可愛いんだけど。
星之瞳
第1話
「きゃ!
「キャッ、キャッ!」息子の響はメガネが好き。膝に上がってきて私のメガネを取ろうとする。今までも何回かやられて、フレームがゆがんだりしたのを直したりした。
コンタクトにしたいのだが、男の子の育児はとてもハード。ケアも出来ないし、もし外れて響が誤飲したらと思うとコンタクトには出来ない。かといって毎日のようにメガネを取られないように格闘するのも疲れる。響はまだ1歳になったばかり。今はよちよち歩きだからいいが、走れるようになったらどうなることか・・・。
そんなある日。
「ただいま」
「お帰りなさい」
「響はもう寝たか?」
「ええ、ぐっすりよ」私はカバンを受け取りながらそう答えた。
「食事の後少し話がある」主人はそう言うと風呂場に向かった。私は夕食の用意をしながら何の話だろうかと考えた。
食事の後、
「なあ、響のメガネ好きは今も続いているの?」
「ええ」
「恵子はメガネかけないと響の世話できない?」
「え、まあ掛けなくてもある程度は出来るけど、なんで?」
「これ試してみない?」主人はカバンの中からメガネを取り出した。
「これ、100均の伊達メガネ。度は入っていないけどメガネには違いないから、響に取られても大丈夫でしょ」
「それはそうね。メガネを掛けていないと泣かれるし、これなら取られても壊されても惜しくないわね」
「壊れて響がケガをしたら大変だから、それは注意しないと」
「解った、これ使ってみるわ」
「よかったらラインして。何個か買ってくるから」
「ありがとう」
翌日私はその伊達メガネを使ってみた。すると響はご機嫌でメガネを取ろうとする。私は響のするがままにしてみた。すると響はメガネに触るものの引っ張ったりしようとはしない。ずっと眼鏡越しに私の目を見ている。響が何を見ているのか観察してみると、どうやら響はメガネに映った自分を見ていることに気が付いた。
なら・・・。
私は手鏡を持って来て響きを膝に乗せ響に見せた。すると響はじっと鏡をのぞき込んでいる。時々手を伸ばしたりしてご機嫌になった。
鏡に映っているのは自分。でも、響にはそれが解っていないようだ。
手鏡を隠すと、追いかけるようにして泣き出した。また見せると泣き止みじっとのぞき込んでる。手鏡を見せながらあやしていたが、暫くすると疲れたのか眠ってしまった。
そういえば、夜窓の方を見ていたりしてたっけ。窓に映った自分を見てたんだな。
響をベットに寝かせると、私は主人にラインメッセージを送った。
『メガネは大成功、響はメガネに映った自分を見ていた。鏡の方が強く反応したよ。詳しくは帰ってから話すね』
やれやれ、これで少しはおとなしくなってくれればいいんだけど。響の可愛い寝顔を見ながら私はため息をついた。
可愛いんだけど。 星之瞳 @tan1kuchan
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