第19話 蟲 (むし)
蟲は普段目にしている虫と区別するため“みどりもの”と呼ばれるようですが、あえてそう呼ばずに字のごとくそのまま“三つ虫”と呼んでいます。蟲は決して架空の創作物ではなく、人には直接見えないだけで普通にその辺をたくさん飛んでいたり、木にたかっていたり、土の上をのそのそ歩いていたりしています。昼夜に限らず動き回っているのですが、その数は相当数で中にはグロテスクな容姿のものもいますのでかえって見えないほうが良いのかも知れません。ちなみに人間の可視の波長域は380nm~780nmのため、波長が780nmを超えてしまうものは見えないのです。つまり理論的には780nmを超える波長を備えた道具を使えばそれは“見える”ようになるのです。
そこで登場するのが赤外線カメラです。蟲によってはそれでも写らないものがたくさんいますが、飛んでいる蟲たちはかなりの種類をかなりの確率で撮影することが出来ます。その代表が“モーションブラー現象”などと言われ否定されているスカイフィッシュですが実在します。それは街中でも山中でも何処にでも現れ写すことが出来ます。たまに蟲ではなく、オーブも撮ってしまう時が多々ありますが、動画にもおさめられますし、ストロボ撮影(昼夜共)をすれば綺麗に写る場合があります。通常彼らが棲みかにしている空間は、人間が住んでいる空間とは別空間ですので、姿を現す時は突然目の前の空間よりひょっこり出現します。ただし共通していえることは、彼らは人間と同じく生き物ですので生命の根源である“水分”を必要とします。砂漠地帯のように乾燥しきっている場所は人間同様好みませんので、水辺が近くにあるか、あるいは湿った場所などであればどこでも撮影出来るでしょう。
その昔、蟲が人間に悪さをする時がありました。それを治せる蟲師と呼ばれる職業の者たちが数名だけ存在していた時代がありました。蟲に対して種類やその対処法を熟知せずに処方を誤れば生命にかかわるため修行途中で挫折する者が多く、若い後継者が誰一人いなかったため絶えたようです。
例えば神社仏閣などの敷地内でご神木と呼ばれるものや、大木や巨木、またはそれに大きな虫こぶなどが付いているものなどが“たくさん生えている”ような場所には、ほとんどの場合、“光脈(こうみゃく)”が地中深く走っています。光脈とは“光酒(こうき)”が流れて移動している水脈のようなもので、光脈が走っているその土地を通称“光脈筋(こうみゃくすじ)”と呼んでいます。蟲師はその光脈筋のありかを見つけるのが得意でした。基本的には“虫こぶ”が付いていても元気で丈夫そうな木がやたらに多い場所にはほぼ走っています。
元になっているその“光酒”の正体は蟲になろうとしている液体(闇の中でまばゆい光に輝く、命の水と呼ばれる酒)で“美味”といわれているものです。しかし、人間がそれを飲み過ぎると“蟲”になるといわれています。現代でも名を馳せた神社などの多くはこの“光脈筋”にあやかっているため、豊かな自然の中で樹齢の永い大木や巨木に囲まれて繁栄をしています。ところが、何かの原因(地殻変動や巨大地震など)でこの光脈がズレて離れたりしますと、それまで生えていた木々や植物は枯れ、衰退の一途をたどることになります。
その昔、洞窟奥深く光脈を追い求め、偶然にも発見して、その光り輝く美しさと甘い香りに引き寄せられて、流れに入ってしまった者が帰らぬ人となった。彼は過去の世界に引きずり込まれ二度と現世に戻れないだけでなく、いつしか体は蟲と同化していったのです。光脈は過去現在未来につながって長い時の中を漂っているといわれています。
人間が蟲に悪さをされた場合、蟲師がその治療に当たっていたのですが、現代に蟲師なる職業の方はおりませんので、自己防衛しか手立てはありません。
煙草を吸わない方や禁煙している方には無理なお話ですが、蟲を防ぐ唯一の方法が“蟲煙草(むしたばこ)”です。この原料は世間には知られていませんが、百年以上生きているアザラシの油6に対して8種の植物を4の割合で漬け込み1年熟成して、それをある植物の葉っぱに煙草のように丸めて包んで乾燥させたものです。それに火を点ければその煙ででたちどころに蟲は退散するといいます。蟲だけでなく人間がその煙をたくさん吸い込んだりすると大変なことになりますので扱いには充分気をつないとなりません。
平安時代に活躍した陰陽師は蟲師とは異なりますが、彼らも当然“蟲”は見えていました。中には人間の大人以上に大きな蟲がいて悪さを働いていましたので、二度と悪さが出来ないように術を使って石の中に封印していました。現代でもそれらの石があちらこちらに存在しています。恐らく“感”のよろしい方はそれらの石をジッと見れば石の中に“何か大きな虫みたいなもの”を感じ取られるのではないでしょうか。一度立ち寄ったことのあるI県K市にある山◯大権現ことH神社の山門前を流れるH川支流には1m前後の石がごろごろしているのですが、その中のいくつかは…きっと、平安時代にはそれらが暗躍していたのでしょうか。
※ 蟲たちにも好物があります。それは『宝桑(たかくわ)の実』です。
それを採って蟲をおびき寄せることが出来ますが、残念ながらそれは棘路(おどろのみち…雑草やイバラが生い茂った回廊)の先の異次元にあり、一人で採りに行かなければなりません。似ている数々の桑の中から本物の宝桑の木を見つけ、七色に輝いている実を11粒だけ袋に採ってきます。この実は蟲にあげても、また袋の中に湧いてきます。この世に持ち帰ると見えなくなりますが、袋にはちゃんと入っています。チャンスは一度切りです。
偽物を採ってしまった場合は、この世に持ってくるまでに灰になってしまい、こちらも二度とその世界に採りに行くことは出来ません。
また、高桑を手に入れたとしても、ほかの珍しい植物等には絶対触れてはなりません。持っていこうとして採れば、この世に戻るまでに宝桑の実もろとも自分も灰になるとの言い伝えです。
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