【いずれ配信要素あり】死んで覚える異世界探索～オレの死亡姿配信中 大丈夫なのかこれ～

第16話 我が歓び

死にまくる場面を書いていく系の小説ではないので、試行錯誤はよほど面白いところ以外はダイジェストです。

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「っしゃごら見たかぁぁ！！」

『BARGUAAAA!!』

「ぉぐっ……!」

　いつものモンスターの両目にナイフをプレゼントした後、衝撃波を伴った咆哮を食らって吹き飛ばされた。

　衝撃波で身体の中はぐちゃぐちゃに揺れているし脳は揺れている。

　だが、やってやったのだ。

　ついに！！　もう１００回近い挑戦にしてようやく！！

　ついにあのクソッタレなモンスターの目ん玉を奪ってやった！　しかも両方だ！

　そしてさて両目をさされたでっかいサーベルタイガーみたいなモンスターは痛みに叫んでいるが、まだ身体自体はピンピンしている。

　一方で俺の手元にはもはや碌な武器が残っていない。

　剣はあいも変わらず首の挙動を誘導するためにプレゼントしてしまったし、斧はもうそろそろもうちょっとまともなのにしようかなと悩んでいるレベルのが腰に１つ。この前（ガラックの岩場）で硬いモンスターを叩いて刃が傷んでいる。

