スキル資産家になって、異世界スローライフ!〜今度こそ不労所得でセミリタイアを目指す〜
星火燎原
第1話 モンスターを討伐するだけの簡単なお仕事です
この世界に転移してから三年が経った。
最初は驚いたよ。トラックに撥ねられたと思いきや、ヨーロッパみたいな街並みが広がっているんだもん。ぶっちゃけヨーロッパ行ったことないから、実際似ているのかどうかは分からないんだけどさ。
でもレンガ造の建物が並ぶ街に剣とか杖を持った外人が歩いていたら、少なくとも日本じゃないってことは理解できたね。
そもそもレンガ造にしては壁が薄いし、モルタル的なもので積み上げただけのような建物が多い。仮にここが日本だったとしたら耐震基準を満たしていない違法建築だらけのヤバい街になってしまうから、むしろ異世界で安心したよ。
そして異世界であることを決定づけたのが、モンスターの存在である。
この世界にはスライムやドラゴンなどのモンスターが生息している。奴らは人語が通じず、人を見かけたら襲いかかってくる。ドラゴンのブレスは家を焼き払い、スライムは何故か服だけ溶かしてくる。非常に恐ろしい奴らだ。
そんな世界で、俺は今日もモンスターを狩っていた。
「おい、大人しくしろって!」
「ピギィ! ピギィー!」
首都から少し離れた小さな森で、俺はウサギに似たモンスターを捕まえてトドメを刺そうとしていた。
モンスターの名前は、ガントバシウサギ。
その名の通り、目つきの悪いウサギだ。とはいえ、長い耳(垂れ耳)など一部の特徴がウサギっぽいだけで、体型はマスコットキャラみたいな顔でかめの二頭身、さらに二足歩行という現実世界のウサギとは全く異なる見た目をしている。体毛はグレーで、前脚の中指が少しだけ長い。大きさは現実世界のウサギと同じぐらいだが、常に立っているので、少し大きく見える。
人畜無害な見た目をしているが、たまに中指を立てて挑発してくることがあり、それを見た人間は寝ようとしたときに「なんか思い出したら腹立ってきた」と眠気が飛んでしまう。人々の睡眠時間を減らす恐ろしいモンスターである。ついでに畑荒らすから普通に害獣認定されている。
「ピギィー! ピギィー!」
俺に掴まれたガントバシウサギは手足をジタバタさせて必死に抵抗する。どうにか片手だけで押さえ込み、空いた方の手でナイフを構える。つーか、ウサギってこんな鳴き声だったっけ?
「これも生活のためだ。許せよ」
「ピギィ……」
急に大人しくなった。状況を理解して諦めたのだろうか。なんだか可哀想な気もしてくる。このガントバシウサギは雑魚モンスターで、討伐しても報酬は少ない。一匹ぐらい逃してやっても誤差の範囲だ。
「フッ、俺も甘ちゃんかもしれないな」
俺は構えたナイフを下ろしかけた。すると、それを見たガントバシウサギが鳴いた。
「ピギィ!」
大きく鳴いたガントバシウサギは、両手の中指を立てて見せつけてくる。
「なんだコイツ、めちゃくちゃ腹立つな!」
俺は思いっきりナイフを振り下ろした。critical hit!
