私にだけ見える死体

kao

第1話

 珍しくその日は早く目が覚めた。

 スマホを見ると朝の五時。ギリギリまで寝ている私はいつもなら二度寝をするところだけど、今日はやけに目が冴えていた。眠った時間はいつもと同じで二時頃だったと思う。

 私が朝が弱い理由は夜更かしをしすぎてるせいだ。分かっていてもついゲームをしてしまうんだよね……。毎回朝の不快な目覚まし音を聞いてから早く寝ればよかったと後悔する。その繰り返しだ。

 そんな私の睡眠事情はさておき、今日は珍しく気持ちよく目覚めることができた。しかし睡眠時間はいつもと変わらないわけだから、これは授業中に絶対眠くなるなぁ。ま、眠くなったら授業中寝ればいいか! なんて悪いことを考えながら私は起き上がった。

 このまま家でダラダラしててもいいんだけど、そうすると眠くなってしまいそうな気がする。

 少し考えたあと、私は早めに学校へ行くことにした。たまには早めに学校へ行ってみるのも新鮮でいいよね!

 学校へ着いたのは六時。部活の朝練で登校している生徒はいるが、教室には誰もいないはずだ。今日は私が一番に教室入ることになる。

 数十年に一度あるかないかの出来事ではないか!? そもそも早めに起きるなんてことが今までなかったからもう二度とこんなことないと思うね!

 なんだかテンションが上がってきて私はウキウキ気分で今日のドアを開けた。

 やはり教室には誰もいな――と思ったら、いたわ。うん、いましたね。教室の端に一人。

 私は彼女を見て困惑した。一番乗りじゃなかった悔しい! なんて気持ちが吹っ飛ぶくらいに。

 だって彼女、教室の隅で横向きに寝そべっているんだよ? しかもこちらに足を向けている状態なので顔も全く見えない。

 え、誰!? 怖いんだけど!?

 私は恐る恐る彼女に近づき、横顔を確認する。

椎名しいなさん……?」

 見知らぬ誰かだとか、顔がないお化けとかじゃなくて知ってる人物で安心した。それにしても彼女はどうしてこんなところで寝ているのだろう?

 私は椎名さんとほとんど話をしたことがないから、正直彼女のことは分からない。それ以前に彼女が誰かと話してるところをほとんど見たこともなかった。意図的人との関わりを避けてるような感じだったので、一人が好きな人だろうと思う。

「起きろー!!」

 ぴくりとも動かない。

 おかしい。もしかして寝てるんじゃなくて体調悪くて気を失ってるんじゃ……。

 とにかく脈が動いてるか確認しようと、彼女の手を触る。そのとき手にぬるりとした感触。なんだろうと手を見ると赤い液体がべっとりと手についていた。

 それがなんなのか気づいたのはお腹に包丁が深く突き刺さっているものを見てからだった。さっき見たときはそんなものなかったはずだ。

「うわぁぁぁ!?」

 し、死んで……!?

 どうしよう。どうすればいい。助けを呼ばないと……ダメだ腰が抜けて動けない。

「誰か……」

 そのとき不意に肩に誰かが触れた。

「ひゃい!?」

「なにその変な声」

「え、あ……ゆき

 よく知る声に安堵し振り返ると、何がそんなに面白いのか雪はくすくすと笑ってるいる。笑ってる場合じゃないんだよ!!

「し、死体が!!」

「死体? 何言ってるの?」

 雪は笑うのをやめて、怪訝そうに私の言葉に首を傾げる。

「だってほらそこに!! それに!ち、血が!!」

「そんなのないけど。てか血ってどこに?」

 そう言われて自分の手を見ると血は消えていた。

「あれ……?」

「寝けてたんでしょ」

 雪の言葉に安堵する。そうだよ、早く起きすぎたせいで寝ぼけたんだ。やっぱり死体なんてあるわけないじゃん。

 そう思って振り返ると死体はまだそこにあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る