堕楽

かけふら

プロローグ

「私は人間として最悪の人生だったが、女としては最高の人生だった」

 一〇日目か、いや二〇日目か、今日も東京は熱帯夜だ。もしかしたら体温をこの時間でさえ超しているのかもしれない。その空気の中、二度と体温を纏わない服の胸ポケット、遺書にはそれが認められていた。なぜだろうか、その紙だけは彼女の体温をそのまま残しているような気がする。すっかり冷たくなった首飾りは眩しき光を反射し、それに加え街中を駆け巡るサイレンはあたかも彼女がこの街の代表だというように街の耳目を集めていた。

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