第11話 写身の効果

 おじじの所に行ったり自分でトレーニングをしたりでまた間が空いたが、再びフロンティアにやってきた。

 受付嬢の2人には変に不定期なので心配されてしまったが、自分でトレーニングをしているだけなので、と答えておいた。


「さて、それじゃあ色々試してみますか」


 今日は《写身》スキルの可能性について探求したいと思う。


「まず今出来ることの確認だな」


 写身スキルで出来るのは、『写身に意識を移した上でダメージを受けて、耐性系スキル』を稼ぐことと、死なない分身による安全な偵察の2つだ。


 そのうち特に前者、『写身によって取得できる経験値』についてちゃんと検証してみようと思う。

 

 まあ普通に冒険するなら別にそんな細かく知らなくても良いのかもしれないけど、俺はゲームは仕様まで考えてやり込むタイプだし、ラノベや漫画を読んだら『この能力こういう仕組みならこういう使い方も出来るな』とか妄想するタイプだ。

 当然、自分のスキルだって仕様を理解したいし、使えるならちゃんと使いたい。


「まずはこの前のスキル大量取得か」


 先日の耐性系スキルの大量取得。

 色んな視点から考えてみる。


 まず、耐性系スキルは攻撃を繰り返し受けることで取得できる。

 そして攻撃が強ければ強いほど取得しやすい。

 また明記されていたのは攻撃スキルだけだが、自分のレベルが低い、つまり自分が弱ければ弱く相手が強ければ強いほどスキルが取得しやすい。


「となると、自分と相手、攻撃のレベル差があるほどゲージがたまりやすいっていう認識で良いのか?」


 多分先日の攻撃も、高レベルの冒険者が受けた場合には俺みたいに急にスキルが生えてくるようなことは無かったと思う。

 『攻撃が強く』『俺が弱い』。

 

 この2点が重なったからこそ、スキルが一気に発生するまでにゲージが溜まった。

 

 ゲージというのは俺の勝手な解釈だが、経験値のバーみたいなイメージだ。

 ゼロから始まって、満タンまで溜まったらスキル取得、あるいはレベルアップ。


「重なってんのはこれで全部か?」


 他に何か、スキルの取得経験値の加算要素になっているものは無いか考えてみる。


 言ってみれば、ゲームで言うところのバフの倍率みたいなものだ。

 1.2倍に1.15倍と1.5倍がのっかっているようなもの。

 その全部の要素を把握したい。


 《学習効率Lv.3》が働いているのは当然だ。

 加えて、俺の弱さと相手の強さ。


「俺の弱さ……?」


 待てよ? 

 はっと気づいたものを逃さず思考の中心に据える。 


 経験値にブーストのかかる差、って何と何の差だ?


「攻撃を受けたのは、俺の身体。俺じゃない、《写身》の身体……。え、そんなことあるか?」


 ちょっとこれは思い切って試してみよう。結構重要な気づきを得たかもしれない。

 となると何で試そうか。


「そういや、経験値取得上限があるんだったか?」


 確か、各エリアで上昇するレベルには上限がある。

 この《始まりの森》だとレベル4になってからレベルの伸び方が大きく下がって、レベル7になってからは一切上がらなくなる。

 これもちょうど良いから一緒に検証してしまおう。


 早速ゲートの横に座り込んで写身を出現させる。


「意識無しでの実験は後回しにして……よし、行ってみよう」


 リュックを置いて、剣と新調したサバイバルナイフ、斧をそれぞれ装備した写身で森へ突入する。

 地図は残念ながら複製されないので、片道切符の雑索敵で突き進む。


「そら!」


 軽く駆け足で移動しつつ、見かけたモンスターをざっくりしばいていく。

 ぶっちゃけここのモンスターはもう弱い。

 弱いが検証のためには仕方ない。


「つーかそろそろ金も稼がんとなあ」


 倒したモンスターのドロップアイテムが放置しつつ、拾っていけないことを残念に思う。

 リュック持ってこういう行動は出来ないから仕方ないし、今はレベル上げと検証なので割り切っている。

 

