外交談話
日乃本 出(ひのもと いずる)
外交談話
ここはとある途上国。
ほんの少し前までは、独裁者の支配する社会主義国だったのだが、様々な国の支援によって独裁者を打倒することに成功し、国民主導による民主制が導入され、資本主義への第一歩を踏み出していた。
それを祝うための盛大なるパーティが、途上国内の最も高級なホテルにて執り行われていた。
そんな中、アメリカの外交官と、途上国の外交官が雑談を交わしている。
「やあ。貴国もついに自由社会という素晴らしい制度へと歩み始めましたな」
「ええ、おかげさまで。しかし、何をするにもやはり先立つものが必要です。ですから、まずは産業に力を入れていこうと思っております」
「おっしゃる通り。物事には常にお金がかかる。産業に力を入れるのは至極当然のこと。結構なことですな」
資本主義の先輩という自負心のためか、アメリカの外交官は小馬鹿にするような高笑いをした。
それを途上国の外交官が質問でさえぎる。
「ところで、一つお聞きしたいのですが……貴国の労働者の週給の平均は大体どのくらいでしょうか?」
「大方、四百~五百ドルといったところでしょうな」
「では、それに対する週の支出はどのくらいでしょうか?」
「二百~三百ドルといったところですな」
「ふむ。では国民はその差額を一体どうしているのでしょうか?」
「そこまでは政府の口出しすることではありません。アメリカは、自由の国ですからな。そんなことまで政府が口出ししてしまえば、以前の貴国のようになってしまうじゃありませんか」
アメリカの外交官は先ほどよりも大きな高笑いをあげた。途上国の外交官は頭をかきながら、
「いやはや、仰せの通り。まだまだ、あの暗黒時代の習慣がどこか心の中に残っているのかもしれません。いや、お恥ずかしいかぎり」
「いやいや、それも仕方ありません。長い間の習慣というものはなかなか抜けないものですからな。おお、そうだ。貴国は新しい体制となったわけですが、貴国の労働者の週給はいかほどになりましたかな?」
「そうですな……貴国にわかりやすくドルで表させていただくなら、大体七十~百ドルといったところでしょうか」
「ふむふむ。それでは支出のほうはどのようになっておられるのかな?」
「二百~二百五十ドルといったところでしょう」
それを聞いてアメリカの外交官は愕然とした。
「なんですって? それだと、貴国の国民の生活が立ち行かないではありませんか」
すると途上国の外交官、涼しい顔をしてアメリカの外交官に言い放つ。
「そんなことは政府の口出しすることではありませんし、知ったことでもありません。我が国は、今やアメリカと同じ、自由の国なのですからな」
外交談話 日乃本 出(ひのもと いずる) @kitakusuo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます