第2話
人類と魔王率いる魔族との対立は拮抗してたんだけど……それに終止符を打つことになったのが……ボクたちブルーム一家だ。
魔王の幹部で魔族四天王と呼ばれてる内の二人に『我々魔族の世界征服のために人類を捨て、魔王様に絶対の忠誠を誓うのであれば、それなりの地位と暮らしを与える』と唆された。
結果—――見事、ボクたち一家は彼らの言う通りに人類を売って主戦力を闇討ちし混乱させた。
その隙に魔族が進軍して、目論見通り魔王の世界征服に貢献したんだ。
まさに—――戦犯者。
そして約束通りブルーム一家は、支配される前と変わらない裕福な生活を送ることになったけど、その代わりとして人類自治区『リベリオン』で人間を管理することになった。
なぜ、人間を皆殺しにしたり、労働奴隷にしてないのかは……一旦置いといて。
まさか……お花が大好きなステラが、お花さんの命と引き換えに命乞いをするなんて……。
相当、怖い思いをさせられてきたんだね……主人であるボクたちブルーム家に。
身に覚えのない罪の意識と心をグサッと突き刺す痛みが襲い掛かる。
前世の記憶はあれど、センカとしての記憶はスッポリと抜け落ちてるから、自分たちがステラのような他の使用人のみんなに何をしたのか……覚えていない。
だから、どう謝ればいいのか……。
となると、今はステラに怖がらなくていいんだよって、命乞いする必要なんかないよってことを伝えて、その間に思い出すことに注力しよう……と、思ったけど……。
ボクは立膝をついて、一輪の真っ白な花弁のアネモネを手に取る。
「……これはアネモネ、だね」
「え……?」
ステラが目を丸くする傍ら、ボクはじっくりとアネモネを観察する。
「とても愛情を込めて育ててたんだね……見ただけでそれがわかる……」
ふふっ、微笑むと少女は「え、……え? センカ……様?」と更に目を瞬かせる。
「キンポウゲ科イチリンソウ属の多年草で、気温の下がる秋に芽を出し春に咲いて、夏前には地上部を枯らし、塊根を作って休眠するんだよね? そして肥料を大量に上げないよう管理すれば、何年も植えっぱなしで花を咲かせ続ける。まっ、水はけと日当たりのイイ場所に植え付けて育てればだけど—―――――あっ」
流ちょうにアネモネについて解説してると、ふいにステラの戸惑う姿が目に入りボクは思い出した。
ボクってば、全然センカっぽく振舞ってないじゃん!?
何より—――センカがこんなこと話すわけないじゃん!?
なーに、堂々とアネモネ知識ひけらかしちゃってるの!?
転生早々、バカなんじゃないの!?
はぁー……、全く意識していなかった……。ボクは……センカに転生してるんだった……。
ボクは内心で猛烈に頭を抱える。
しまっ、た……ボクってばお花のことが気になって、普段の自分みたいに話しちゃった……。
多分……ボクの憶測だと、本物のセンカは絶対にこんなことを言ったりはしない……!
ここから、誤魔化せる……か?
ムリムリムリ!! どう言い訳しても不自然すぎる……!
ここはいっそ、洗いざらい正直に話そうかな……?
そうすれば、信じてくれるかどうかは兎も角として……考えてはくれると思う。
ボクがセンカであって、センカではないと……。
何より—――お花好きな同志にウソを吐きたくはない。
お花とその仲間に対する、侮辱的な事だと思うから。
なら……うん、よし! 決心はできた……!
「あ、あのー……センカ様……お、お体の調子が悪いのですか? 大丈夫ですか……?」
少女は不安げに瞳を揺らしてそう訊ねる。
どうやら決心がつく間にステラは、別人すぎるボクにとうとう身を案じ始めた。
ステラがそういう子だとボクは知っていた。
ホントに優しいな……ステラは。酷い仕打ちをして来た相手に、こんな優しい言葉をかけてくれるなんて……。
脳裏にセンカが死ぬ直前に、ステラが言ったシーンが浮かんでくる。
—――ありがとうございました……って、笑顔でお別れをしたんだよね……。
「死に際ぐらい暴言吐いたっていいのに……おっかし……」
「センカ……様?」
そのシーンを見た時の心境をクスクス笑いながら呟く。
それにステラは、分からないと言った感じで小首を傾げる。
笑いを必死に収め、首傾げてる所もかわいいなぁと思いつつ、少女の翡翠色の双眸を真っ直ぐ見る。
「大丈夫だよ、ステラ。どこも調子が悪くない。寧ろ、調子がイイよ。……君とこうして一緒にいるから……ね?」
キラーン♪ってウィンクをすると、「う、うぅ~……」と顔を真っ赤にして俯いた。
「それより話したいことがあるんだ。実は—――」
〜あとがき〜
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