　そしてナイフは２本ともモンスターの両目に突き指したまま置いてきた。

「さて、どうすっかな」

　斧で口か鼻、あるいは背中の吸気口をワンチャン狙うか。

　あるいは顔面に取り付いてもう一度ナイフを押し込んでやるか。

　いずれにしろ、この攻撃を敢行した後に俺の命は残らないだろう。

　ここまで長かった。

　先に俺を索敵したモンスターの突進を躱し、初動のブレスを敢えて吐かせて躱し。

　その硬直の間に接近して前脚での横薙ぎをしゃがんで躱して、胸の下あたりから剣を口元に突き出してモンスターの頭部を下に下げさせて。

　そして剣はそのままくれてやって下がった首元に飛びつき軽業師の如くくるっと回って両足で固定。

　最後に俺を引き離そうとするモンスターの奥の手の咆哮を脚力と腕力でしのいだ後、また発生する僅かな隙にナイフを引き抜いてモンスターの目玉を突き刺す。

　ここまでの手順を確立するのにも時間がかかったし、実際にやってみてもうまくつかめなかったり耐えられなかったり。

　奥の手の咆哮による全周衝撃波で吹き飛ばされたりと好き勝手された。

　ワンミスで死ぬ勝負を続けてきた。

　だが、これで一歩先に進める。

　もうぶっちゃけモンスターと死闘することじゃなくて、あのサーベルタイガーみたいなモンスターにしっかりしたダメージを叩き込んでやるという一心で戦っていたのだ。

『RRRGURUAAAA!!』

　目に短剣を突き刺したまま呻いていたモンスターが俺の方に顔を向けて咆哮を上げる。

　そうだよな。お前みたいなモンスターが、たかが目を潰されただけで戦えなくなるわけが無いよな。

　正確な位置は把握できなくても、あいつには範囲攻撃の大空気砲がある。

「よし、南無三！！」

　一声気合をつけて、最後の一撃に──

「《エア・ハンマー》」

　突っ込もうとしたところで、どこかから声がした。

　次の瞬間、こちらに口を大きく開けてチャージに入っていたモンスターの頭部が上から何かで殴られたかのように大きき下に弾かれる。

「君、こっちに逃げて来い！」

「は！？」

　好機だと一歩を踏み出したところで、離れたところから声をかけられて足が止まる。

　そちらに視線を向けると、３人の女性の冒険者が立っていた。

　大柄な男性がモンスターと他２人の間に立って盾を構えており、その後ろでローブの少女が杖を構えて魔法を詠唱中。

　そして残る一人の女性が、こっちに向かって声をかけてきている。

　これはもしかしなくても、俺が危ないと見て助けに入ったのだろう。

「まじかよ……はいよ！」

　ここで死んで本体に戻るつもりだったのが、助けが来てしまったものは仕方がない。

　大人しくそっちに駆け寄る。若干ふらつく身体で走るのにももう慣れてしまった。

「愛梨！」

「ん。《風の刃よ我が敵を切り裂け、エア・スラッシュ》。《霧で脅威から我らを隠せ、ダズリング・ミスト》」

　こんな場面で考えることではないかもしれないが、魔法を使っている場面を始めてみた。

　魔法使いの少女の持っている杖の先端に魔力的なものであろう光があつまり、それが複雑な形に変化した後魔法が放たれる。

「逃げるよ！　扇はしんがり頼んだ！」

「あいあい」

　先頭に俺に呼びかけてきた軽装の槍を持った女性が走り、その後ろに俺、魔法使いの少女、最後に鎧の男性と続く。

　先頭を行く女性の足が速い。俺がふらついて遅れているのもあってちらちらとこちらを気にしてくれているが、普通に走っても俺より速いのだろう。

　一番体力が無さそうな魔法使いの少女も、鎧が重たそうな剣士の男性も俺がギリギリ走れそうなペースに普通についてくるのだから、レベルの高い冒険者というのは凄いものだ。

　そのままモンスターに絡まれることなくゲート付近まで退避したところで、ようやく先頭に立っていた女性が足を止めた。

「きっつ……」

　モンスターとの先頭で張り詰めてからのこの急激なダッシュ移動はなかなかにこたえる。

　距離的にダッシュするような短距離ではないのに、移動速度は俺の全力疾走と同じぐらいだった。

「君、大丈夫？」

「え？　あー、大丈夫です。助けてくれてありがとうございます」

　とりあえずお礼。お礼は全てを解決する。

　ぶっちゃけこっちの事情を説明するつもりは一切無いので、ただのモンスターに殺されそうになっていた一冒険者の振りをして切り抜けさせてもらう。

　そう思っていたのだが。

「とりあえずステータスカード、見せて貰える？」

「……なんでですか？」

　そう尋ねると、姉御肌っぽい女性冒険者は自分のステータスカードを取り出してこちらに示してきた。

　ん？　ステータスカードじゃないのか？

「……高レベルエリア監察員？」

「そう。わたしらの肩書だよ。危険なモンスターが出現してたり、無謀な新人冒険者がいないか監視するお仕事」

「……それで、なんで俺がステータスカードを出すんです？」

　渡されたのは、ステータスカードと似た形状の身分証のようなものだった。

　……まじかあ。そういうのちゃんとあるんかい。

　勝手に死ぬやつは勝手に死んでくれぐらいのノリで来るのかと思っていた。

「君がどう見ても無謀な新人冒険者だからだよ。むしろよくあいつ相手にして生きてたね？」

「どうも」

「褒めてないからね？　ほら、早くステータスカード出して。一回目なら厳重注意ぐらいですむから」

「何回もやるとまずいんですか？」

「何回もひっかかるぐらい運が良いやつなら、フロンティアへの立ち入り禁止とステータスカードの破壊ぐらいで済ませて貰えるよ」

　つまり何回も無謀な高レベルエリアへの特攻をすれば大概のやつは死ぬし、死ななかったやつはフロンティアへの立ち入りが禁止されるってことですね。

　それはちょっと困る。

「そんなルールありましたっけ。採掘場とかならともかく各エリアの立ち入り制限とかは講習の資料にも掲載されて無かったと思いますけど」

「ははあ、それは古い資料を掴まされたね。ちょうど１年ぐらい前に改正されたんだよ。君みたいな馬鹿な子が増えたからね。ルールが追加されたんだ」

　めっちゃ言うじゃーん。と思ったけど、そもそも普通に見たら頭のおかしいことを俺はしてたんだよな。