 割り切っているが、そろそろ貯金のことも気になってきた。

 いやまあもともと金を使うタイプではないのでまだまだ数ヶ月はひっそり暮らせる程度にはあるのだが。


 それでも冒険者としての基盤づくりをさっくり終えてしまって、金稼ぎの方も仕上げていきたい。

 冒険者業に関しては生活費よりも楽しさの方が強いが、それでも飯は食わなければならないのだ。

 

 斬って斬って斬って斬って。

 

 おじじの言葉。


『化け物どもはわしらの理の外におるからなあ。人の術は通らんわい』


 ここのモンスターは弱いが、自分と同格のモンスター相手には生半可な攻撃は通用しない。

 拳や蹴りが出そうになるが、剣よりも斧よりも殺傷能力が低いそれは、かじった程度の俺が使ったところでなんの役にも立たない。


 だから剣を振るう。確実に相手を仕留めるつもりで斬る。


「ぼちぼち良いかな?」


 腕時計で見る限り3時間ほど。モンスターを斬った数は前回よりも確実に多い。

 結局ドロップアイテムは全て捨ててきた。


 意識を本体に戻して写身を消す。ちゃんと消えたかどうかわからないのは少しばかり不安になってしまうが、意識を移そうとしても移せなかったのでちゃんと写身は消せたと思っておく。


「さて、レベルはどうなってるかな、っと」


 ゲートの横に置いていた本体が目を覚ますと、ちょうどゲートから出てきた人が俺の方を見ていた。

 

 そんな変なものを見るような目で見なくても良くない?

 フロンティアで昼寝する人ぐらいいるだろ。


 釈然としない気持ちを抱えながらも、ステータスカードを取り出して内容を確認する。

 

「つかこれよく考えるとセキュリティ的にはアウトなのか……いやまあフロンティアで犯罪をやろうなんてわかりやすいことする人はいないと思うけど」


 特にゲート周辺は自衛隊や冒険者の自警団が警備をしているし。



──────────────────

名前:高杉謙信

レベル:6

職業:剣士

スキル

 《剣術Lv.1》

 《斧術Lv.1》

 《学習効率Lv.3》

 《斬撃耐性Lv.2》

 《火炎耐性Lv,2》

 《魔法耐性Lv.2》 

 《死亡耐性Lv.1》

 《写身》

──────────────────


「めっちゃレベル上がってるー」


 《剣術》と《斧術》はレベルが上がっていないけどそれは想定どおり。

 武器系のスキルは発現させるのは簡単でもレベルアップが難しいのは知っていた。


 だが俺個人のレベルが3から6に上がっている。この《始まりの森》ではレベル5以上には上がりにくいにも関わらず。

 やっぱりこれあれだ。想像していた通り。


 

 経験値の判断基準になっているのは写身で、その経験値を本体が受け取る形になっている。



 つまり俺は写身で活動する限り、常にフロンティアに入ったばかりのレベル1の状態での経験値獲得が出来るのだ。

 俺自身のレベルが例え100になったとしても。


「レベルの荒稼ぎかー……スキルレベルはともかく俺個人はどうだろ」


 フロンティアにおいて、スキルのレベルアップではスキルの性能や出来ることが増える。

 例えば魔法系のスキルだったら使える魔法が増えたりするらしい。


 ああ、そういや耐性系スキルの細かい説明も見とかないとな。 


 さておき。


 それに対して個人のレベルは、基本的には身体能力や魔法系スキルを持っている人なら魔力が上昇するらしい。

 つまりゲームで言うところのステータス値の上昇だ。

 純粋に能力が高くなると考えればいい。

 

