運命の出会い
運命の妖精
『……ここは、どこ?』
少女は花の香りのする暗闇で目が覚めた。
『目が覚めたのね』
暗闇に目が慣れた少女は、見た事の無い人物に首を傾げる。
不思議と恐怖心は無かった。
『……おねぇさんは、だぁれ?』
『私は貴方の願いを叶える妖精なの』
妖精は優しく笑った。
『よーせいさん?』
『そうよ。貴方の願いは、なぁに?』
花の甘い香りを纏った妖精は冷たい手で、質感を確かめる様に少女の頬を優しく撫でた。
『わたしの……おねがい……』
少女は、うーんと唸りながら妖精の体に視線を巡らす。
『お友だちと……あそびたい……』
ピンク色の唇が動き、少女は小さな声で言葉を続ける。
『わたしね、ずぅーっと待ってたの。毎日あそんでたのに、きゅーに会えなくなっちゃったの。わたし、きらわれちゃったのかな……』
少女は可愛らしい顔を歪ませて不安を漏らす。
悲しい気持ちが心を支配し、大きな瞳が潤んでしまう。
『あのね、やねに上って待ってたの。森を歩いてるのが見えるから、見えたらすぐ げんかん で おでむかえしようと思ってたの』
妖精は頬を撫でていた手で涙を拭い、優しく頭を撫でる。
時折、サラサラな髪の毛を指に絡めた。
『だから……だから今日も……あれ、私はいつ、やねから下りたんだっけ?……それにここはどこなの?』
少女はようやく自分の記憶が途切れている事に気が付き、眉を寄せる。
『心配しないで。大丈夫だから』
妖精は綺麗な声で優しく少女をあやす。
『ほんと……?』
少女は潤んだ瞳で妖精を見上げる。
『本当よ。嘘は吐かないわ。貴方は一人じゃないんだから泣かないで。私が傍に居るわ』
妖精は指の腹で少女の長いまつ毛が生え揃う瞼を優しく撫でて涙を拭った。
『わかった!』
『良い子ね』
妖精は唇の両端を上げて笑った。
少しだけ元気になった少女は、頭を撫でる妖精の手を握る。
『よーせいさん、つめたい』
少女は妖精の体温が氷の様に冷たいので心配しているようだ。
妖精は服を身に纏っておらず、肌は青白く死体のようだった。
『それによーせいさんには足がないの?』
妖精のへそから下に皮膚は無かった。
人間の様な脚は存在しておらず、代わりに黒い花が咲いていた。
大きな花の中央から妖精自身が生えているのだ。
『私は洋服なんて着ないし、見ての通り脚は無いわ。でもこれが妖精である私の姿だから、心配要らないわ』
少女が知っている妖精は服を着ていたし、脚もあった。
背中には綺麗な羽が生えていて、空を自由に飛びまわっていると思っていた。
違いが多くて、やはり目の前の寒そうな姿の妖精が心配になった。
それは少女の表情となって妖精に伝わった。
『大丈夫だってば。それに服なんか着たら、この身体がもったいないじゃない?』
クスリと笑った妖精は自分の腰を撫でて身体を見せびらかす。
その裸体は幼い少女でも、美しいと感じるものだった。
傷一つ無い滑らかな青白い肌に細長い腕、赤黒く長い巻き髪で隠れてはいるが、少し見える形の良い膨らみは柔らかそうだ。
くびれたウエストに、縦長の臍は世の女性が憧れるものだろう。
目の前の妖精は艶かしく、美しい花の妖精だった。
甘い花の香りを纏った妖精は優しく少女に笑いかける。
それに応えるように、自分の頭から血が流れているとも知らずに少女は笑い返す。
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