第1話 予言と『賢者』と『賢者』の弟子
ある日、魔術国家トートゥルムの『予言者』が、王都に訪れる危機を謳いあげた。
「翼あるものによって、王都リシュタは危機にさらされる」
しかし同時に、それと対になる予言も伝えた。
「『賢者』の手助けを得れば、その危機から脱することができるだろう」
――そうして、『賢者』の元に、王都への召集令状が届いたのだったが――。
「僕は行かないよ」
魔術国家トートゥルムの端の端の端、つまりは辺境にある『賢者』の家の中。
王都から届いた召集令状をつまみ上げ、放り投げた『賢者』がそう言ったので、彼の弟子であるアマネ=アステールは首を傾げた。
「それで済むものなんですか?」
「済むね。僕だから」
投げられた召集令状を拾い上げ、アマネは中身に目を通す。
「でも、なんか『絶対来い、絶対来い、来てくださいお願いします、どうかどうか何卒』って念を感じますよ。王都の危機らしいですし」
「うん。だからアマネが行って」
「は?」
当然のように言われて、アマネは眉根をひそめた。そんなアマネに、いつもの飄々とした態度で、『賢者』は告げる。
「予言はあくまで『賢者の手助けを得れば』って文言だったし、僕自身が行く必要はないってこと」
「ええ……。そんな理屈あります……?」
「予言ってのはそんなものさ。――もちろん、アマネにも利益はある。あるからこそ言ってる」
「……! もしかして、」
「きみの求めてやまない『帰郷への鍵』が来るよ。どれかは確実に。そう予言が謳ったからね」
賢者の言葉に、アマネはこくりと喉を鳴らし、それから自分を落ち着けるように深呼吸をして、『賢者』を見据えた。
「……それなら、行きます。あなたの代理なんて、とっても面倒そうですけど!」
「アマネならうまくさばけるよ。だって君、大体がどうでもいいだろう?」
「……否定はしません」
「そこでちょっと迷うところが、アマネは人間味があっていいね」
「人間やめた人が言うと違いますね」
「人間やめたというか、人間の枠から外されたというのが正しいんだけどな。まあ、それこそどうでもいい」
『賢者』は指を一振りして二羽の魔術の鳥を出し、また一振りして虚空へと飛ばした。家の壁に当たる寸前でその鳥は消え――それが王都へと一気に転移したのだと察したアマネは、相変わらずこの人は化け物だな、と思った。術式もろくに組まずに、魔力を編んだだけでそれを為せるのが、『賢者』が『賢者』たる所以ではあるのだが。
「王都での衣食住は知り合いに頼んでおくから、まあ適当にやって」
「適当にもほどがありません?」
「僕だからね」
それもそうかと納得してしまったので、アマネはそれ以上の問答を諦めて、最低限の荷造りをしに自室へと向かったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます