リトル エンジェル

Shin

序章

その街には雨が降っていました。

冷たい午後の時でした。

眩い輝きが空から降り、一つの物語が始まります。  


<第一章>~想いの降る街 


空から一条の光が落ちてきました。風を切りながら下へ…。

地面が揺れ、砂煙が立ち上がりました。  

その中から小さな声が…。

「どうしたんだろ僕、さっきまで空を飛ぶため練習をしていたはずなのに、いったいここは…。」

砂ぼこりの中から片羽の少年が辺りを見回していました。

辺りは薄暗く、どこか懐かしい風景が広がり、冷たい雨が降り続いています。

その時、少年の後ろから声がかけられました。  

「ここは想いの降る街じゃよ、この街にはたくさんの想いが降ってくるのさ。」

少年が振り返ると1人のおじいさんが微笑みながらたっていました。

「おじいさんは?想いの降る街?ここが?」

「私はモー・メリ。この街の古い人間さ。モーと呼んでくれていい。」

「こんにちはモー、僕はエル・ジェンって言います。あの、僕は、その…。」

とエルが口ごもっていると、モーは

「ホッ、ホッ、分かっとるよ、君が空から落ちて来た事も、天使だと言うことも。」 

モーは空を見上げます。

「今日は冷たい雨、悲しい想いが降っているようじゃな。」

「冷たい雨?悲しい想い?」 

エルは少し考え、

「きっとこの雨は僕が降らせているんだね。僕は片羽でずっとイジメられてたんだ。だから僕はこの街に落ちて来たんだ。みんなと同じじゃ無いから…。」  

エルは悲しそうに空を見上げました。冷たい雨は降り続けています。 

そんなエルを見てモーが言います。

「エル、君はなぜこの街に落ちて来たか知る必要がありそうじゃな。この街から西へ、西へ進むと、どんな願いも叶う、想いの実る岬と言う所がある。行ってみるとよい。」 

「ここに来た理由?そこに行けば分かるの?片羽もなおるの?」

「僕1人じゃ、行けないよ。空だって飛べない落ちこぼれなのに…。」

エルは、うつ向いて黙ってしまいます。そんなエルを見てモーは、

「エル、ワシについておいで良い物を見せて上げよう。」

そう言ってモーが歩き始めました。エルはうつ向いたまま続きます。

家々を通り抜け、広場を過ぎ、小さなテントの前で立ち止まり、エルの方へ振り向きポケットから何か取り出します。

「エル?これが何か分かるかい?」

そう言って、真っ黒な丸い粒を差し出しました。

エルはそれを手に取り、しばらく考えます。

「なんだろう、食べられそうもないし、変な臭いもするし、何かに使えそうにもないしね…。」

モーは笑いながら

「それじゃ、エル、テントの中をのぞいてごらんなさい。」

エルは中をのぞいて見ました。そこには色とりどりの花が咲いていました。

「モー、凄いよ!このテントの中、綺麗な花がいっぱい咲いてるし、とても、とても、甘い香りがするよ。」 

エルがはしゃぎながらテントの中に入ります。

そんなエルを見てモーが言います。

「いいかい、エル。さっきの黒い粒はこの花たちの種なんじゃよ。」

「えっ!!」

「びっくりしたかい?エル。目に見える事、手で触れられるもの、全てがそのまま真実とは限らんのだよ。この黒い種も育てていけば、綺麗な花を咲かせることが出来る。エル、今の君が本当の自分だと言い切れるかい?」

「僕は…。」

「言い切れないじゃろ?確かに君は片羽じゃが、それでも君は飛んで見たいと思っているのじゃろ?今の君には大変かもしれん。しかし君は知らなければならない。真実を、本当に望むことを。」

モーの言葉にエルはうつ向いて言います。

「僕は一度でもいい、どんな形でも空を飛んで見たいんだ、みんなとおなじように、だけど、僕は…。」

するとモーが優しく微笑みながら

「この種を君にあげよう。君も本当の自分に気がつけるように。」

エルは種を受け取りいいます。

「ありがとう。僕…。僕行ってみるよ…。凄く怖いけど…。」

「エル、頑張るんじゃぞ。決して1人だと思わんようにな。」

「ワシはいつでも、君の事を想っているよ。片羽のかわいい天使が友達じゃなんて、幸せなことじゃから、ホッホッ。」

モーは優しく微笑みました。

「僕の友達になってくれるの?ありがとうモー、僕頑張ってみるよ!」

「さぁ、行きなさい。まずこの先の命の巡る町に行ってみなさい。気をつけての、エル。」

「うん。行ってみるよ!モー色々、ありがとう!」

エルはふと空を見上げました。いつの間にか、雨はやんでいました。


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