桜

第1話

私は、生まれた時からこの場所にいる。

自力では動けない。

もう、生まれてから何年経つのだろう？

動物なら、とっくに死んでるな。

私は、桜。

桜の木。

春になったら、ピンクに染まる。

それを見て、人間は楽しむ。

お花見っていうんだっけ？

まあ、それを口実に飲み食いしたいんだけとうけどね。

でも、私は普段から人間や、他の動物、そしてこの社会を観察して楽しんでいる。

それが、一番の楽しみだ。

あれ？

あそこの男性は、前回は別の女性と来てたような。

あそこの男性は、昔は場所取りしてたのに、出世したな。

当時は、「こうまでして、花見はしたくない」と、ぼやいていたのに。

昔は、ごみを持ち帰らない人も多かったが、最近は昔に比べたらマナーがよくなったかな。

くらべたらだけど・・・

あれ？

あそこの子は、残ってひとりでごみの片づけをしている。

あまり、はしゃいでなかったけど、不言実行タイプかな？

あそこの野良猫は桜ネコか。

〈子孫を作れないように手術を受けた野良猫の事。

その証拠に、耳を桜の形に切られる〉

こんな感じで私たちも楽しんでる。

この町の変わりゆくさまを見てきた。

１００年後が楽しみだ。

切られなければだけど。