 他にはレベルが特定の数値に到達したときに新しいスキルが発現することもあるらしいが、狙えるものでもないので今は置いておく。


「そう考えると、レベルの荒稼ぎって微妙だな」


 下手に身体能力とか魔力だけ上げるってのは俺の好きなやり方じゃない。

 地道にトレーニングして、剣を振り回して技術も鍛えて、そしてその上でレベルを上げて能力を高める、っていうのなら良いが。


 急に高い能力を与えられても振り回されるだけだというのが、色んな妄想をしてきた俺の考えだ。

 まずは今の状態でしっかりと武器の振り方身体の使い方を身に着けて、それからなら身体能力が急に上がってもすり合わせることが出来る。


 ただ能力が高いだけの冒険者なんて俺はゴメンである。


「としたらスキル。やっぱスキルについて考えてかないとな」


 耐性系のスキルもそうだし、後は火力系のスキルも……まあ今は持っていないが、いずれ必要になるような気がする。

 

 まあ取り敢えず今は持っているスキルの確認だな。


────────────────

《斬撃耐性Lv.2》

 斬撃、鋭いものによる攻撃及び斬撃属性の魔法で受けるダメージが低下する。

 切り傷刺し傷からの出血量がわずかに減る。

 傷がわずかに塞がりやすくなる。

────────────────

────────────────

《火炎耐性Lv.2》

 火及び火属性の魔法で受けるダメージが低下する。

 少し火傷になりにくくなる。

 火傷が少し治りやすくなる。

────────────────

────────────────

《魔法耐性Lv.2》

 魔法による攻撃で受けるダメージが低下する。

 魔法の影響を少しだけ受けにくくなる。

 魔力に耐性がつく。

────────────────

────────────────

《死亡耐性Lv.1》

 死ににくくなる。

 大きな怪我でもわずかに命をつなぐ。

────────────────


「割とゲームチックだなおい」


 もっと、こう、古めかしいファンタジーというか、『火に対する抵抗力が高くなる』とか『火との親和性が少しだけ高くなる』みたいな漠然としたスキルの説明かと思っていた。

 いやまあこれはこれでまた別の方向にわかりにくいのだが。


 ダメージが低下するis何? ここは現実リアルでゲームみたいにHPバーがあったりするわけじゃないんだが?


 特に斬撃で受けるダメージが低下するってなんだ?

 斬撃受けたら斬れるだろう。 斬れたことによって怪我を負うわけだし、スキルを持っていても持っていなくても、刃が切り裂いた分だけ切り傷を負う。


 それが低下するっていう状況がいまいち想像がつかない。

 出血量が低下するってのはありがたいけど。


「耐性スキル、盛っていったら無敵要塞みたいになるんかね」


 斬られても刃が通らない、火に入っても火傷しない、みたいな鉄壁になるんだろうか。

 流石にそこまではならないか。それとも本気で耐性系スキルのレベルを上げ続ければ到達するのだろうか。


 そもそもスキルのレベル上限なんてものも判明はしていないわけだし。

 それは今後探って行ってみよう。


「そんで、次が火力系のスキルか」


 いやまあ今の俺はそんな洒落たものは持ってないんですけどね。


 だが今後モンスターと戦っていくことを想像すると、そういうのも必要になってくるんじゃないかと考えているわけだ。


「持ってない攻撃系のスキルが取得できるのかはまだ調べてなかったか」


 それは後で調べてみよう。なんかこう、魔力を剣にためてぶっ放すみたいなスキルとかファンタジーならありそうなものだ。

 どれだけ普通に立ち回れても、剣で斬れない相手も出てくるかも知れないし。

 

 それとも《剣術》スキルが育ったらそういうところにも効果を発揮するようになるんだろうか。

 おじじなら斬鉄とか余裕で出来るんかな。


「今日は帰るか」


 写身で行動したからか少々疲れた気がする。

 今日も稼ぎはゼロだが、切り上げて帰ることにしよう。


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