正義と正義  ~ 運命は―― ~

月が照らす大地に

キンッと剣が交わる音が響く


勇者は一瞬にして近づき

突きを放った

アリウムは難なく受け止める


「動きが直線的だ。避ける必要もない。」


彼女は首を狙い長剣を振るった

勇者はすぐさま距離を取る

しかしアリウムは

見切ることができない速さで背後に回り

右肩に短剣を振り下ろした


「がっ‼」


肩から血が噴き出す

魔法で治療は可能だが

魔法使いは漆黒の騎士に苦戦し手助けできない


勇者はなんとかアリウムから離れようとするが

彼女は膝に剣を突き刺した


「ぐあっ‼」


脚を潰されて地面に倒れる

体を起こすが鉛のように重い

脳が恐怖に支配される


「終わりだ。ここがお前の墓場だ。」


勇者を見下ろすアリウムは長剣を上段に構える

月光により輝きが増したそれを振り下ろした



アリウムの胸は勇者の剣で貫かれていた


彼女は剣を寸前で止めた

心のどこかに迷いがあったのかもしれない


「アリウム……君に何があったのかは知らない。だが助けようとは思わない。安らかに眠ってくれ。」

「………」


アリウムの正義は無惨に散っていった

満月が雲に隠れる




その後勇者は魔王を倒したことにより英雄と呼ばれた

しかしそれを語る者はもういない

地球上から人間は消えてしまったのだから


魔王とは人間に殺された生物の怨念が宿った再生の神であった

魔王は人だった   勇者は魔王に殺された








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