第32話 もう一人の幼馴染

「ねぇ美青」

「なに?」

「圭の話聞いた?」

「ああ圭?どしたの?」

「それがさ・・・」


あの圭が所属している男子バスケ部が県大会準優勝したという話は聞いていた。


「圭って2年生で唯一スターティングメンバーなんだって」

「あの圭が?」

美里や美青が知っている圭は、子供の頃から体が弱く、いじめられている子だったし

よく泣く子だったのが、いまではわが校の男子バスケ部でも屈指のプレイヤーだ。


「圭!頑張ったね!」

うちの学校の運動部で準優勝ってのはなかなかレアな出来事なのだ。


「あー、ありがとう」

「なに?不満なの」

「うーん、その、なんつーかさぁ、結局何にも出来んかったよ」

「どういうこと?」

「もう最初っから相手のペースだし、うちのチームも何とかしようとしてたけど

 結局どうすることも出来なかった。準優勝ったってダブルスコアに近い点差だよ?

 それじゃあ意味がないし」

「そっか・・・じゃあまた来年頑張ればいいじゃん」

「美里は簡単に言うけどさ、そう簡単にできるもんじゃないんだよね」

「・・・そっかごめん」

「まぁ謝る事じゃないよ」


その日から、圭の様子が今までと違うように感じていた。

話しかけてもそっけないし、バスケ部の練習に行っているのか?

「あー圭?最近顔出してねぇなぁ」

「あいつは期待されてるんだよ、監督さんやコーチとかにさ」

「そうなんですか」3年生の五十嵐先輩はそう言って、練習に戻って行った。

「とにかく、あいつが練習に戻るように言ってくれないか?高田くん」

「解りました、言ってみます」



どうしたのか解らないけど、とにかく会って話をしないと。


駐輪場に行くと・・・あっ!いた!!美青もいる。

「あー美里!一緒に帰ろう」


「圭・・・あのさ」

「なに?」

「バスケ部の練習、どうしたの?」

「うーん、ちょっと休みたいんだ」

「なんで?五十嵐先輩が言ってたよ、圭は期待されてるって」

「あーその話?」

あまりこの話はされたくないのか、そっぽ向いてしまった。

「そう言ってくれるのはうれしい、だけどさ、それってプレッシャーだよ

 俺はそれほど才能がる訳じゃない、けど練習だけは人一倍頑張ってきたつもり

 だけど、結局あんな結果になってしまったのはキミも知っているだろう?」

「知ってる」

「いくら頑張ってもダメなものはダメって言うことなんだろうと思うよ」

「そうかなぁ・・・」

「美青はどう思う?」

「じゃあ、辞めれば?」

「ちょっと美青」

「だってさ、もう圭は自信を失ってるんだよ。それ以上は無理。そうでしょ?」

「・・・」

「違うよね?圭。もっとできるよね」

「正直解らないんだ。バスケは好きだ、これからもずっと続けたい

 だけどこないだの決勝戦で解ったんだよ。俺たちのチームはまぐれで決勝へ行った

 ただそれだけ。まぁ確かにそこまで行くのは大変だったんだけど、組み合わせだよ 

 結局は」

「だって・・・それは」

「もしいつものような組み合わせなら地区予選で消えていただろうけどね。

 組み合わせってのは、やっぱ有るんだよ」

「ならさぁ、部活でやるバスケじゃなくても出来る所は有るんじゃないの?」

「どういうこと?」

「3x3とか聞いたこと無い?」

「あー知ってる、3人制バスケだろ?」

「そう、そう言うのやってみるってのは?」

「興味は有るんだけどねぇ、部活もやってこっちもって、難しいよ」

「べつに一緒にとは言ってないし」


「とりま、きょうは帰るわ」



「ねぇ美青」

「なに?」

「圭はどうしたら良いと思う?」

「彼の人生に口出しするのはどうかと思うけど、プレッシャーに押しつぶされてる

 そんな感じがするね。期待されているっていうのは、いわゆる圧ってやつだもの」

「すこしでもプレッシャーから解放させてあげるってこと」

「まぁそうだね、美里ならどうしたら良いと思う」

「うーん、解らない。でも少しバスケから離れるってのも有りじゃない?」

「それも有りだと思う。圭が納得するかは別だけど」


幼馴染の圭が苦しんでいる。美里は「なんとかしてあげたいな」と思うのだ。



第32話 完

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