バタフライ・エフェクト
五十嵐圭
第1章 鉱石とフードの世界「イース」
第0話 ビーフシチューは母の味
薄れかけていく僕の記憶。
少しずつ掠れていき、今はその片鱗も残らない、遠い昔の記憶。
緑溢れる田舎だった。
僕とお母さん、そして一人のメイド、たった3人の狭い狭い世界。
広大な敷地の農場には沢山の生き物がいた。ヤギ、牛、羊、ウサギ、多種多様な生き物達だ。昆虫も沢山いた。ムカデ、バッタ、蝶・・・・。
僕はいつもこの農場で遊んでいた。
動物の世話もいっぱいしたよ。
僕は沢山の愛情を注ぎ、生き物を育てた。
時に僕の食卓は変わっていた。
食事をするのは僕だけ。
お母さんとメイドは水だけをいつも飲んでいた。
『なんでだろう?』
目の前のお皿に乗っていたのは、僕が可愛がっていたムカデのステーキだ。
パキパキとした触感と中から溢れるソースが絶品だ。
僕は食事が大好きだ。
そんなある日のこと。
農場で遊んで家に帰ったのは夕方だった。
その日の晩御飯は「ビーフシチュー」だった。
朝、お母さんと約束したのだ。
「レイ、今日はビーフシチューにしましょう。」
「ビーフシチューってなーに?」
「うふふ、お肉を煮込んだ料理のことよ。」
「前に食べた、ヤギのミルク煮に似てるの?」
「そうね、似ているわ。でもきっともっと美味しいはずよ。」
「わーい!楽しみだなー!」
「少し仕込みに時間がかかるの。夕方まで外で遊んでいてね。」
「うん!わかった!!」
そう言って、僕は外に飛び出した。
夕方帰宅すると、なんとも言えない美味しそうな匂いに家じゅうが溢れている。
実は家からだいぶ離れていたところまでもこの匂いが漂っていたから夕方になるまで待ち遠しかった。
木材で作られた器に、肉の塊と野菜が煮込まれた料理がそこにあった。
茶色いソースがかかったこれまでに見たことのない食べ物だ。
「わーい!!おいしそう!!」
「いただきまーす!!」
一口、口に入れるととろけるような肉が何とも言えない味わいで、今まで食べてきたどの味よりも美味しかった。
こんなにも美味しいものを今まで口にしたことがなかった。
ソースの部分も肉に負けないくらい美味しい。二つが絡み合って一層濃厚な味わいだった。
僕はあっという間に平らげてしまった。
その数日後、お母さんは死んだ。
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<世界を傍観する者達の会話>
円卓を囲むように7つの席が配置されている。
6席は埋まっているが、1席だけ空席のようだ。
A『なぁ、餌ってやってるの?』
B『・・・いやぁ、わしの担当じゃないだろ・・・・』
C『・・・ほら、それにしばらくほっといていいって言ってたじゃない。』
A『そうだけど、でもそうしたら死んじゃわない?結構楽しみにしてるんだけど。』
D『いいんじゃない。アタシはそんなに興味ないし。』
A『君は推しがいないからねー。そのうち楽しいことも起こるかもよ。』
D『だといいんだけどねぇ。あーあつまんない。』
Z『・・・・我々だって、水槽の中の生き物かもね。』
E『・・・さて、報告を聞こうか・・・・アヴァン』
アヴァン『・・・』
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