塚本浩輔





「ゥがッ……がッ……ッ…… 」


ワインが体内に流れ落ちた瞬間、塚本は喉に焼ける様な痛みを感じた。


ワインの中に毒が盛られていたのだろう。


たった一口の、少量のワインが、爪で柔らかい肉を抉る様な痛みと共に食道を流れ落ち、胃袋に到達する。


「げ、解毒剤は……!? 」


私と赤野で解毒剤を探すが、それらしい薬は見当たらなかった。


「ゥぐぐ……ダ……ズ……ゲェ……ッ…… 」


床に膝をついた塚本は胃袋を掴む様に、鳩尾に太い指を沈める。


胃袋が熱くなり、塚本の身体中に痛みが広がり体温が急上昇していく。


体内の臓器たちが膨張しているような、吐き気を覚えた。


眼球の裏側にある神経の束から痛みが、視界を包むように広がっていく。


押し寄せた毛細血管の波が、眼球を真っ赤に充血させていた。


「ぅッ……ぐァアッ……目が……目がァァアッ……!! 」


じっと痛みに耐えることが出来なくなり、顔を両手で押さえ込んだまま立ち上がってテーブルの上に倒れ込む。


「ァァアア"ッ……ぁぁあああッ!! 」


痛みを分散させるかのように、テーブルの上の空になった皿やスプーンを床に撒き散らしていく。




パリンッ……パリンッ……




食器が飛んできて私達は駆け寄ることすらできない。


例え近付けたとしても助ける術など分からないのだが、職業柄、傍観者というのも気分が悪い。


塚本の心臓がドクンッと大きく跳ねる。


「痛い痛いイタイ痛いイタイ痛いッ!! ァア"ッ!! 目がッ……クソッ……デ……ル……ッ 」


塚本の眼球が分厚い瞼を押し上げる。


慌てた塚本は両手で押さ込むと、鼻の奥に何かが出てきそうな違和感を感じて片手で鼻を摘むと、押さえが無くなった右目が飛び出してしまった。


神経の束で繋がった眼球は、振り子の様に頬の上でブラブラと揺れていた。


「ぁぁぁああああああ"ッ!!!! 」


発狂した塚本は床に倒れ込み、背中を丸めて初めて経験した痛みに苦しんでいる。


赤黒い窪みからは血液が涙の様に流れ出す。


他にも口や鼻、耳などからドロドロの血液が溢れ出してきた。


そして膨張した脳が目の奥の薄い骨、蝶形骨ちょうけいこつを突き破ってしまった。


塚本は自分の骨が砕ける音を聞いた。


「あッ………………―― 」


これが塚本の最期の声だった。




《塚本浩輔 死亡》





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