第7話
手を繋いでデートもした。あーんもした。なのにまだ続いている。いつ終わるのだろうか。
『今日も一緒に帰ろうねっ』
という奏からのメッセージとにらめっこしながら悩んでいた。月曜日の昼休みのことだ。
「今週のジャンプ読んだ?」
クラスメイトの
そんな彼がなぜ優太朗に声をかけるかというと、クラスでジャンプを読んでいるのが優太朗だけだからだ。ツーピースや呪術高校みたいな人気漫画を読んでいる人は何人かいるが、毎週ジャンプを読んでいる人は意外にいない。
豊島が話しかけてくれるから優太朗はクラス内でいじめられていないといって過言ではなかった。
「殺し上手の若君めっちゃおもしろかったよな!」
「ごめん、見てない」
子供のように目を輝かせる豊島に対して優太朗は心苦しいが正直に答えた。
すると豊島は信じられないものでも見たような顔になった。
「なんか悩みあんの?」
何かあったといえばあった。というかめちゃくちゃあった。優太朗にとって女子とデートするなんて人生で一度あるかないかの大イベントだ。
でも豊島には相談できない。優太朗に気軽に話しかけてくることからも分かるように、彼は誰にでも分け隔てなく接する男だ。事情を話したらすぐにでも奏の元に乗り込んでいくだろう。
すんなりいけばいいが、もし解決しなかったら報復が待っている。それに豊島をこちらの事情に巻き込みたくない。
だから優太朗は「なんでもないよ」とごまかした。
「そっか。まあなんかあれば言ってくれよ」
優太朗が嘘をついていることを察しているが、踏み込んでこない。つくづくいい男だと思った。
放課後。
「ねえ、中森と豊島って仲いいの?」
いつものように奏との待ち合わせ場所に行こうとすると、赤髪の活発そうな女子が声をかけてきた。
たしか
「全然共通点ないじゃん? 何話すの?」
「ま、漫画のことを」
「へぇー、アイツ漫画読むんだ」
どうやら豊島のことを聞きにきたらしい。同じバスケ部に所属しているし、ちょくちょく豊島に話しかけている姿を見かける。そういうことなのだろう。
「中森は何が好きなの?」
「やっぱりツーピースですかね」
やっぱりってなんだ?
「豊島は?」
「最近ハマってるのは鵺の魔術師だったと思います」
「へぇーおもしろそう、読んでみよっかな。あっ、そろそろ私、部活行かなきゃ。教えてくれてありがと」
そう言って須藤さんは、分かりやすく去っていった。
優太朗はふぅと息を吐いた。女子との会話をなんとか無事に切り抜けられたという安堵の息だった。
そして吐いた息を吸ってまた吐いた。これからまた女子と喋らないといけないことに対するため息だった。
待ち合わせ場所に行くと奏はいつものように不機嫌面で、うつむきながら地面を蹴っていた。さて今日の怒っている理由はなんだろう。
「遅かったね」
奏は目が合うなり、低い声で呟いた。アタシを待たしてんじゃねえよということらしい。
待ち合わせ時間は指定されてなかったし、彼女より遅くきたといっても数分だ。それで怒られるのは理不尽だという思いだったが、とりあえず荒ぶる神を鎮めるために謝っておこうと思った。
でもその前に彼女が言った。
「あの子と仲いいの?」
あの子? 誰のことだ?
優太朗に一般的な基準での仲いい人はいない。当社比でいいなら一人だけ心当たりがある。
「豊島君?」
「誤魔化すんだ」
違うらしい。他に心当たりなんて……。
「ああ、須藤さんのこと? 別に仲良くないですよ」
「かばうんだね」
ジト目で責めてくる。嫉妬だろうか。
いや、なわけない。僕みたいな雑魚が彼女以外に目移りしているのがイラつくのだろう。とりあえず謝っておこう。
そう思ったが、また先に彼女が口を開いた。
「ごめん、焼きもち焼いてた」
両手を合わせて頭を下げた。彼女のきれいなつむじがこちらを向いていた。
謝られるのは予想外だったので、優太朗はしどろもどろになるしかなかった。
「べ、別に謝らなくても」
「よかった」
一転、彼女の顔に花が咲いた。
「じゃあ、もうこのことは忘れて楽しもう!」
彼女は優太朗の手を取って歩きだした。
こんなにすぐ機嫌が直るなんて、やっぱり嫉妬じゃなかったんだ。
分かりきっていたことなのに落ち込む自分がいて、優太朗は戸惑った。
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