第3話 近づく真実

『おれのパートナーに、なってほしい』


って、言ったよね?夢じゃないよね?

てか、何のパートナーに?

なんでわたしが?


あーもう、いろいろごちゃごちゃだよ……。


「あの、ごめん、よくわからない」


そう言って、その場を立ち去ろうとし、バッグをつかむ――。


「待て」

「うわっ⁉え、ちょっと」


グイッと思いっきり私のカバンを引っ張られ、体勢を崩してベンチに腰を打った。


「いったあ……。もう、ほんとに何なの……」

「…………。説明する。よし、今からおれの家に来い」

「へ……真也さんの⁉」


説明って何?

そして真也さんの、昨日会ったばっかりの男子の家に行けと。

無理に決まってるでしょおっ!


この人はいろいろ唐突すぎる。

ひとつ何か言ったら、またすぐに驚くようなことを言われる。


「他に誰の家がある?友達の家か?お前の家か?許可とってないからダメだろ。消去法でおれの家だ」

「消去法でって……。……わたし、男子の家行ったことな――」

「この後予定は?」


わたしが言っている最中に……真也さんめ……。


「予定はないですけど……。あの、今も言いましたけど、男子の家に行ったことがないんですよ……」

「なくてもいいだろ。別に行ったことないからいけないとかあるか?……それか、どこか店にでも入るか?」

「店……」


男子の家に行くよりはこっちの方がいい気がする。


「じゃあ、店にしましょう!お店だ!」

「……まあいいか。じゃあ、この後15時、おまえの家に行く。準備しておけ」


家来るのっ⁉

待って、てか、なんか行く話になってない?知らない間に真也さんの策略にはまってる?気のせい?

いや、気のせいじゃないね。

わたし、パートナーとかよくわからないんだって……。


「ごめんなさい、お店もやっぱ無理です。予定あったので。じゃあ、先に帰ります」


よかった、このままだったらなんか知らないことに巻き込まれるところだったよ。

予定なんていくらでもある。

というか、図書館という予定があったのを完全に忘れていた。


そもそも、なんで私なのかが意味不明である。


そそくさと公園を出て、家に帰る。

途中、真也さんが追いかけてくるかな、と思ったのに、彼は結局来ずに、15時にも姿を現さなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「優羽ってさ、どこ小だったの?」


そして、翌日のお昼休み。

不思議に思い、ふときいてみる。


「……光が丘小。椿ちゃんも一緒でしょ?」

「あ、うん!同じだったんだぁ……」


案外知らなかったこととかもあるんだなあ……。

中学校ではいろいろな小学校の人が集合するから、結構分からなくなっちゃうんだよな……。


「たしか、氷室さんって、光が丘小よね」

「氷室さん……え、真也さんのことっ⁉あ、転校生だっけ?」

「確か……いた期間がすごく短かかった気がする……」


真也さん。

どこかで知っていた気がしたのは、やっぱり一度会っていたからなんだ。

助けられたっていうのは覚えていないけど。

いた期間が短いっていうのは、わずか2か月しかいなかったんだよね。


転校生。

小学生の時、すっごくワクワクしたイベントの一つだから、覚えてはいる、けど……。


実はあの時期、わたしがいじめられていた、一番ひどいとき。

だから、思い出しても全部嫌な記憶ばかりで……。


「椿ちゃん?大丈夫?」


心配そうにわたしの顔を覗き込んでくる優羽。


「大丈夫だよっ‼」


明るくそう言いながら、ハッとする。

今の優羽の顔が頭から離れない。


――ねえ、辛かったら言ってよ……。

――うん……。


「——何かあったら、言ってね……?」


わたしの頭の中で、誰かがわたしに向かって言う言葉と、優羽がわたしに向かって言う言葉が重なった。


「うん、大丈夫だよ」


わたしは、何人もの友達を明るくしてきた笑顔でにっこりと笑ったのだった。


「あのさ、今日――」


思い切って、一緒に遊べないかなって誘おうと思ったら、別の女子が優羽に話しかけて、何も言えずに私は席に着いた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

今見ている光景が、信じられない。


下校の後。

公園、三度みたび

わたしはその場に立って呆然と立ち尽くす。


あまりの驚きに、どさっとその場にバックを落とす。

な、なんで……。


「なんで、真也さんがまた倒れてるのぉおおおっ⁉」


そして。

前とは違う夕方のオレンジ空に向かって、わたしはまた大絶叫することになったのだった。


なぜ彼がこうなっているのかは、もうわたしには理解不能だ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

なぜ、またも彼と会うことになったのだろうか。プライベートで。

何かには誘われたけど、あれはわたしがはっきり断ったから、もう、クラスメイトという以外の関係はないはずだ。


「で、なんでまた?」


自分の部屋の勉強いすに座りながら、わたしは刑事にでもなった気分で、目の前の人物を問い詰める。

目の前の人物とはもちろん真也さんだ。

ちなみに、今回は腕に大きな擦り傷を作っている。


「今回はしょうがないだろ……」

「しょうがないって、よくも人の時間を使っておいてそんな口が……」

「自分の時間を使いたくないなら、そもそも助けなければいいだろ」

「っ……!」


もっともだ。

それが事実なのだから、言い返されては何も言えない。

でも、だからと言って見捨てられる人ではない。


「で、でもっ。じゃあなんで倒れてるの?倒れるようなことしなければいいじゃない。サッカーの練習とか、こんなふうになるまでやるからだよ……」

「サッカーの練習なんか、やってないだろ……」

「や、やってなくても!と、とにかくわたしが言いたいのは、なんでそんなふうに倒れてるのかってこと!」


そもそも、それがわからない。

倒れる要素ある?

普通の公園でだよ?


「はあ……。おれからも反論していいか。あのな、倒れてるのは全部お前が悪いんだよ……」

「え……わたしっ⁉」


なんかやったっけ。


「あの、わたし、何を……?」


おろおろしながらそうつぶやいたら、真也さんに盛大なため息をつかれた。


「自覚がないのか……?」

「自覚……?」

「……………もうこうなったら全部話す。一からだ」


うん。

もう教えてくれれば全部解決するって。


「ホントに言っていいんだな?後悔しないな?」

「こ、後悔⁉」


なんか急に怖くなってきたんだけど⁉

真也さんの口調があまりにも真剣だから、こっちまでつられてシャキンと姿勢を正す。


「……前に言ったこと、覚えてるか?」

「ま、まえ?……あ、覚えてるよ?」


急に何を言い出すかと思ったら。

たしか、自分の価値は自分にしか見つけられないみたいなことじゃないっけ?


それを言うと、真也さんが「覚えてる……!」と少し驚きながら言った。

覚えてないとでも思ってたのかな。

うー。なんか甘く見られてる気が……!

じとーっとした目で真也さんを見ると、軽く睨まれ、そして真剣な目でわたしを見つめた。



「単刀直入に言う。お前の心が死ぬ間際だ」



ココロガシヌマギワ……。


………………。


ちょ、ちょっと待って……。


「そ、そんなのどうやったらわかるの!?」



分からない。

ついにわたしの心の中の気持ちが溢れた。

意味もすべてが理解できないけど、ただ一つだけ言いたい。




――真也さん、あなたは何者ですか⁉






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