

「気品があって、とてもきれいな王女様ですこと。」

「どこの国のお姫様なのだろう。あんな美しいお姫様は見たことが無い。」

「王子様は果報者だ。」

と、国民は心から二人を祝福しました。


ところで名案王子は、どうも国民に元気が無いことが気になっていました。

「それは税が重すぎるので、国民の生活が苦しいからです。」

と、王女は名案王子に答えました。

「しかし、しっかり税金を取らないと、国が滅んでしまうと財務大臣が言うのだが。」

と、名案王子が言うと、

「それは逆です。今は税を軽くして、農民が作物を増やす工夫を勧めたり、商人の行き来を自由にして、食料や品物を国民に行き渡らせる方が、国が潤うのです。」

と、王女はきっぱりと答えました。


それで名案王子はそのことを王様に告げますと、

「ふむ、王子と王女がそういのなら、そうなのだろう。」

と、王様は税を軽くしました。

王様は王女がいつも正しいことを言うので、すっかり信頼していたのです。


するとどうでしょう。

税を軽くしたのに、次の年に国民が納めた税金の額は増えたのです。王様は財務大臣を、別の人に替えました。


名案王子は、毎日塔の上で国民の様子を双眼鏡で覗いていましたが、国民の姿が元気になっていくのを見て、喜びました。

「ああ、王女の言ったことは本当に正しかった。あの娘を妻にしたのは、まさしく名案だった。」

こうして国民は豊かになり、生まれてくる赤ちゃんの数も増えました。


時が過ぎ、王様はすっかり歳をとってしまいましたので、名案王子を王様にしました。ですので、王女様がお妃さまになりました。


名案王子(王様ですけど)の国の隣には、とても大きな国がありました。

その国でどういうわけか、急に木材の値段が高くなりました。


「今、隣の国に木材を売れば、大変お金が儲かります。国中の木を切って、隣の国に売りつけましょう。そうすればこの国は金持ちになれます。」

と、財務大臣が進言しました。


しかし名案王子は、そうは思いませんでした。

「そんなことをしたら、森の動物や植物たちはどうなる。森によってもたらされる水はどうなる。」


財務大臣は、秘かに舌打ちをしました。

「私は国民のためを思って申しているのですよ。」

と財務大臣は言いましたが、その気持ちは本当ではありませんでした。


名案王子は、お妃さまの意見を聞きました。

「森が元に戻るのには、何十年もかかります。私のおじいさんが子供の頃、山津波が押し寄せました。大きな被害が出ましたが、この国の森が守ってくれて、亡くなった人はいませんでした。この森の住人が、代々森を育ててくれたからです。森の木を伐りすぎると、きっと悪いことが起きます。」

お妃さまは若い頃森で育ったので、肌で感じて分かるのでした。


財務大臣は、ぷいと出て行ってしまいました。


名案王子は、

『次の名案は、正しい知識と正しい心を持った、財務大臣を任命することだ。』

と思いました。


さてさて、何年も経って名案王子とお妃さまが亡くなってから、また山津波が起きましたが、森が守ってくれたので、亡くなった人はいませんでした。

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