僕らのしあわせの國

第1話 虹の入り口

 僕らは、あの日、夢を見ていた――……。









夏樹なつき、なんしてん?」


「ん?宿題よ」


「あぁ……」


「『あぁ』って、あんたはせんと?」


「……俺たち何語で話してんだろうね?」


「……うん。思った。関西弁でも青森弁でもないよね」


「宿題ははかどってる?」


「まぁまぁ」


「後で……」


「見せないよ?」


「ですよね」


「……ねぇ、遥希はるき清愛きよえちゃんは元気だろうか?」


「俺も今そう思ってたんだよね。なんかさ、清愛って、危うくて、儚くて、ぐらぐら揺れてるってゆうか……なんか放っとけない感じ」


「私、あの子に出逢えて本当に良かったって思ってるんだ。……もう……逢えないんだって思ったら、こうしてる……間にも……」


「……始まった……。何度も言うけど、夏樹、あれは夢だったんだ。俺たちは清愛って言う夢を見たんだ。だから……」


「分かってるよ!」


 夏樹がいきなり声を荒げた。


「……ゴメン……」


「嘘みたいなんだ。嘘じゃないのに……。嘘じゃ……ないでしょ?例え、夢だったとしても……」


「そうだな。清愛は、いるよな」


「清愛は、どうして私たちの前に現れたんだろうね?私、あの子は天使に近いと思う。って言うか、あそこが夢じゃなかったら、天使なんだよ。でも、どうして私たちの前だけに現れたの?」


「……それはもう言わない約束だろ?そんなの、考えたって解る訳ないんだから。どんなに夏樹が学年トップの成績だからってな」


「……私がだから、現れてくれたのかな?……って、それは私を否定しすぎかな?」


「……俺にわかるかよ。の俺に……」


「……何言ってんの。が」


「やっぱお前がからそれを浄化しようとして現れてくれたんだろうな」


「そうなるよね。どんなに話し合っても」












 ―二か月前―


「夏樹!帰ろうぜ!」


「遥希。何。またグラマー見せろって?」


「いや」


「え?違うの?」


「リーダー」


「……それって違うって言うの?」


「言うでしょ」


「……帰るか……」


「おぅ」


 ……ポ……ポッ……ポツ……ポツポツ……サー……ザザーーーーー!!!!!


「キャ――――――!!!!」


「うを――――――!!!!」


「「雨―――――――――――――――――――――!!!!」」


 空は、先ほどまでとは打って変わって、どんよりとした重たい雲とともに、大粒の雨が降り出して来た。


 ――と、その時の事だった。中貫なかぬき夏樹と、広川ひろかわ遥希の二人の目の前に虹が現れたのは――……。


 しかし、その虹は虹ではなかった。明確に、があったのだ。架け橋の端と端は絶対に見えないはずの虹のが、二人の目の前に現れた。二人の時だけが動いていた。それは、周りを見れば一目瞭然だった。二人は、一瞬、何が起きたのか分からなかった。当たり前だ。周りが、――……。二人だけが目を合わせ、手を繋ぎ、虹の架け橋に足を掛けていた。手を繋いでいたのは、決して二人が恋人同士だったからではない。恐らくは、二人ともあまりに突然の事で、余りにあり得ない事で、余りに信じられない事だったから、思わず離れないようにしたのだろう。一人になりたくなかったのだ。ここで離れたら、もう二度と現実には戻れない気がしたんだ。


「は……はる……遥希……」


 夏樹は、もう驚きすぎて、エクスクラメーション・マークも語尾に付けられていない。


「夏樹ちゃん……!なんなんなんですか!?これ!?」


 遥希は、もう誰に話しかけているのか、名前でしか解らない。


 虹の上を駆けあがってゆくと、どんどん周りが白く、濃い霧の中にその身が吸い込まれて行くのが分かった。


「「あ――――――――――――――――――――――――――!!!!」」


















「「……………………………………………………」」

















 ――何分……いや、ほんの一瞬の事だったのかも知れない。だがしかし、二人には恐ろしく長い時間に感じられた。そして、二人は、ふわっと何かに腰掛けるような感覚に触れた。


「「…………き…………」」


「夏樹」


「遥希」


「「いっせーのーで目……開けよう?」」


「「……うん……」」


 二人は、まるで双子のように声を揃えて、息ぴったりに言葉を発し合った。


「「いっせーのーで!!」」


 ――二人の目の前には、何だ、いつもと変わらない、近所の公園のベンチに座った時に見える景色が広がっていた。


「「え?ここ、白鳩ぽっぽ公園じゃん……」」


 二人は、心底安心した。心底胸を撫でおろした。心底ほっとした。







 そして――……、心底、落胆したのだった。






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