とある事情で全国区になった演歌歌手の話
Jack Torrance
世の中何が起こるか分からない
赤井幸二、48歳。
演歌歌手になって早30年。
これまでにリリースしたシングルは36枚あるが売れた曲は皆無である。
特に22年前にリリースした『北国の春は寒かった』はレコード会社が発売するか否かを迷った挙げ句私費を投じて自費出版といった流れで3000枚プレスされたが売れたのは3枚のみである。
買ったのは赤井の母と妹の敏子、それに行き付けの飲み屋のマスターが情に流されて買ってやった1枚の計3枚である。
『北国の春は寒かった』は赤井がどさ回りで北海道の流しの飲み屋を転々としていた時に財布を落としスカンピンで営業を余儀なくされた悲しい体験に基づいて作詞された曲であった。
あらーこの在庫どうするべと赤井本人もびっくりたまげるほど売れなかった。
売れ残ったレコードを貸倉庫で保管するにも貧乏暇なしの赤井だったので貸倉庫の費用の工面もままならず営業の際にロハで配りまくってどうにか処分した。
因みに赤井は本名で芸能活動をしていない。
赤井は紅(くれない)工事という芸名で活動している。
紅は赤井の赤に因んで。
工事は仲本工事の工事から拝借している。
何故ならば赤井はメガネを掛けると仲本工事に瓜二つなのである。
赤井は特番の時のモノマネ歌合戦には仲本工事のモノマネで出演する。
勿論、衣装は純白の体操着である。
赤井はドサ回りやイベント、そして時折のテレビ出演にも全て純白の体操着で出演している。
だから体操着の洗い替えが上下で常備5セット衣装箪笥に吊るされている。
ここで頭が冴えている読者ならばお気付きであろう。
『北国の春は寒かった』をリリースした当時、赤井はランニング、半ズボンという尋常ではない純白の体操着といった出で立ちでドサ回りしていたのである。
暴挙に出たと言われても仕方あるまい。
春と行っても北海道は寒風吹き荒ぶジャパニーズアラスカと呼称しても決して過言ではないだろう。
赤井は私服を買う余裕はなかった。
1ステージのギャラは500円。
テレビもイベントも同ギャラだ。
赤井に付けられた異名はミスターワンコインであった。
ぜってーに売れてやんべ。
そしてユニクロで真っ赤なダウンジャケットを買ってやるんだべ。
赤井は芸能界という大海原で水中で溺死しそうな児童の様にもがいていた。
そこに運命の浮き輪が投げ込まれたのである。
小林製薬株式会社が販売していた【紅麹コレステヘルプ】の健康被害問題である。
【ひるおび】でも1月30日、2月15日、2月23日放送のひるおびプレゼントコーナーで【紅麹コレステヘルプ】を計65個プレゼントしたそうでテレビでも「絶対にご使用なさらないでください」と注意喚起しているが、もう疾の昔に服用開始しちゃってんだろーと思ってしまうのは筆者だけではない筈だ。
結果的に【紅麹コレステヘルプ】は【紅麹これ捨てヘルプ】になった訳でヘルプしてもらいたいのは健康被害に遭った方々である。
ここで紅工事という半ば悪ふざけの芸名が物を言ったのである。
【紅麹】というワードとともに【紅工事】というワードもSNSのトレンド入りしたのである。
紅工事は小林製薬株式会社の手先だと半ば都市伝説的風潮がインターネット上を駆け巡ったのである。
赤井はテレビにラジオと引っ張りだことなり便乗商法で『薬害』というシングルを発表した。
これが当たった!
演歌歌手としては異例のオリコンチャート初登場1位を記録し16週連続1位を記録!
『薬害』は523万枚売れオリコン調べシングル売上至上1位を記録!
年末の大一番【紅白歌合戦】
そこに赤井の姿があった。
真っ赤なユニクロのダウンジャケットに純白の体操着姿。
やったべ、かあちゃん、敏子。
赤井は紅白の舞台で感極まる。
NHKの司会進行のアナウンサーが軽はずみなジョークで赤井に尋ねる。
「紅さんの衣装は燃えるような真紅のダウンジャケットに純白の体操着。紅組なのか白組なのかどっちなんでしょうね?」
ここで赤井はカミングアウトする。
「実はあたくす性同一性障害なんです」
とある事情で全国区になった演歌歌手の話 Jack Torrance @John-D
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