　死にすぎて感覚が鈍くなってたわ。

「咲、長い」

「ん、ああそうだね。とにかく、ステータスカードを出してくれ。何も取り上げはしないよ。名前を確認すれば返す」

「めんどくさい問答する前に拘束して探せば良いだろうに」

「刀牙（とうが）、不用意に暴力に頼るのは良くないさ」

　とりあえず全員の名前はわかったけど置いておいて。

　困ったなあ。

　お説教もステータスカードを見られるのもそうだし、そもそも今写身だからステータスカードは本体のポケットに入ってるんだよな。

　だから渡したくてもこの場では渡せないのだ。

　となると、後々面倒なことになるかもしれないが、今はこれがベターか。

「ありがとうございましたー」

　挨拶をすると同時に、写身から本体に意識を戻して写身を消す。

　逃げるような形になったけどまあ、うん。許してくれ。

　そもそも無謀な冒険者に俺は当てはまらないし、ステータスカードも無しで俺を特定することも出来ないだろう。

　所属もど田舎のギルドだし、急にばったり遭遇するようなこともあるまい。

　後はまあ、強制的に制限できないということはゲートがその機能を持っていないということだし、俺がどこから転移してきたかなんかも調べるような機能はないだろう。

　とりあえず、今すぐバレるようなことはあるまい。

「格好も変えるか」

　今は夏用の薄い作業着を来ているが、今後他のエリアではもう少ししっかりした作業着を来てイメチェンしておこう。

　頭はいつもはヘルメットを被っているが……脱ぐか。

「もうバルティア島は無しかなあ」

　となるともっと先のエリアにするべきか。

　というか、今のところどのエリアにどれぐらいの冒険者が進んでいるんだろうか。

　監視員がいたということは、バルティア島は全体から見てもそれなりのエリアにあたるのか？

　そのあたりもちゃんと調べてみておかないだめだな。

「っと、スキルスキルっと」

　帰ろうかと立ち上がったところで、サーベルタイガーもどきのモンスター相手にゾンビアタックを初めてからステータスを見ていなかったことを思い出した。

「そういや、あのサーベルタイガーもどんなモンスターか調べとくか」

　で、確認したステータスカードがこれ。

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名前：高杉謙信

レベル：８

職業：剣士

スキル

　《剣術Lv.1》

　《斧術Lv.1》

　《学習効率Lv.3》

　《斬撃耐性Lv.3》

　《火炎耐性Lv,2》

　《魔法耐性Lv.3》　

　《死亡耐性Lv.2》

　《衝撃耐性Lv.2》

　《風魔法耐性Lv.2》

　《打撃耐性Lv.2》

　《弱者の牙Lv.1》

　《写身》

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　増えてますね。

　まずレベルの上昇は《ガラックの岩場》から含めて２となると、ゾンビアタックではほとんど上がっていないようだ。まあダメージすら与えてないしな。

　とりあえず既存だったやつは《斬撃耐性》と《魔法耐性》、《死亡耐性》が１つずつレベルが上がっている。

　確認したらそれぞれテキストも少しずつだが変わっている。レベルアップで効果が上昇したのだろう。

　これはモンスター噛まれたり爪で引き裂かれたのが斬撃で、魔法はブレスか咆哮の衝撃波、そして死亡耐性は１００回デスを積み上げて、といったところか。

　１００回死んでやっとレベル２の《死亡耐性》君、一体誰が取得できる想定で用意されてたの？

「増えたのは《衝撃耐性》と《風魔法耐性》、《打撃耐性》、んで《弱者の牙》か」

　耐性系はタップして確認したところ、ほとんど他と変わらない。《衝撃耐性》は身体を打ち付けた衝撃とかあのモンスターの咆哮による衝撃波に特化した耐性スキルで、《打撃耐性》は前脚薙ぎ払いの脚部分やブレスの直撃など打撃に対する耐性。

　そして《風魔法耐性》は、おそらくあのブレスや衝撃波が分類として風属性の魔法に当てはまったのだろう。それに対する耐性スキルとなっている。

　そして《弱者の牙》。コレがちょっと特殊なスキルだ。

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《弱者の牙Lv.1》

　格上の相手に対して、通常通用しない攻撃がわずかに通用しやすくなる。　

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　ジャイアント・キリング専用のスキル。

　おそらくあのモンスターに通用しない攻撃を延々とし続けたことか、あるいは両目をうがったところで取得したのだろう。

　格上のモンスターにも攻撃が通りやすくなる。

　ここで素直に『やったー！』などと喜んではいけない。

　このスキルがどの程度の効果があるのかまだわからない。

　そもそも、遥か格上の相手である。

　イメージとしては蚊が針を挿そうとしても皮膚が堅くて刺さらない。それぐらいの差がある相手だ。

　そこにスキルのレベル１の効果でダメージが通りやすくなったと言っても、せいぜいが１００万あるHPが一切削れなかったのが１単位で削れるようになりました、とかそのレベルだろう。

　また詳しくはステータスカードの説明には書いていないが、どんな攻撃でも、というわけでもあるまい。

　今の俺の本気の攻撃がギリギリ通用するようになる。

　例えば皮を１ミリ斬れるようになるとか。

　検証する必要はあるが、それぐらいの薄い期待で行こうと思う。

　あんまり期待しすぎて外すと嫌だしね。

　でもあのサーベルタイガーとか、それより更に格上の相手を今の俺で殺せる可能性があるならそれは大歓迎だ。

　それはつまり今回みたいに、通じぬ攻撃を通せる場所を探すのではなく、いかに避けて削り切るかの勝負が出来る可能性だ。

　まあ、今はそんな全ては置いておいて。

「うし、帰って寝る！　以上！」

　今日は良い夢が見れそうだ。

　ここ最近はずっとモンスターにやられる腹立つ夢だったからな。