********************************
「フクトカシスライム6匹、ガントバシウサギ8羽、二重瞼コウモリ3羽、暴食イモムシ2匹……はい、これが今日の報酬ね」
俺は雇用主にモンスターを倒した証拠となるドロップアイテムを渡し、今日の報酬を受け取る。小袋の中には折り曲げられた札が数枚と、硬貨が少々入っていて、この日はまあまあな額であった。
「あんちゃん、今日はそこそこ稼いだみたいだな」
顔見知りの前歯がないおじさんに声をかけられる。名前は知らないが、俺もおじさんも日雇いの仕事で生計を立てており、ちょくちょく応募した仕事が重なり顔を合わせている。
「暴食イモムシを2匹討伐できたのはラッキーでした」
暴食イモムシは木や草を食べ尽くす害獣認定モンスターで、ここら辺に生息している雑魚モンスターの中では報酬金が高い。よく食べる以外はただのイモムシだから簡単に倒せるし、逃げるスピードも遅いから出来るだけ見つけたいモンスターだ。この暴食イモムシを巡って取り合いになることもあるぐらいで、そのせいで数が激減しているとの噂もある。
「ラッキー? 馬鹿言ってんじゃねぇ!」
そう言って会話に混ざってきたのは、たまに見かけるおじさん。この人も前歯がない。
「レアスキル持ちの冒険者や騎士団と比べたら、俺達の報酬金なんてカスみたいなもんだ。こんな額で満足してちゃいけねぇ!」
前歯がないおじさんBの言う通り、俺達の報酬金は世間的に見たら少ない。俺達がイモムシを狩って喜んでいる間に高レベルのスキル持ちの冒険者はドラゴンを討伐している。イモムシ一万匹狩ってもドラゴン討伐の報酬金には遠く及ばない。
この世界には『スキル』と呼ばれるものが存在している。
スキルには大きく分けて『技術系』と『強化系』の二種類がある。
技術系は『炎魔法スキル』『剣技スキル』など攻撃手段にバリエーションを加えさせるもので、強化系は『攻撃力アップスキル』『素早さアップスキル』など身体ステータスを高めるものだ。
高レベルの剣技スキルと攻撃力アップスキルがあれば、包丁をその場で軽く一振りしただけで斬撃が発生し、モンスターを真っ二つにすることができる。討伐目標を見つけさえすれば、僅か数秒で強力モンスターを討伐できるのだ。
しかし、俺含めて、ここにいる日雇労働者は低レベルのスキル持ちか、そもそもスキルを持っていないのどちらかしかいない。当然、「山に棲みついたドラゴンを退治しろ」と言われても返り討ちに遭うだけだし、最悪死ぬ。
そのため、俺達は今回みたいに「貴族の領地にいる雑魚モンスターが増えて来たから適当に駆除しておいてね⭐︎」という子供でもできる仕事しか任せられない。
早い話、俺達は世間的には見たら「薄給の仕事しかできない底辺」である。
前歯のないおじさんだって、治療スキル持ちの医者に診てもらえば歯を治してもらえる。けれど、出会ってからずっと前歯がないということはそういうことだ。
「あんちゃんはまだ若いんだし、今からでもスキルを身につけて騎士団を目指したらどうだ?」
俺にそう声をかけてきたのは、前歯がないおじさんCだった。
ちなみに騎士団とは王様に仕える騎士のことで、モンスターが街に攻めてきたときに追い返したり、戦争になった際に戦う組織だ。もっとわかりやすく言えば、突っ立っているだけで給料が貰える正社員である。
「いや〜縛られて生きるのは嫌なんで、今の生き方が合っていると思うんすよね」
頭を掻きながら笑う俺。騎士団になるには戦闘で使えるスキルを持っていないと雇ってもらえない。今の俺には戦闘系のスキルがないし、必死に修行して戦闘系スキルを習得したところで、異世界転移した俺は身分を証明できない。騎士団に入れないどころか、騎士団に捕まってもおかしくない。檻の中で生活なんて御免だね。
「そうか……俺があんちゃんみたいな十代に戻れたら必死にスキルを磨くんだがな」
「俺もだ。小さい頃にサボっていなければ家庭を築けたかもしれないのにな……」
「貴族に生まれなかったからって若い頃に諦めちまったからな……」
「今の勇者も農民出身らしいからな。やっぱり諦めない奴が成功していくんだよな」
前歯がないおじさん同士の寂寥感漂う会話が始まり、俺は後退りする。
「そんじゃ、俺はこの辺で失礼します!」
「なんだ、あんちゃん。飲みに行かないのか?」
「今日は野暮用があるもので!」
俺は大きく手を振って、前歯がないおじさん達と別れた。
こんな薄給で飲みに行っていたら、いつまでも金は貯まらない。俺は他の奴らとは違う。今は耐えるとき、それが成功への近道。俺は我慢して成功を手にする大器晩成型の男なんだ。
俺の本業はあんな底辺な仕事ではない。
――『スキル投資家』
それが俺の本業であり、不労所得という夢を叶えてくれる唯一の術だ。
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