騒ぎ
次回以降は9時のみの更新です!( ̄^ ̄ゞ
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艶々した肌、かなりご機嫌な表情。
病弱で、大人しかったサラサにしては珍しい表情だ。
それもそのはず。
何せ───
「……まさか、王国騎士団の騎士をこんなに倒しちゃうなんて」
「いやー、大変楽しかった! また手合わせ願いたいものだ!」
訓練場で二回目の惨事を引き起こしたあと。
サラサは読み終えた書物を戻し、自室までの廊下を歩いていた。
一週間が経って何度も歩けば道ぐらいは覚える。もう、他人の様子と行く場所を窺って歩くサラサの姿はもうない。
『ねぇ、聞いた……?』
『あのサラサ様がロイツ様を剣で倒したらしいわよ』
『いや、それだけじゃなくて騎士さんも倒したって話なの! しかも、若い子全員!』
『えー、それはないんじゃない?』
王城の掃除をしている使用人達の声が聞こえてくる。
耳に届いてしまうほどの声量ではあるが、ご満悦なサラサは気にも留めない。
留めているのは、サラサの横で肩を落としているリリィだけで───
(はぁ……どうして坊ちゃんが急にこうも強くなるんですか)
意味が分からない。
あんなに可愛くて、ある意味可哀想だった主人が、今では七歳とは思えない武闘っぷり。不思議に思わないわけがない。
(若い騎士ばかりで実力的には劣るかもしれませんが……相手は大人ですよ、大人。それなのに、十五人も同時に戦って勝つなんて……)
元々あった才能が芽生えているのか、あるいは何かが変化してしまったのか? いずれにせよ、付き従う自分にはどうすることもできない案件だ。
ただただ、噂の中心人物となっている主人の横で肩身の狭い思いをするだけである。
「時にリリィよ、冒険者という職があると聞いたのだが」
サラサが足を止めてリリィに尋ねる。
「……やらせませんからね?」
「むっ、何故だ?」
「何故だ、じゃないですよぅ……」
冒険者という職は、依頼を受けてお金をもらう傭兵みたいな職業だ。
依頼の内容は様々。害獣退治から盗賊の掃討、素材の採取など幅広く存在している。
もちろん、王族だからといってなれないわけではないのだが───
(年齢云々は置いておいて、今の坊ちゃんだったら絶対に強い敵がいる任務しか受けなさそう……)
勝てる勝てないではない。これでは自分の心臓がいくつあっても足りなくなってしまう。
リリィは「絶対にさせるわけには……ッ!」と拳を握って決意する。
一方で───
(ふむ、リリィは手強いな……こうなれば、こっそり抜け出して勝手に受けるか)
その決意を越えんとする考えを持ち始めたサラサであった。
「そういえば、お迎えはしなくていいんですか?」
リリィがサラサに向かって尋ねる。
「お迎え?」
「いつもマーサ様が学園から帰られる際はお迎えしているじゃないですか」
マーサとは、サラサの姉であり、この国の第二王女だ。
今は学園に通っており、専用の寮があるため一週間に一度しか帰ってこない。
家族の中で唯一懐いている姉が戻ってくる時はいつも出迎えをしていたのだが、中身が違うサラサがそれを知っているわけもなく。
とりあえず「あぁ、心配してくれた姉か」と、脳内で人物検索のみを行っていた。
「そうだな、出迎えをしよう」
「時間的にあと少しですし、このまま門まで行きましょう」
「待て、その前に木剣を取りに行かなければ」
「いつの間に坊ちゃんとマーサ様の間に因縁ができたんですか」
これでは出迎えではなく、喧嘩前である。
「そんなことはないぞ? ただ、もしマーサとやらが強いのであればその場で戦いを───」
「はいはい、レディーの前に家族にするような行動じゃないのでやめましょうねー」
「しかし、ロイツとやらは私に向かって剣を向けたぞ?」
「……あの愚兄が、可愛い坊ちゃんに変な影響ばっかり与えやがって」
ブツブツと言いながら、リリィはサラサの腕を引いて門までを歩き出す。
その様子はどこか怖く、サラサはメリケンサックを取りに行くことなく大人しく手を引かれるまま足を進めた。
その時───
「ん?」
王城を抜け、真っ直ぐに門まで伸びる一本道。
そこには、何やら騒がしい空気と大勢の騎士達が集まっていた。
中には先程まで戦っていた騎士も混ざっており、サラサは「もう回復したのか」と何故か感心していた。
しかし、ただならない空気を感じているリリィだけは違い、ゆっくりと騎士達へ近づいた。
「あの、どうかしたんですか?」
「ん? あぁ、リリィちゃん……サ、サラサ様!?」
一人の騎士が、七歳の子供を見て怯えたように後ずさった。
「ふむ、どうして私を見てそんな反応を? 心外だし傷つくぞ」
「坊ちゃんはそろそろ自分の行動を鑑みた方がいいですよー」
七歳の子供にボコボコにされたのだ。
きっと、常識外れなサラサが若い騎士の目には化け物に見えているのだろう。
サラサに怯える若い騎士。絶対に少し前まででは想像もできないような光景だ。
「それで、何かあったんですか?」
「あ、あぁ……今、マーサ様を乗せた馬車が野盗の襲撃を受けたと聞いて、今から向かうところなんだ」
王族を野盗が襲う。
もちろん、王族が動く際はそういった時に対処できるよう護衛の人間がいるのだが、こうして集められたということは「護衛だけでは対処できなかった」事態に直面しているのだろう。
大事な姉の命の危機。
慕っている相手だからこそ、リリィは思わず心を痛めていないかとサラサの方を見た。
すると───
「ほぅ! 護衛が対処できない野盗とな!?」
……サラサは一人、目を輝かせていた。
「ぼ、坊ちゃん……まさか───」
「行くぞ、リリィ! この
「ちょ、坊ちゃん!?」
サラサはその場から駆け出す。
突然のことで、騎士もリリィも咄嗟に反応が遅れてしまった。
抜け出し、七歳児とは思えない速さで門を抜けていくサラサ。
辛うじて姿を追えたリリィが後ろを走り、連れ戻そうと追従する。
「なんでそんなに速いんですか、坊ちゃん!? っていうか、今から何をするつもりなんですか!?」
「何って、決まっているではないか───」
サラサは走りながら、後ろを振り返って口元を吊り上げた。
「
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