言霊ヅカイ!
ほしレモン
第1話 出会いとはじまり
今日はぽかぽかのお散歩日和。
わたしは近くの公園に来て、お気に入りのベンチに座った。
4月のあったかい太陽がわたしを照らす。
でも、そんな天気とは裏腹に、わたしの心はすごく曇っていた。
はーあ……。
「なんでみんな、すごいんだろ……」
友達ぜーいん、新入生代表挨拶とか、中学受験とか色々すごいことしてるのに、わたしだけ何にも……。
もう何もかも……。
「嫌いだあああああっ!!」
今まで秘めておいた、真っ黒な気持ちが爆発する。
真っ青な青空に向かって、わたしは大声で叫んだのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
数日後。
家の近くの公園、再び。
「大丈夫ですかっ⁉」
わたしの目線の先には、倒れている同学年くらいの男子。
明日入学式だって言うのに、大丈夫⁉
絶対大丈夫じゃない。
だって、腕とか足とか、いろいろなところから血が出てるもん。
「あの、だ、大丈夫……?」
なにも返事がないから、怖くなって顔を覗き込む。
すっごい整った顔立ちだなあ……。いわゆるイケメンっていうやつ。
黒い前髪が、汗でぬれて、しっとりと湿っている。
何をやったらこんなふうになったの……⁉
こんなふうになるまで練習をしたのだろうか。
いや、何の練習?
男子と言ったらサッカーかな。
そんなふうにぼんやり考えて、時々声をかけるけど、反応がない。
さすがに怖い。
息はしているけど、手当てとかした方が、いいよね?
「先に謝っておきます! ごめんなさい!」
そう一言告げ、男子の肩に手を回し、起き上がらせる。
幸いにも、ここは家に近い公園だ。
5分経たずで家まで行ける。
「痛くないですか……って言っても聞こえないか」
途中から引きずるような形で家に連れ込んだ。
「勝手に変なことするな」みたいなこと言われないかな……。
なんかいまさら不安になるんですけど⁉
いや、でもここで助けなかった方が、あとで後悔しそうだな……。
あとでどう思われてもいいと割り切り、玄関に座らせ、わたしは急いで手当てをする。
ケガなんて普段しないから、この処置が正確かどうかは分からないが。
「できた……。とりあえず包帯巻いたけど、いいかな?」
数分後。
わたしが全力で手当てした結果は……。
……。うん、やりすぎたかも。
なんか、ミイラみたいになっちゃった……。
で、でも、消毒とかちゃんとやったし、いいよね?
わたしはそのまま、自室のベットに運び、彼を寝かせる。
ベットは掃除してあるから大丈夫!なはずだけど……。
女子のベットなんて嫌だよね。
分かる、わたしも男子のベットは嫌だけど、保健室のベットのこと持ち出しちゃえば、そんなんしょうがない!
もふもふの掛け布団を彼にかぶせ、わたしもそこにもたれかかるようにして座る。
そのまま、わたしもそこで寝てしまった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……おい」
耳元に響く、アルトの声で目が覚めた。
その声が、先ほど助けた男子のものだと気づくまでに時間がかかった。
「……っ。あ……」
目を開けたらすぐそばに、彼の顔があった。
イ、イケメンだから、起きたすぐには心臓に悪いよ……。
「お、起きたんですね……!」
よかったよ……一生目を覚まさなかったらどうしようって思ってたもん。
安心するわたしを見て彼が目を何度も瞬く。
「ここは……」
じっくりとあたりを見回して、「ここ、おまえの家か」と呟いた彼。
「あ……うん。勝手につれてきちゃった……ご、ごめんねっ」
「…………おれ、倒れてた?」
「うん。ほら、近くの公園だよ。ケガしてたから、手当てしようと思って、家に連れてきて、頑張って手当てしたんだけど、な、なんかごめんね」
彼の声が少し怒っているように思えて、わたしは急いでまくしたてる。
すると、そんなわたしを見て彼はふっと笑った。
「なんでお前があやまる? おもしろいな」
「えっと……」
イケメンが笑ってはいけない。
反則だ。
「おかげで助かった。礼を言う」
わたしにきっちり頭を下げて、「あと」と、つけ加えた。
「名前……」
「名前? あ、
「椿……。おれは
真也さん……。
また会うあったらいいけど、いつ会うんだろ。
でもこのイケメンなら、会ったときに、あ、前の! ってなるよね。
「あの、親が帰ってくるかもしれないので、早めに退散した方がいいと思います……」
親が帰ってきたら、終わりだ。
なんと説明すればいいのかも思いつかない。
「そうか。でも、その前に1ついいか。……まあ、助けたお礼だと思え」
お礼……?なんだろう。
彼はとまどうわたしを見てふっと笑い、「魔法かけるから」と言った。
ま、魔法っ⁉
「ど、どういうことですか……?」
「おれの目を見てろ」
目……。
じっと真也さんの目を見つめる。
そうしたら、ピカっと一瞬目が光ったように見えた。
「自分の価値は自分にしか分からないし、見つけられない。……よく覚えておけよ」
ドッキン。
わたしを見つめる紺色の瞳が、わたしの胸を射抜く。
「自分の、価値……」
わたしは彼の言葉を反芻する。
突然、何を……。
「そうだ。……それはともかく、助かった。本当にありがとう」
よかった。
ここまで感謝されるなら、あそこで見捨てなくて、よかった……。
「おまえとは絶対にまた会うはずだ」
え……??
絶対、に……。
どうしてそんなことがわかるの、とは聞けず、彼は帰ってしまった。
いなくなってしまった扉を眺める。
――自分の価値は自分にしか分からないし、見つけられない。……よく覚えておけよ
あの言葉……。
まるで、わたしの心を見透かされたような……。
みんな、友達は新入生代表挨拶とか、中学受験とかやっているのに、わたしだけ、何もやってないな、って、そう思っていた。
自分だけ、いる価値がないなって。
でも、あの言葉を聞いたら、そんなことないって、不思議と思えた。
あの言葉には、本当に魔法がかかっていたのかな、なんて思うくらいに、その言葉にわたしは救われたのだった。
あの時の目を、わたしは覚えている。
前にも、わたしはこうやって助けられたような――。
とても、不思議なことが起こる予感がした。
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