最強で最悪な戦闘狂い、病弱な王子に転生する〜無能王子から始める狂乱譚〜
楓原 こうた【書籍6シリーズ発売中】
プロローグ
三百年前、数多の戦争で活躍した男がいた。
名前をブライツ。
その男は嬉々として戦争に乗り込み、敵を討ち倒し、常に強者との対峙を望む。
強い人間がいれば世界のどこであっても駆けつけ、拳を交わす。
何回も何回も、強者と戦い実力を上げ、ついには大陸全土で右に出る者はいなくなるほどとなった。
金に執着はしない、女に興味は持たない。
男の唯一の関心は戦闘だけ―――強者であれば、老若男女厭わない。
ついに、この男の名前は大陸全土に轟くほどになった。
強い奴には構わず挑戦する最悪。
多くの戦争に貢献し、勝利を収めてみせた最強。
───戦闘狂いの挑戦者。
そんな男でも、名前が広がる頃には寿命という敵には敵わなかった。
そして、その男は―――
「……ふむ」
大陸一の国家であるミレリア王国の王城。
その中のとある一室にて、一人の少年が文献を手に取って何やら考え込んでいた。
「なるほど、ここは三百年後の世界なのか」
きっと、この場にもし誰かがいれば「何を言っているんだ?」とでも思ってしまうかもしれない。
しかし、周囲には人っ子一人も姿が見えず、少年の声だけがただただ響くだけ。
「にわかに信じ難い話ではあるが……こうして自分の変わってしまった体を見てしまうと、受け入れるしかない」
チラリと、少年は横にあった大きな立ち鏡を見る。
歳は六か七ぐらいだろうか? 綺麗な白髪にあどけない顔立ち。華奢……にしては不健康を疑ってしまうようなほどの細い体。
この体になってから一週間が経ってしまった。
かつて筋骨隆々だった頃の自分とは雲泥の差である。
「そういえば、名をなんと言っていたか……確か、サラサだったか? 随分と可愛らしい名前だ」
ブライツ……ではない。
サラサ・ミレリアは少し前までこの場にいた使用人の女性の話を思い出す。
大陸一を誇るミレリア王国の第五王子で、上に兄が四人と、姉が二人、妹が一人。家族の中では下から二番目の人間で、病弱が故についこの間まで生死の境を彷徨っていたという。
「確かに、私が目を覚ました時はかなり驚いていたな。まぁ、死にかけの人間が目を覚ませば驚くのも無理はないが」
にしても、と。
サラサは顎に手を当てる。
「見舞いに来たのが姉一人だけとは、随分この子も嫌われているらしい。普通は家族が目を覚ませば総出で喜ぶものではないのか?」
ふと、サラサは少し前のことを思い出す。
『サーくん、目が覚めたの!?』
『もう目を覚まさないんじゃないかって心配してたんだよもぉー!』
『あれ? でもなんか雰囲気違う……まぁ、いっか! でもほんとに目を覚ましたうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』
騒がしいことこの上なかったが、それでも心配してくれていたというのはありありと伝わってきた。
自分のことではないものの、どうしてかふと愛情が温かく感じる。
しかし、それも一人の姉と傍にいてくれた使用人の女性だけ。
(随分とこの子も苦労している場所で生まれたものだ)
とはいえ、サラサにとってはありがたい。
あまりにも唐突だったこと故に、まだ状況整理ができていなかったのだ。
別に自分が違う人間なのだと言ってもよかったのだが、愚策かどうか分からない状況で言うのもおかしな話。
ここら辺は追々、自分の状況整理ができて「言ってもよさそうだ」と判断してからにしよう。
……まぁ、いきなり口調が変わったことで使用人の女や姉は少し訝しんでいたが。
(にしても、そうか……私は生き返ったのか)
ふと、昔のことを思い出す。
最後はどのような形だっただろうか? 確か、衰えた足を踏ん張って大陸で新たに生まれた剣聖と対峙したのだったか?
戦闘狂いらしい最後と言えば最後。
しかし、飢えた乾きが潤ったかと言えば首を横に振ってしまう。
「まだまだ、
サラサは本を閉じ、近くのテーブルに置いた。
「よもや、これは天から与えられし温情なのかもしれんな」
確かに体は小さく、弱々しい。
触れただけで折れてしまいそうな体格をしているが、そこに文句はない。
何せ、若いのだ。自分が唯一勝てなかった老いを取り戻した体が、今自分の手元にある。
「体は……まぁ、鍛えればなんとかなるだろう。それに、私の魔術であれば生前とまではいかないがある程度のカバーも可能。しばらくは魔術頼りのスタイルで戦い、その間に体を鍛えればいいか」
サラサの口元に、自然と笑みが浮かぶ。
「ふふっ……三百年も経てば、それはもう強い相手がいるのだろう? あぁ、逆に下から這い上がれば弱者を強者と感じるのかもしれん!」
自分は強い敵と戦いたい。
それは決して、相手が誰でもいいというわけではない。
勝てるか勝てないか分からないあの緊迫感、臨場感、壁を越える達成感と高揚感。拳に走る感触と体中に襲う痛み。
これらが揃っているからこそ、ブライツとしての自分は常に戦いの中へ身を投じてきた。
前世では大陸一になった。
文献でも、己の名前はそのように書かれてあった。
『戦闘狂いの挑戦者』。
もし、二度目の人生を謳歌できるのであれば戦闘狂いらしく、何度も強者に挑戦したい。
自然と、サラサの拳が震え始める。
その時———
「おいっ、無能!」
バンッ! と、勢いよく一人の少年が姿を現した。
同じような白髪。そして、どこか小生意気で馬鹿にしたような顔と視線。
新しくなった自分と似たような顔立ちをした少年は、木剣片手にズカズカと入り込んできた。
「さっさと訓練場へ出ろ! 今日も俺がボコボコにしてやるからよ!」
あぁ、と。
サラサの体の芯が、何やら震え始める。
(この感覚だ)
死ぬ間際は味わうことのなかった感情。
強いからと、自分の方が強いのだという気持ちを持って挑んでくる相手。
今から戦闘が始まるのであろうという合図。
それらが、一気に押し寄せてくる―――
「……いいだろう」
サラサは少年に向かってゆっくり歩き出した。
そして、獰猛に子供らしからぬ笑みを浮かべる。
「戦闘だな? では、思いっきり
これは、王国で病弱王子と呼ばれていた少年の話。
中に誰が宿ったのか、周りは知る由もない。
ただ、この
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次話は12時過ぎに更新!
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