余計なお節介1
「肉体派、というのはいいですね!」
意図していないが布教に成功してしまった。
「正直な話、黙って祈るだけなのは暇だと思ったことがあります。健やかな肉体を育てることが信仰に繋がるという考えはいいと思います」
腕立て伏せでお祈り代わりにすることを最初は懐疑的であったキリアンだが、よく考えてみると中々面白い考えだと納得した。
体を鍛えながらお祈りをすれば信仰になるというのだからキリアンもこれなら無理なく有益に自分でも続けられそうだと思った。
ということで肉体派が1人増えた。
テシアとハニアスは敬虔な信者なので朝起きてから目覚まし代わりに軽くトレーニング、そして夜も寝る前にトレーニングをしている。
朝夜のお祈りを欠かさない信仰心の高さを誇る。
これまで少し距離をとって歩いてきたキリアンもテシアたちと完全に同行することになったので一緒にトレーニングをする。
つまりはキリアンも敬虔な信者である。
「朝から体を動かすと気分もいいです」
「まあ君も肉体派になってくれて嬉しいよ」
キリアンの思惑がなんであれ信者が増えるのは悪いことではない。
朝のお勤めを終えて次の町に向けて歩く。
「一つお聞きしたいのですが」
「なんだ?」
「テシアさんはヘルムを外されないのですか?」
ここに来るまでキリアンは一度たりともテシアの顔を見たことがなかった。
トレーニングの時でさえテシアはヘルムを外さない。
夜寝る時は小さいテントを立てているのでテシアとハニアスは交代でその中で寝ている。
キリアンはもはや寝る時ですらヘルムを外さないのではないかと思ってすらいた。
「このヘルムは、呪いの品なんだ。被ったが最後……脱げなくなってしまった」
「ええっ!? そんな呪いの品が!?」
「ああ、だから僕はこのヘルムと一生を共にしなければならないんだ」
「そ、そんな理由が……」
「ぷふっ! ……失礼」
子供でも騙されない冗談。
それなのにテシアの真剣なトーンとそれをあっさりと信じて心配しているキリアンにハニアスは思わず吹き出してしまった。
すぐにスッと真顔に戻るけれどもう遅い。
というか堪えきれていなくてプルプルと震えている。
「だ、騙したんですか!」
世の中には呪いというものが確かに存在している。
魔法的なものだけではなく人の怨念や恨みといった強いエネルギーが元で負の効果をもたらすことがある。
直接相手を呪うこともあれば物などに呪いがかかっていることもある。
着けると外れなくなる呪いだって探せばどこかにあるかもしれない。
「ちょっとした冗談だよ。僕がヘルムをつけていたって別にいいだろう? それとも何かい、顔が見たいとでも言うのか?」
「正直……顔は見てみたくあります」
「何とも素直に答えるね。だが断るよ」
「えっ、なんでですか!?」
テシアはヒラヒラと手を振ってキリアンの願いを却下した。
「鼻息荒く顔が見たいなんて言っている相手に顔は見せたくないよ」
「そんな、鼻息荒いことなんて……」
「それに僕が顔を見せない理由があるかもしれないだろ?」
「…………それは考えませんでした」
確かにそうだとキリアンは反省した。
ここまで頑なに顔を隠しているのには何かの理由がある可能性を失念していた。
キリアンはテシアの容姿がどうであれ気にしないという自信があったけれど本人が気にしていることもある。
見た目が不細工なのか、あるいは火傷痕があったりなどという事情も考えられる。
キリアン自身も背中を見られたくなくて包帯の巻き直しをテシアにお願いしたのだから気持ちは分かった。
「すいませんでした……」
「そう謝ることはないさ。多分君が考える理由とは違うから」
「あっ、もしかしてまた……」
「騙してもないよ。ただ君が考えている理由が僕が顔を見せない理由じゃないだろうなって話さ」
顔面のレベルでいったら自信はある。
人に見せられない顔ではないとテシアも思っている。
しかし顔を見せるタイミングというものを逸してしまった感じはある。
なんだかんだとヘルムをかぶったままでも先入観なくキリアンは接してくれた。
こうなったら最初の目的通りに偏見ない人物だとして顔を見せてもいいのかもしれない。
けれどなぜか顔を見せたくないと思ってしまった。
もしかしたら顔を見せて、関係性が変わることが怖いのかもしれない。
今のこの関係も悪いものじゃなく、崩れてしまうことを心のどこかで不安に思っている。
けれどテシアはこの胸の奥に広がるモヤッと感の理由が分からない。
「……実は俺は女性が苦手なんです」
「はぁっ?」
「急に何のカミングアウトですか?」
「テシアさんにばかり嫌なことを聞き出そうとしてしまいましたので俺も何か秘密を打ち明けねばと思いまして。特に触れられるのが苦手で以前は不意に触られて突き飛ばしてしまったことも……」
テシアのことを女性だと分かっての発言かと二人はドキリとしたがそうではなかった。
嫌がることを聞いてしまったのかもしれないという罪悪感で自分のことを打ち明けたのだ。
贖罪の方法として正しいかはともかく悪かったと思っている誠意は伝わる。
「私女性ですが?」
ただ大問題はある。
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