コンビニ

すみはし

コンビニ


就職してから誰と会うでもなく、会社と家の往復だった。

会社は皆ドライだし、最近の風潮もありリモートワークをする人も増えている。

うちの会社では総務だけは郵便物なんかの雑用のために出社しなければならないのだけど。


唯一の癒しは家の駅近くのコンビニのお兄さん。いつもマスクをしているが結構なイケメンだろうなと想像している。

仕事帰りには結構そのコンビニに行くことが多く、総務の私は比較的定時に終わるため、お兄さんと時間が被ることがほとんどだった。


その時間帯には私のように通うことが習慣化したような、よく見る顔ぶれの人たちが数人いて、話したことはないが、勝手に親近感を持っている。

仕事終わりらしきスーツのおじさん、スーパーに行くのが面倒臭いと話していた親子、おそらく夜職のお姉さん、飲み会のために週に何度も酒を買っていく学生たち、よく見た事がある人が何人もいる。


最近はお兄さんとは「いつもお疲れ様です」と笑ってくれるようになったり、少しの間雑談を交えたり。

上京して友達がいないとつい嘆いてしまったときには、お兄さんは「大丈夫ですよ! きっとお友達できます!」と慰めてくれた。

かなり気遣われた気はするが、これもまた優しさである。



「そういえば、私明日誕生日なんですよね」


ある日私はお兄さんにポツリと言った。

するとお兄さんは「そうなんですね、おめでとうございます!」と笑ってくれた。


こっちに知り合いもいなくて、祝ってくれる人とかもいなくて、ケーキでも買って帰ろうかと思ったがちょうど売り切れていたので代わりにプリンを買うことにした。

会計を済ませて帰ろうとすると「あー、ちょっと、待ってください」と言って少し店内に行くとゴソゴソと何かを持ってきて、「これ、内緒ですよ」と手渡してくれた。


私が疲れた時によく買っているチョコレートだった。

お兄さんに感謝の言葉を何度も述べつつ、家でちょっといいコーヒーと一緒に味わおうと考える。

帰り際に振り向くとお兄さんは自分の財布からきちんとお金を入れていた。


そして迎える日付が変わる前。

私はせっかくなのでそのタイミングに合わせていそいそとチョコとコーヒーを用意する。


ピンポーン


深夜にインターホンが鳴り響いた。

寂しいことにこんな時間に押しかけてくるほど仲の良い人はいない。

怖さが勝って、何か誰かと間違えたのではないかと動きが止まる。


ピンポーン


ピンポーン


インターホンは何度も鳴り、コンコンとノックの音も聞こえる。


「おたんじょうびおめでとうございまーす」


時計が12時をさし、グループLINEの「誕生日おめでとうスタンプ」がポコポコと気持ち程度送られてくるのと同時にその声は聞こえてきた。


ドア越しに聞こえる声はくぐもっていて、声が誰のものか判別はできない。

ふとお兄さんが頭をよぎる。

その事実を話したのはお兄さんだけだ。

でもこんなことをするだろうか。


ピンポーン


「おたんじょうびおめでとうございまーす」


ピンポーン


「おたんじょうびおめでとうございまーす」


何度も繰り返されるそれに怯えながら、ドアに近づく。

ドア穴から恐る恐る外を除くと、いつも見かける“スーツのおじさん”が立っていた。


「なんで」


私は玄関のすぐ近くで声を上げた。

すると薄い扉の向こうからおじさんの声が聞こえる。


「いつも一緒にコンビニにいるよね。今日、誕生日なんでしょ? おめでとうって気持ちを伝えたくて、サプライズでーす」


ドア越しのおじさんは笑っていた。

ガチャガチャとドアノブをひねる音が聞こえた。


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コンビニ すみはし @sumikko0020

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