毒島さんは口が悪い。
朝乃 雫
毒島さんとTRPG
毒島 茜。これは私の名前。
名前にブスが入ってることに関して先祖を恨んでいるごく普通のフリーター。正確には卒業間近であるが夢破れたため途方に暮れている専門学生である。
あーーーしょーーーもない毎日っ!と今日も朝から病院に行き、某Mのつくハンバーガーを食らって帰ってゴロゴロ。一日が終わろうとしている。春休み暇だよクソ。アルバイト面接も不合格ばっかりだから、泣く泣く家で皿洗いなど母の手伝いをする日々。いまだに文句も言わずに養っていただいている母には頭が上がらない。いつもありがとうございます。
そんな人権もなにもないような私にも、僭越ながら趣味というものがある。
TRPG。簡単に説明すると。
あらかじめ作られたストーリーをプレイヤー自作のキャラクターで辿っていくというゲーム。ストーリーは茶番ものからシリアスものまで。ところどころイベントやら戦闘やらがあり、プレイヤーはキャラクターになりきりながら、その物語を辿っていく…といった感じ。即興演劇をやるに近い。キャラクターが「殴りたい!」と思ったら目の前のやつを殴ることができるが、こぶしが当たったかどうかはサイコロの出目で決まる。1だとラッキー、100はその逆。読んで演技してサイコロ振っての繰り返し。キャラクターがやりたいことをできるかが最終的にそいつの生死や幸せに関わったりもする。創作好きにはたまらないと個人的には思う。某動画サイトにもコンテンツが上がってたりするから、気になる方はぜひ見ていただきたい。
TRPGには『KP(キーパー)』というゲームマスター的なポジションと、『PL(プレイヤー)』が存在する。
KPは進行役。TRPGの予定が立ってからストーリー通過終了まで、日程調整やゲームの進行、管理を全て行う。別にこれは他PLがやったって構わないのだが、なんとなくそういう風潮にあるのだ。それから、TRPGをオンラインでする場合にはプレイする際の『部屋』(ボードゲームでいうところのボード)を用意しなければいけない。画像を差し込んでそれっぽい雰囲気の音楽を流して物語上必要なテキストを用意して。それはそれは時間と労力をかけて作り上げるものなのだ。KPはこれを文句の一つもこぼさずやってのける。とにかくやることが多いのだ。
これだけ時間と労力を割いたのならPLにだってやるべきことはある。自身のキャラクターを作成するのは当然のことだ。任意でそのキャラクターの立ち絵(全身イラスト)を描いてくる人もいる。
以上。
以上なのだ。
え?KPに比べてやること少なくない?PLっていろいろ用意してもらってただ遊ぶだけなん?って思った諸君。まったくその通りなのである。
KPがここまで頑張ったなら、お礼の一つや二つは当然のことながら、なんなら有償で請け負ったって構わないくらいだと私は思うのだ。それは私がニートだからとかそういうことではなく本当に。だってあまりにもKPに利益がなさすぎる。いや"ゲームする"上で利益を求めるのは違うのかもしれないが、それにしてもKPは損しかしていない気がしている。
仲のいい人同士でやるなら話は別。しかし、昨今ネットで知り合った!ネ友!っていう新しい関係性もあるのだから、正直さほど仲良くない人とでも遊べてしまうのだ。そんな人に「このシナリオ回りたいんですよ〜」などと頼まれていろいろ準備するなんて日にはどうにかなってしまいそうになる。『おま、その労力わかっとんか?おう?』とまで思う。
とまぁ、そんな疑問というか愚痴に似たものを覚え始めた頃。事件は起きた。
私がKPを務めたとある卓にて。
いつも通りお部屋を作って、そのURLリンクをPLのみなさんに共有。PLはそこから部屋に入って自分のキャラクター駒を作成するのだ。
まずとあるPLが部屋に入るなり一言。
「うわ、でっか」
まず説明しよう。TRPGのゲーム盤面となるお部屋には前景と背景というものがあり、周りにキャラクター駒の置き場を配置するのがベター。前景は大きさを変えることができる。小さめに設定したとしても、それぞれの端末でズームイン&アウトができるので、お好みのサイズで楽しめる。
ここで厄介なのが、TRPGのオンラインプレイヤーにはパソコン勢とスマホ勢がいるということ。パソコン勢は横長画面だけどスマホ勢は縦長画面。早い話部屋を作成したKPが横長でお部屋をデザインしたなら、スマホ勢は少し見えづらくなるわけである。それでもズームアウトすれば全体は見えるには見える。
そしてだ。今回の件に関しては私がTRPG初心者ということもあり、その配慮を完全に忘れていたのだ。私がパソコンで横長デザインの部屋をクソデカく作ってしまったことで、スマホ勢のPLは部屋が見づらくなったということである。
たぶん「うわ、でっか」の真意はそこにあるのだろう。しかし、しかしである。
それ言う?
いや、部屋作った人間今あなたと通話してまんねん。聞こえてまんねん全部。そりゃ知らなかったから申し訳ないとは思ってますけど、部屋作ってもらってる分際でそんなこと言うかね?
とはいえ一度深呼吸。私ももう大人だ。こんなことでカリカリしてはいけない。ふつふつと湧き上がる怒りを抑え込みつつ、PLのキャラクター駒作成を微笑んで見守る私。各々が用意してきた立ち絵が並んでいく中、私は一つのキャラクター駒に目が移った。
そこにあったのは、木の立て看板である。
なにもそのPLが、人間ではなく木の立て看板のキャラクターを作ってきたわけではない。だって木の立て看板に『立ち絵敗北者』の赤文字が並んでいるのだから。
他PLが『なにこれー!』と笑う中、私は場を和ませるように聞いてみた。
「立ち絵間に合わなかったんですね(笑)」
『すみません!ちょっと、こう、あの、忙しくてなかなか書けなくて…!』
忙しい。なるほど。
どれほど忙しかったのか私が知る話ではないが、卓予定日が決まってから当日になるまでの間に、プレイ時間30時間にも及ぶシナリオの部屋を作成した私。いくらニートとは言え買い出しや病院、諸々の用事があって忙しくないわけではないのだ。そりゃ暇な時だってあるけど。それなのに立ち絵一枚を完成できなかった!というPL。私の中では既に先ほどの「うわ、でっか」発言の時点でイエローカードが出ているので敵意を向けてはいるが、しかしそれを差し引いたとしても。
他のPLは立ち絵を完成させている。みなさん仕事をしつつも、空いた時間で立ち絵完成させているのだ。なのに君は?忙しくて?できなかった?まるで私と他PLがずーーーっとド暇みたいな言い方してんじゃねぇぞ?あぁ?
それから私は引き攣った笑顔で「はじめましょかー」と卓を開始。プレイ中もその立ち絵敗北者は「仕事の疲れで眠気がすごくて…」「疲れててごめんなさい!ちょっと今日は早めに終えてもらえますか…?」「立ち絵まだできなくて…!」「下手くそなんで描いたところで、なんですけどっ!」「あっ、びっくりした!お部屋おっきいの忘れてたw」などなどたくさんの名言を残していきましたとさ。おしまい。
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「で?何が言いたいのあんたは」
「うるせぇーーーーーーーー。
雑魚なんだろ?
絵も描けないし大した部屋も作れないしこっちがなんかしてもなにも返してこねぇじゃん。
だって返せないから。お前に返せる実力才能もしくは努力を続ける忍耐力がないから。神絵師だって毎日練習して毎日学んでそれを積み重ねてあれだけの絵を描いてんだよカス。
それをさぁお前はグチグチグチグチ長ったらしい言い訳をして偉そうに自虐してみせたりして勝ったつもりか?他人に貶される前に自虐してしまえば勝ちだと思ってないか?お前が惨めな甘ったれっていう事実は変わりませんけどぉ〜!
自虐できるやつはワンランク高い、みたいな風潮いつできたの?それが通用すんのは好感度売りにしてひたすら自分の『美』やら『強み』やらかっこよさで魅了しなきゃいけない職業の人だけだから。そういう人があえて弱みを見せることで「え、ギャップ萌え〜♡」とか「私と一緒!勇気もらった!」とかに繋がるっていうひとつの立派な商法っていうだけで。なんの価値もないお前がやったとて意味なんぞねぇよ「はいそーですね」でおしめぇだよバァーーーカ。いや、面白かったらギリギリ許せるよ?面白くねぇんだもん。尚更なんの価値があんだよ。
雑魚は雑魚らしく床舐めてさぁ『すいやせぇ〜ん私は何もできないダメ人間なのでぇ〜お金払うんでぇ〜あなたの才能を努力の結晶をお恵みくださぁ〜い』とでも床舐めて言ってろよカスがよ。
金払えよ金を。私の時間はお前らのためにあるんじゃねぇんだよ。お前らみたいなゴミクズと遊ぶくらいならもっと才能のある神絵師やら人気者と仲良くなってあわよくば一緒に創作とかして漫画化アニメ化映画化してもらうわバーーーーーーーーカ!!!
周りの人間そんなお人好しじゃねぇから!!!アホじゃねぇから!!!暇じゃねぇから!!!
そもそも『眠いからリスケ』ってなんだよカス!!みんな夜卓眠いわっ!!!お前より大変な思いして卓してる奴なんてゴマンといるわ!!!!!」
「…………」
「ってクソがいたわけ」
「……おん」
「ねぇ、希依どう思う!?」
「お前TRPG向いてないと思う」
毒島さんは口が悪い。 朝乃 雫 @daimaou_966
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